本箱の夢

チャーハン@カクヨムコン参加モード

この場所へ、あなたの本を

 春が近づき始めている3月ごろ、私の住んでいる地域に初雪が降った。ひんやりと冷たい印象を持たせる白い塊を眺めながら私は自室に置かれた箱から本を取り出す。


 椅子に深くもたれながら苦いコーヒーを飲み、少し間を開けてからぺらりと音を鳴らす。緩やかに流れていく時間の中、私は本を読みおえると二冊目に手を伸ばした。


 幼いころから、私のそばには本があった。ミステリー、ファンタジー、恋愛系。多種多様なジャンルを持った本たちはあまり特徴がない私に彩をもたらした。


 あるときは淡いセピア色。

 あるときは心を落ち着かせるような水色。

 あるときは闇夜に輝く黄金色。



 本が与えてくれた色たちは、私の性格にも大きく影響を与えてくれた。本によって分かり合える人と繋がりを生み出し、自分というものを形成することが出来た。

 

 そして――大切なものを私は手にした。


 私の横で、ともに歩いてくれると言う人が現れたのだ。彼とのきっかけは、一冊の本だった。恋愛小説だ。奇遇にも、本に現れる主人公と付き合うことになる人物を繋いだきっかけも本だった。


 私は、彼のことが好きだった。本喫茶でともにコーヒーを嗜みながら過ごす時間も、一緒に古本屋さんへ本を買いに行く時間も、全てが心地よくて愛おしかった。


 ただ、そんな生活にも終わりが訪れた。彼が、地方の国立大学へ進学すると言い出したのだ。一度たりとも相談を受けたことがなかった私は動揺したし、泣きもした。

 

 けど――彼は今も、私との関係を続けている。


 最も、今は交際相手ではない。私は、彼が書いた作品を下読みするという関係を続けている。一緒に遊んだりする訳ではないけれど、共に過ごす時間はとても楽しくてうれしいって感じられるものだ。


 私にとって、彼の夢は私の夢でもあるしね。

  

 私は本をゆっくりと棚の中にしまう。


 一冊分だけ隙間が空いた本をしまうための箱を触りながら、私は願った。


「願わくば、再会するときに――この場所へあなたの本を」

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