十三の巻 謎の選考


    [十三]



 萎縮する参加者達を鉄格子の向こうから見据えながら、貴堂沙耶香は淡々と話を続けた。


【それではこれより、イベントを始めますが……ここで何人かの方々には空洞から出て頂きます。名前を呼ばれましたら、出口までお越しください。それでは始めます。まず、西岡百合様】


「は、はい」


 若い女子がまず最初に呼ばれた。


【大河内和之様、大河内詩織様……それから】――


 そんな感じで、貴堂沙耶香は名前を次々と呼んでいった。

 そして最終的に、10名ほどの者達が呼ばれ、空洞の外へと出されたのじゃった。

 残ったのは6名の参加者と、北条明日香と北条日香里の姉妹、そして、幸太郎と春日井の計10名の者達だけであった。

 幸太郎は出られなかったようじゃ。

 残念じゃのう。いや、幸運と言ったところか。

 はてさて、どうなるのやら。


【鉄格子の外に出て頂くのは、以上でございます。ではこれより、イベントを始めさせて頂きます】


 するとそこで、1人の若い男が手を挙げた。


「その前によろしいですかね?」


 手を上げたのは精悍な顔付きの男であった。

 爽やかな襟付きの長袖服とカーゴパンツという出で立ちで、姿勢もよく、髪も整っており、気品ある佇まいる。

 育ちが良いんじゃろう。


【海藤様、何でしょうか?】


 男はそこで鉄格子の外を指差した。


「なぜ今の方々を外に出したのでしょうか? 理由を教えて頂けませんか?」


【今、外に出て頂いた方々は、中にいる方々をサポートして頂く為です。そして……その家族や深い間柄の方々でもありますので、予備の人員として一旦、外に出て頂きました。何れにせよ、今の方々も我等の管理下にはありますので、ご安心下さい。鉄格子の中にいようが外にいようが、それは同じ事です。それに、今回のイベントはサバイバル……つまり、我が社のリゾート計画の開発権を得る為、皆様方の生き残りを賭けたイベントでございます。どうか……それを理解して頂けますよう、よろしくお願いします。中の皆様はそれを得る為に頑張ってください】


 貴堂沙耶香の無感情な話し方に、この場は静まり返っていた。

 冷徹な響きである為、少し萎縮しておる者もいたくらいじゃ。

 そして、その言葉の裏にある意味も理解したのじゃろう。

 そう、外に出た者達は人質でもあるからじゃ。

 本当に容赦ないのう、この女。

 さしづめ、女帝といった感じか。

 こりゃ相手する男は大変じゃわい。

 


「そうですか……つまり、あなた方の用意したプランを達成できない者に、開発権は渡さないという事ですね?」


【ええ、その通りでございます。ですが、我々もそこまで非情ではありません。トイレや体調不良の際は、ちゃんと対応できるようしてありますので、そこはご安心ください。そして……我々の目的が達せられた暁には、イベントを早めに終わらせる算段もありますので、それも付け加えておきます。私から話せるのは以上です】


 すると男は眉根を寄せた。


「目的? それは開発権じゃないのですか?」


【勿論、開発権もそうですが、それ以外にも、我々には目的がございます。ですが、ここでその詳細をお話しするわけには参りませんので、どうかご了承くださいませ】


 だがこれを聞き、この空洞内にいる者達は少しざわついておった。

 恐らく、参加者の誰もが知らない話だったのじゃろう。


「わかりました。どうやら御社には、色々と考えがあるようですね。いいでしょう……私も御社のリゾート計画に参入できる今回の開発権は、是が非でも欲しいところです。それに従う事としましょう」


【ありがとうございます、海藤総司様。海藤リゾートの次期社長と目される貴方様ならば、ご賛同頂けると思いました。よろしくお願い致します。さてでは、これよりイベントを開始します。それにあたり、参加者とイベントスタッフは、空洞内の中央部にお集りください】


