十二の巻 監禁
[十二]
先頭を進む北条は、イベント参加者を引き連れ、ホテルの地下へと降りてゆく。
そして、旧海軍基地の大きな空洞へと、参加者達を案内した。
だが空洞内に入る際、スマホや携帯電話等の通信機器類は、入口に佇む屈強な男達によって、全員が一旦預かられる事となった。
不満そうにしている者達もそこそこいたが、渋々、それに従っていた。
それは孝太郎達も例外ではなかった。
そして、それを終えた後、空洞内へと、参加者は足を踏み入れたのじゃった。
一行はゾロゾロと空洞内に集まってきた。
空洞内は広いので、30名くらいの者達が入っても、十分に余裕があった。
「このホテルの地下に、こんな場所があったのか」
「こんな広い空洞があったんですね。いやはや、驚きだ。旧海軍基地らしいが、何の施設だったのだろうな」
「ここで例のサバイバルイベントがあるのですかね。なかなか大変そうですよ。しかし……これも仕事ですしな」
この空洞を見て、参加者達は口々に驚いている者もおった。
しかし、行き止まりなので、ここで終わりの場所でもある。
何かが起きそうな気配じゃった。
なぜなら、幸太郎達が準備をした時と比べ、空洞内は少々の変化があったからじゃ。
空洞入口には片開きの鉄格子扉が取り付けられ、牢獄のような感じになっていた。
また、何本もの黒い電線が、天井付近の壁を這っており、全体的に違和感が残る空間となっていたのじゃ。
貴堂グループのあの女が、何かを企んでいるのじゃろう。
楽しみじゃわ。
それはともかく、空洞内に全員が入ったところで、北条は口を開いた。
「では皆さん、ここで暫しお待ちください」
北条はそう言うと、空洞の入口へと向かった。
するとそこには、守衛のように入口の脇に立つ、屈強なスーツ姿の男が2名と、その間に立つ、貴堂沙耶香がいた。
「貴堂様、イベント参加者の方をここまでお連れ致しました。これから、我々はどうするとよいのでしょうか? ご指示をお願いします」
「わかりました、北条さん。では後は、こちらで対応致します」
貴堂沙耶香はそう言うと、両脇にいる男達に目配せした。
そして小さく一言。
「始めなさい」
とだけ告げ、この空洞から出たのじゃ。
すると次の瞬間、2人の男達も通路に出て、急ぎ、鉄格子の扉を閉めたのである。
そう、つまり我等は、この空洞内に閉じ込められてしまったのじゃ。
面白い事をする女子じゃのう。
「な!? え? ど、どういう事ですか? なぜ私まで!」
北条はこの突然の展開に驚き、すぐに鉄格子前へと駆け寄った。
そこには、北条を見据える貴堂沙耶香の姿があった。
「北条イベントコンサルティングさん、御社も我々の計画に付き合って頂きます。それが……我が社の意志です」
貴堂沙耶香は冷たい表情で、そう言い放った。
「そ、そんな……」
北条は肩を落とし、青褪めた表情をした。
と、その直後、この場は一気にざわつき始めたのじゃった。
「お、おい……どういうことだ一体! なんで我々が閉じ込められる!」
今のやり取りを見ていた参加者の1人が、大声で非難した。
「そうだそうだ! なんで俺達を閉じ込めるんだよ! 今日はサバイバルイベントじゃないのか!」
続いて、春日井という男も声を荒げていた。
そんな中、貴堂沙耶香は部下の男から黒いナニかを受け取り、それを耳に取り付けたのじゃった。
貴堂沙耶香はそこで話を始めた。
【さて、お集まりの皆様……これより、貴堂グループを代表致しまして、私からお話がございます。どうか、静粛にお願いします】
貴堂沙耶香の冷淡な声は、空洞内に大きく響いた。
イベント参加者達はこの声に驚き、キョロキョロと周囲を見回した。
午前中にゾロゾロ来た貴堂グループの者達は、どうやらこの空洞内に、スピーカーを取り付けていったのじゃろう。
「ふぅん、なるほどね。さっきの貴堂グループの者達は、色々と基地に仕込んでいったようだね。芸が細かいな、あの貴堂沙耶香って人……。この分だと、カメラとかも仕込んでありそうだ……めんどくさ」
幸太郎は溜め息を吐き、天井を見上げた。
そこで、日香里が恐る恐る幸太郎の傍に寄った。
「三上さん、どうしよう……私達閉じ込められちゃったみたい。しかも、北条さんまで……」
