箱をもらっただけなのに

無雲律人

前編

「……っだぁ! クッソ面白くねぇ!」


 ガンッと路上に落ちていた酒の空き缶を蹴る。


 俺は今究極的に機嫌が悪い。何故なら、パチンコで五万円すった上に、三年連れ添った彼女には逃げられ、しまいには歩いていただけなのに警察官に職質されたからだ。


「俺はヤクも何もやっちゃいねーよ!」


 なのにあいつらと来たら、俺の持ち物全部ひっくり返して調べやがって。大体乃愛のあも乃愛だ。なーにが「定職に就く気配もないあなたとは未来が見えない」だ! 俺は俺なりにパチプロとして成功して行こうと考えているのに。まぁ、今日も負けたが。


「ちっ。また消費者金融にいくらか融通してもらうしかねぇか」


 俺はアミムのATMに向かって歩いている。ここは新宿の路地裏で、道の端っこには胡散臭い占い師たちが大量にテーブルを出している。


「ちょっと、お兄さん……」

「あぁ!?」


 その占い師のひとりに声を掛けられた。


「ちょっと占って行かないかい?」

「そんな暇も金もねぇよ!」


 俺はそのババアを無視して歩を進めようとした。が……。


「タダでいいよ。お前さんには特殊な相が見えている……」

「ああん? 特殊な相だと?」


 占い師は勝手にどんどんと話を進める。


「この箱をあげよう。一週間開けないでいられたら、お前さんにはこの上ない幸運が降り注いでくるだろう。しかし、その間に開けてしまったら……お前さんは、呪われる。ついでに言っておくと、捨てても呪われるからな」

「ああ? 呪いだと!? そんな非科学的なもんを信じろってか!?」

「信じざるを得なくなるさ。ひひひ」


 占い師は俺の手にぎゅうぎゅうと無理矢理箱を渡す。


 俺は手におさまった小さな木製の箱を見つめた。寸法は横十センチ縦六センチ深さ五センチって所か? こんな小さな箱に何の仕掛けがしてあるってんだ?


「おい! ババァ! ……あれ?」


 占い師がいた所を見ると、もうテーブルも椅子も片付けられていて姿が見えない。


「あのババア、なんか厄介なものでも押し付けたんじゃねぇだろうなぁ!?」


 仕方なく俺はその箱を持って帰る事にした。


***


「……って、この箱どうすっかな?」


 俺はベッドに寝転んで箱を弄んでいた。


「一週間開けなかったら幸運が訪れますだぁ? いかにもインチキくせぇ」


 俺は蓋を開けようとする。蓋には簡易的なロックが掛けられているだけの粗末な箱だ。


『その間に開けてしまったら、お前さんは呪われる』


 占い師が言った言葉が脳裏をよぎる。


「呪い、だぁ? そんなもんこの令和のご時世にあるもんかよ」


 だが、俺は蓋を開けられないでいる。


「ま、今日の所はこのまま放っておくか」


 何となく躊躇した俺は、床に箱を放り出したまま寝てしまった。

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