 参加者は互いに顔を見合わせ、動揺を隠せぬまま、中央へと移動を始めた。

 それは幸太郎や北条達にしても同様であった。

 全員が空洞の中央に集まったところで、貴堂沙耶香の声がまた響き渡った。


【では、その場に腰を下ろしてください。これより、皆様の自己紹介を始めてゆきます。まずは参加者の方から、行きましょうか。名前と所属と年齢を述べていってください】


 集まった者達はその場に腰を下ろすと、自己紹介を始めていった。

 まずは最初に声を荒げたオッサンからじゃ。


「自己紹介かね……仕方ない。私は西岡泰造にしおかたいぞうという者だ。NOC建設工業株式会社の代表取締役社長である。年は49歳だ」


 この男はやや人相が悪いが、まぁ我の見立てでは小狡い狸親父といったところじゃろう。

 中背だが、腹が結構出ており、それなりに不摂生をしてそうな感じじゃ。

 また、頭は整髪料でテカテカにし、白髪混じりの髪を全て後ろに流しておった。

 幸太郎が以前、オールバックとか言ってた髪型じゃ。

 こんだけ瑞々しい頭じゃと、埃が付いて大変じゃろうのう。

 こんな埃っぽいところじゃと、そのうち、散る頃のタンポポみたいになってそうじゃ。ウケる。

 我も現世の言葉を覚えて、口が悪うなってきたのう。


「では次は私ですか。私はNST未来開発工業株式会社の代表取締役社長の佐々木達郎ささきたつろうと言います。年は45歳です。よろしく、お願いしますよ……お手柔らかに」


 この男は西岡と一緒におるので、恐らく、つるんでいる奴等なのじゃろう。

 見た目は中肉中背で、髪型も普通で取り立てて特徴はない。

 強いて言うなら、卑しい目をしているところじゃろうか。

 まぁ恐らくは欲深い奴なのじゃろう。


「私は小早川孔明こばやかわよしあきと言います。オンライン事業のIT amuseを運営しているNext Euphoriaの代表取締役兼CEOをしております。年は29歳です。よろしくお願いします」


 この男はかなり真面目そうな奴じゃが、なかなかの好青年じゃ。

 幸太郎くらいの上背があり、なかなかスラッととしておる。

 髪も短く、端正な顔付きをしとった。

 細身じゃが、野営するような軍人ぽい衣服も様になっとるわ。

 我の見立てじゃと、女子にモテそうな落ち着いた雰囲気の爽やかな男じゃ。

 じゃが、今の幸太郎に嫌悪の目を向けぬところを見ると、こ奴も訳アリなのじゃろう。

 するとそこで、日香里が口元を押さえ、驚いた仕草をした。

 どうやら日香里は知っているようじゃ。


「あ、あの人……」


「どうしたの? 知り合い?」


 と、幸太郎。

 日香里はそこで、幸太郎に耳打ちをした。


「あの人、テレビとかネットの配信サービスとかで、よく見ますよ。確か、新進気鋭のIT社長で有名な人です。もう芸能人みたいな感じですよ。有名な女優や俳優とかと、コラボイベントとかもやってますし。あんな方も、このイベントに参加するんですね。後でサインもらおうかな」


 どうやらそこそこ有名人のようじゃ。

 ふむふむ、という事は、女子にモテるのは間違いなさそうじゃな。


「ふぅん。そういや、そんなのいたね」


 しかし、幸太郎は全く興味がない様子じゃった。

 どうでもいいんじゃろう。

 日香里は不満そうに頬を膨らませた。


「三上さん、全然驚いてないですね……というか、無関心ですね。せっかく有名人を見たというのに……」


「まぁどうでもいいからね」


 2人がそんな会話をする中、4人目の男が自己紹介を始めた。


「私は権田宗一郎ごんだそういちろうといいます。大河原和之都議会議員の秘書をしている者です。年は39歳。よろしくお願いします」


 普通じゃ。

 中肉中背で、見た目も普通の疲れた顔をした男じゃ。

 なんというか……ただ単に、仕事の鬱憤が溜まってそうな感じじゃな。

 たぶん、大河原都議というのに、振り回されておるんじゃろう。

 で、その議員はというと、先程呼ばれて外に出ておるので、余計にイライラしとるに違いない。

 顔にそう書いてあるわ。ウケる。


「私は海藤リゾート株式会社、専務取締役、海藤総司と申します。年は35歳。よろしくお願いしますよ」


 この者はさっき質問した奴じゃ。

 もうええわい。


「最後は私ね。私は外資系投資ファンド、APパートナーズジャパンの中津川彩菜なかつがわあやなです。年は28歳です。よろしくお願いしますね」


 この女子は北条明日香や貴堂紗耶香くらいの年頃か。

 割と活発で行動的な感じじゃが……この女も幸太郎に嫌悪感を見せぬ。

 それなりに不幸は背負ってるんじゃろう。

 格好は他の参加者同様、動きやすそうな服装じゃ。

 というわけで、以上6名が不幸な参加者達であった。

 さて……次は幸太郎達じゃが、これに関しては我は流すとしよう。

 スルーじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る