日香里はそう言って、不安そうに幸太郎を見た。
幸太郎は貴堂沙耶香に視線を向ける。
「ま、とりあえず……向こうの出方を見ようか。どういう意図があるのかわからないし」
「三上さんて……こんな状況なのに冷静なんですね」
「そうかい? でも、今更ジタバタしてもねぇ……まぁ北条さんから聞いていた話と、だいぶ違う展開だけどさ」
幸太郎はなんでもないように、そう言った。
すると日香里は、興味津々のキラキラした目で、幸太郎を見たのじゃった。
「三上さん……本当に、スパイかなんかじゃないんですか? 最近ドラマとかでやってた、別班だったりして、やだもう……」
「は? そんなわけないでしょ。ン?」
2人がそんな会話をしていた時じゃった。
【お静かにッ! まだ話の途中ですよ!】
この突然の大声に、空洞内の者達はビクッと肩を震わせ、一斉に動きを静止したのである。
今の声には、有無を言わせぬ迫力があった。
この女子……生まれつき、言霊に力があるのかもしれぬ。
大したモンじゃ。
【皆様……大きな声を出し、失礼しました。しかし、今後の説明をせねばなりませんので、暫しの間、お静かにお付き合い下さいませ】
声を上げる者は誰もいなかった。
【では、続けさせて頂きます。さて……皆様に至っては、これより、当社が計画したプランに従い、サバイバルイベントを実行して頂きます。ですが、あなた方に拒否権はございませんので、そのつもりでしっかりとお聞き下さい】
貴堂沙耶香の淡々と話す内容を聞き、参加者の何人かは声を荒げた。
これは流石に、腹に据えかねたのじゃろう。
「なッ!? 拒否権がないだと? 馬鹿なこと言ってんじゃァないよ、君! 幾ら貴堂グループとはいえ、こんなアホなイベントに、これ以上付き合ってられるか! 忙しい中、来ているんだぞ、我々は! 私は帰るぞ、馬鹿馬鹿しい!」
この声を上げたのは、ゴルフでもするかのような格好をした中年の男じゃった。
続いて、その男の隣りにいる、よく似た格好の男も声を上げた。
「そ、そうだ! 私は貴堂グループのリゾート計画に乗れると聞いて、今回のイベントに参加したんだぞ! それがなんだこれは! こんなの監禁じゃないか! 警察に通報してやる!」
この場は騒然とし始めた。
するとそこで、貴堂沙耶香の迫力ある大きな声が、また響き渡ったのじゃった。
【お静かに! 今、声を上げたのは、NOC建設工業株式会社の西岡社長と、NST未来開発工業の佐々木社長ですね! 我々は例の都市開発事業の件で、ある情報を掴んでおりますが、どうされますか?】
それを聞いた瞬間、今声を上げた者達は、息を呑んだ。
どうやら都合の悪い事情があるようじゃ。
容赦がないのう、この女子は。
「なッ……そ、それはだな……」
「え……あ……」
言葉に詰まっているところを見ると、表に出せぬ内容のようじゃ。
この分じゃと、参加者の弱みを相当握っておるのじゃろう。
幸太郎の事も、恐らく、念入りに調べられておるに違いない。
これは大変じゃな。
【反論が無いようなので、このまま続けさせて頂きます。それと、この機会に、他の皆様にも忠告を致しましょう。我が貴堂グループは、参加者全ての仕事やプライベート、それから交友関係等を調査済みでございます。これよりは、そのつもりで各自が行動をして下さるよう、よろしくお願い致します。帰りたければご自由に……但し、相応の対応はしますので、覚悟しておいて下さい】
これを聞き、この場にいる者達は皆、青褪めた表情になっておった。
どうやら、ここにいるのは、叩けばホコリが出る者達ばかりのようじゃ。
完全に萎縮しているわ。
貴堂沙耶香、なかなかの女子じゃ。
しかし……ちと、やり過ぎな気がするのう。
ただの催しで無いのは確かじゃが、真意が見えてこぬ。
一体何の為に、ここまでするのかがわからぬの。
貴堂沙耶香の目的は何なのか?
幸太郎はどう見ておるかな。
【さて、それでは皆様、本題に入りましょうか】――
そして、重苦しい催しが、幕を上げたのじゃった。
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