ダンボール箱

日諸 畔(ひもろ ほとり)

その箱には何が入っているのか

 遠距離恋愛中の恋人から荷物が届いた。

 人が一人入れるくらいのダンボール箱。 

 中身はわからない。予想もつかない。荷物を送るという連絡もなかった。

 携帯電話のメッセージにも返事はない。


 箱はガムテープで巻かれ厳重に閉じられている。

 恋人からの発送物とはいえ、どうにも不審に思い手がつけられずにいた。

 受け取った際に重さは把握できている。片腕でなんとか抱えられるくらいだった。恋人がそのまま入っている、なんてことはなさそうだ。


 何かの悪戯だろうかと考えてもみるが、そんなことをするような人ではない。そもそも、事前連絡なしに荷物を送るなんてこれまでになかった。基本的に真面目なのだ。

 宛名は見覚えのある筆跡。他人のなりすましという説も否定できる。


 中身は気になるものの、恐ろしさが先に立つ。恋人と連絡がつくまで、開封どころか室内に置いておくことさえ拒否感を覚えてしまう。

 結局、しばらく放置しておくことにした。もしも生物であったら腐らせてしまうかもしれないが、それは仕方ないと無理に自分を納得させた。


 三日後。恋人からの返事はない。

 これまで毎日のようにメッセージのやり取りをしていたのにだ。箱とは関係なく、異常事態に思えた。

 恋人の身に何かあったのかのかもしれない。そして、この箱はそれを告げているのかもしれない。

 意を決し、明日まで連絡がなければ会いに行くことにした。交通費や宿泊費はかかってしまうが、そんな場合ではない。


 その夜、寝ていると耳元でなにか声がするのに気が付いた。一人暮らしの部屋で声がするはずがない。一瞬で目が覚め、素早く上半身を起こした。

 枕元で充電していた携帯電話の画面が光を放っている。表示は、恋人の名前。いつの間にか通話状態になっていたようだった。

 安心と不審と眠気と困惑などが混ぜこぜになりつつ、携帯電話に向けて呼びかける。


 携帯電話からは言葉になっていない声が続く。間違いなく、恋人の声だ。しかし、こちらの呼びかけには無反応だった。

 それで確信する。恋人に何かあった。それも、悪い方面の何かが。

 明日までと言わず、すぐにでも出発すればよかったのだ。不安と恐怖が一斉に襲いかかってくるようだった。


 震える手で携帯電話を持ち上げると、いくつか意味のある単語が聞き取れた。

 

 はこ

 あけないで

 あなたも

 はこ

 あけて

 あなたも

 いっしょに

 

 背筋に冷や汗が伝う。

 やはりあの箱だ。

 

 玄関先に置いておいたはずのダンボール箱が、足元にあるのが見える。ぐるぐると巻かれていたはずのガムテープは、全てが剥がされている。


 ダンボール箱が開く。

 悲鳴を上げる間さえなかった。

 隙間から見えるのは、遠距離恋愛中の恋人の横顔。


 


 ダンボール箱は輸送中に開いてしまってはいけない。しっかりとガムテープで巻いておく。

 先日知り合った、近所に住む、恋人とは別の想い人。

 箱に心を吸われた身体は、次なる標的の名を宛先欄へと記入した。

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ダンボール箱 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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