中編

「も~う! 良樹よしきったらせっかちなんだからぁ……」


 翌日、俺は知り合いのキャバ嬢をお持ち帰りしていた。俺は見た目だけには自信があるからな。女の方から俺に抱かれに来るってもんだ。


「シャワーが先か? それともこのまま押し倒してもいいか?」

「……ん、シャワー浴びたいかも。って、あれ?」


 未空みくが何かに気付く。


「何だか可愛い箱が床に転がってるけど、これ、何?」

「あぁ、昨日占い師のババアに押し付けられた」

「ふーん。良樹って占いなんて信じるんだ?」

「信じるかよ、バーカ。ババアが無理矢理渡して来たんだよ」

「あ、そう。良樹、先にシャワーして来たら?」

「あ、あぁ、そうだな」


 俺は未空に促されるままシャワーを浴びた。この後未空とちょめちょめして、一杯酒でも煽ったらあいつには帰ってもらうか。このままここに住んで俺の事養ってくれてもいいんだがな。


 シャワーでさっぱりした俺は、腰にタオルを巻いただけの姿で部屋に戻る。


「未空ー、出たぞ? ……あ?」


 未空が床に倒れている。


「おい、未空。どうしたんだ? 酔いが回ったんか? ん?」


 倒れている未空の手元には、あの箱があった。しかも蓋が空いている状態で、だ。


「う、うわぁぁ!」


 俺は瞬間的におののいた。しかし、それよりも未空だ。


「未空? 未空、おい! 起きろよ未空!」


 どんなに揺さぶっても叩いても未空は起きない。


「し、死んでいる……」


 俺は占い師の言葉を思い出す。


『その間に開けてしまったら、お前さんは呪われる』


 開けたのは俺じゃねぇ! 未空だ! だからか? だから未空は死んだのか!?


 俺は恐ろしくなってそこら辺にある服を適当に着て、箱を手に家を飛び出した。


「あのババア、こんなもん押し付けやがって!」


 例の占い師がいた場所へ走る。すでに深夜一時だ。いくら新宿とはいえ人通りは少ない。


 この間の路地に行くと、もうすでに全部の占い師が帰宅した後だった。


「ちくしょう、遅かったか……」


 息が切れる。俺は息を整えようとして深呼吸をする。


「あー、ちょっと君ぃ?」

「あぁ!?」


 また、警察官の二人組に声を掛けられた。


 だが今はまずい。家に帰れば未空が死んでいる。


「ちょっとお話聞かせてもらっても良いかな?」

「ちょっ……今忙しいんですけど」

「こんな夜中に? 箱をひとつ持っただけの状態で忙しい? おかしいなぁ。ちょっと荷物検査させてもらえるかなぁ?」

「荷物ったって、俺はこの箱しか持ってねぇよ」

「だから、その箱をね、見せてくれって言ってるの」

「そんなんダメに決まってるだろ」

「何でですかね? 見られちゃ困るものでも入っているのかな?」

「何も入っちゃいねぇよ! だがな、開けたら俺が呪われるんだよ!」

「お兄さん、ちょっと何言ってるのか僕たちには分からないなぁ。その箱、見せてくれる?」

「だぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は話をしていた警察官の顔を殴って逃げた。


「公務執行妨害で逮捕する!」


 俺は全速力で走っていた。後ろからは二人組の警察官が追って来る。


「逃げろ……とにかく逃げろ俺ぇ……!!」


 俺は目的地も決めずに新宿の路地をひたすら走る。


「右……次は左……その次も左……」


 捕まるまいとくねくねと路地を曲がって逃げる。が、しかし目の前にパトカーが現れて俺の行く方向を遮られた。


「容疑者発見! 確保ぉ!!」


 車から先ほどとは違う警察官が二人降りて来て、俺はあっけなく捕まった。

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