第2話 逃亡開始

 どのくらいバイクを走らせただろうか、彼女は町外れにある山の近くまで来ていた。


「はぁ....はぁ....ここまで来れば大丈夫....かな」


 先程から気が付いていていたが、スマホがずっと鳴動していた。

 確認してみると大量のメッセージと着信履歴が載っていた。


 両親や知り合いからであった。


「ごめんなさい、お父さんお母さん....」


 もう逃亡犯となった以上、両親とは会えないだろう、ミヤコには家族と決別する決意を固めようとするも、様々な感情が入り乱れた。


「ああああっ....どうしてこうなったの....私の一体何が悪かったの....?」


 先程と同じく、涙が止まらなくなったのだが、その瞬間、ポケットに入れたエボリューション・クリスタルが光り始めたのだ。


「えっなにこれ、クリスタルが....」


 慌てて取り出すと、声が聞こえてきた、イヴァースの物であった。


『やあミヤコ』


「イヴァースさん!? もしかして生きていて....」


 ミヤコは彼の生存を疑ったが、そんな世の中甘くは無かった。


『これを聞いているということは、ボクは死んだか、存在が消滅したということだね、これは録音だ、いいかいミヤコ、君はボクが居なくなったら酷く落ち込んでいるかもしれない、けれど君は強い、一人でも十分やっていけるよ、だからこれだけ言っておく、絶対に諦めちゃダメだ』


 そんなありきたりな言葉を残して、彼の生前の録音は消え去った。


「なによそれ....そんなこと言われちゃ、泣いてるわけにはいかないじゃない....」


 手で涙を拭うミヤコ、そんな彼女の背後を覆い尽くしたのは巨大な影だった。


『お前が闇堕ちしたという魔法少女ミャーコか、単刀直入に言う、我らが悪魔サイドに入れ』


 野太い声が聞こえ、振り向くとそこに居たのはあの薔薇の悪魔とよく似た植物タイプの悪魔であった、全身からツタを伸ばし、今にでもミヤコを締め付けられる体勢であった。


「....マジック・エボリューション」


 彼女は宣言した、魔法少女ミャーコに変身する言葉を。


『なるほど、答えはNOというわけか、なら死ね』


 悪魔は張り巡らせた無数のツタを彼女目掛けて締め上げる、あっという間にミャーコを包み込み、握り潰した、はずだった。


『な、なんだ.......!?』


 どこからともなくエンジンの駆動音が鳴り響く、その次の瞬間であった。


「チェンソーブレードッ!!」


『ぐあああああ!!』


 ツタをチェンソーブレードで抉り、脱出したミャーコは高く飛び上がり、ツタの上を走り出す、彼女の向かう先は奴の心臓部があるであろう内部であった。


『舐めるなよ! 小娘がぁぁぁ!!』


 先程よりも多くのツタを生み出して、自身の体を守る悪魔、しかし彼女を止められる訳が無かった。


複製コピー


 彼女が、そう呟くとなんと大量のチェンソーブレードが空中に浮遊しながら出現する。


「一斉発射!!」


 そして一気にツタ目掛けて発射した。


『あがっ....何故だ! 何故止められぬ!?』


「これで終わりです....さぁ死んでくださいっ!!」


 鉄壁の防御を崩され、隙だらけとなった悪魔は、自らの死期を悟る。


「はぁっ!!」


 そして奴の心臓部があるであろう、場所を一刀両断したのだ。


『....一生後悔するがいい、我らの誘いを断ったことを....もう貴様の居場所などどこにもないということを』


 そんな捨て台詞を残し悪魔の肉体は崩れ落ちた。


 それと同時に変身が解けるミヤコ、顔には疲労と汗が浮かんでいた。


「私は、イヴァースさんの言った通り絶対に諦めないよ、捕まってたまるもんですか....!」


 しっかりとした決意を固めたミヤコだったが、視界が歪んでいくのが分かった。


「あれ....なんだか気分が....そっか、疲れてるんだ私....でもこんなところで倒れたら、まずい....」


 自らの意識が遠のくのが分かり、次に視界がブラックアウトした。




 国際警察、堕落少女ダークネス対策課、日本支部。


 大量のモニターに囲まれた一室、そこには無数の人物がモニターに向かい作業を行っていた。


「センパイ、ダニー先輩っ! 日本でまた堕落少女ダークネスと認定された魔法少女が出たらしいです」


 若い女は、慌てふためきながら、ダニーと呼ぶ若い男に話しかける。


「騒々しいぞヒーリス、堕落少女ダークネスなんていつも通り警察が逮捕して終わりだろ、一体何をそんなに慌ててるんだ」


 この男の名はダニエル・エドワーズ。

 堕落少女ダークネスを追跡し捕縛する専門組織である対策課の捜査官だ。

 捕縛してきた堕落少女ダークネスは百人を超える正真正銘の実力者である。


「ええと、それなんですけどその子に逃げられちゃったみたいなんです、そして正式に我々対策課に出動命令が....」


 そしてこの女の名はヒーリス・メイソン。

 ダニエルと共に堕落少女ダークネスの捜査、捕縛にあたる対策課の捜査官である。


「チッ....めんどくせぇな、何やってんだよ警察は....明日からの休日は返上確定だな」


 ダニエルは忌々しそうな表情を浮かべる、苛立っているのはひと目で分かるほどに。


「まぁまぁセンパイ、これで臨時ボーナスも入りますしちゃっちゃと終わらせちゃいましょう!」


 ヒーリスはやる気に満ち溢れた表情を覗かせるが、ダニエルは先が思いやられていた。


「お前がくだらないミスをしなければな、前回出動した時、堕落少女ダークネスの顔写真を持っていたくせに、本人だと気が付かずに取り逃していたよな?」


「あ、ああっ、あれは寝不足だったから気が付かなかったんですって!!」


 ヒーリスは苦笑いを浮かべながら、必死に弁明するが、ダニエルの耳には醜い言い訳にしか聞こえなかった。


「はぁ、まあいいとりあえず詳細を教えてくれ」


「はい、容疑者の名前は闇崎ミヤコ、十六歳....魔法少女ミャーコと呼ばれていた少女です、罪状は....妖精殺害容疑....」


 ヒーリスは、罪状を見て絶句する。

 無理はない、妖精を殺害するというのは魔法少女でも最大のタブーとされているからだ。


「地方都市の千来市で頭角を現し始めた魔法少女か、罪状はこりゃまたとんでもないな、十六歳には酷な話だが、捕まれば極刑は免れないだろう」


「なんか十六歳で死刑なんて可哀想ですね、私なんて少し同情してしまうかもしれません」


「....相手は凶悪な堕落少女ダークネスだ、安易に同情するのは身を滅ぼすぞ、特にお前は要注意な」


 ついつい同情しそうになっていたヒーリスをダニエルは諭した。


「は、はいっ、気を引き締めていきますっ!」



 堕落少女ダークネス、魔法少女や悪魔という存在が認知され始めてから、その強大な力を用いて犯罪行為を行う魔法少女が現れ始めた。

 それらの魔法少女を堕落少女ダークネスと呼称する。

 彼女たちに普通の人間が敵うはずもなく、途方に暮れていたところ、魔法少女に力を与える妖精達が対魔法金属アンチマジカルの開発に協力してくれたのだ。


 そして完成したアンチマジカルは武器や拘束具に加工され、世間に出回った。

 それと同時期に設立された組織が堕落少女ダークネス対策課である。

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