七の巻 裏の思惑

    [七]



 輩共を『ちょっと睡魔閃すいません』で眠らせた幸太郎は、そこで奴等の素性を調べ始めた。

 幸太郎は輩のポケットに手を入れ、所持品の確認をしてゆく。

 すると、幾つかの小物が出てきたのじゃった。


「ふぅん……持ち物は、財布とスマホと折り畳みナイフか……刃物を持ってるのが、如何にもって感じですよね。何者でしょうね、コイツ等」


「やだ……ナイフ持ってる」


「ナイフ……」


 北条と北島は、ナイフを見て息を飲んでいたが、幸太郎はお構い無しに調査を続けていた。

 すると程なくして幸太郎は、輩の財布の中から、運転免許証を見つけたのじゃった。

 幸太郎はソレを手に取り、暫し眺めていた。


「へぇ……コイツ等、神奈川から来たのか。でも、カタギじゃなさそうですね。ヤクザか、半グレかな。ガチのモンモン入れてるし」


「ヤ、ヤクザか、半グレ……なんでそんな人達が……」


 幸太郎は淡々と話しておるが、2人は少し萎縮しておった。

 どうやら狼藉者と知って、脅えておるのじゃろう。


「ついでなんで、スマホも調べてみますか。ん? ……このスマホ、顔認証だな。じゃあ、ちょうどいいや。本人達に解除してもらうかな」


 幸太郎はそう言って、輩の顔にスマホを近づけ、認証を突破した。

 続いて、輩達のスマホを操作し、中を調べ始めたのじゃった。

 手慣れておるのう、幸太郎は。


「あ、あのぉ……三上さんて、何者なんですか? 妙に手慣れてるというか……本当にスパイみたいなんですけど。やだ……凄い」


 驚きと興味が入り混じったような表情で、北島は幸太郎に訊ねた。

 まぁ気になるじゃろうな、この女子なら。

 こういうのが好きそうな感じじゃし。

 普通の者ならば、こうはいかんからのう。

 案外、変わった女子である。


「ん? 私ですか? ただのバイトですよ。北島さんと同じね」


「それはそうですけど……でも、三上さんは雰囲気がちょっと違うんですよね。こんな状況なのに、自然体なので」


「俺はこう見えて防衛大出身なんでね。危機的状況に多少は慣れてるだけですよ」


「それはそうなんですけど……」


 幸太郎はそこで、訝しげに北島を見た。


「ん、どうかしましたか?」


「いや……何でもないですよ。ただ、なんで北島さんは、このイべント助手に応募したのかなって思っただけです」


「そ、それはアレですよ。お金が一杯貰えるからですよ。それに私はこう見えて、護身術で合気道もやってるんです……そんなに強くはないですけど……」


 北島は少し慌てた様子じゃった。

 何かありそうじゃ。


「三上さん、北島さんはアウトドア好きで、尚且つ、合気道をしているみたいでしたので、採用したのですよ」


 と、北条が補足してきた。

 じゃが、幸太郎は何かに気付いたようじゃな。

 こ奴の顔がそう言うておるわ。


「ふぅん……そういう事ですか。なるほど」


 しかし、幸太郎は受け答えも、落ち着いたもんじゃ。

 10年前はかなりオドオドしておったが、今じゃ相当な手練れじゃな。

 これまで何回も厄落としをしてるので、こういう荒事や状況に慣れてきたんじゃろう。

 まぁとはいえ、基本的に、どうしようもない悪人にしか、溜まったおぬの気をお裾分け出来ぬからのう。

 その辺は開き直っておるのかもしれぬ。

 つまり、こ奴はある意味では、世直しのような事をしておるのじゃな。

 あまりにも不幸な奴が、全然関係ない悪人を成敗とは、これまた皮肉にも報われぬモノじゃが。

 まぁそれはともかく、幸太郎はどうやら、目当ての情報と遭遇したようじゃ。

 意味ありげに微笑んでおるわ。


「そういう事か……やっぱりな。SNSのやり取りを見る限り、コイツ等どうやら、真黒田まっくろだ興業の若い衆みたいです」


「真黒田興業……何の会社ですか?」


「え、真黒田興業? さっきヤクザとか言ってませんでしたか?」


「ええ、ヤクザですよ。まぁよくある、暴力団のフロント企業ってやつですね」


 それを聞き、北条と北島は、少し蒼い表情になった。

 厄落としをしていると必ずと言っていいほど、こういう輩に遭遇するので、色々と事情に詳しい幸太郎であった。 

 不幸な男じゃのう。

 まぁ我の所為じゃがな。ほほほほ。


「真黒田興業は確か、関東神狼会傘下の三次団体の暴力団だったと思います。でも、三次団体とはいえ、ここの組長は、神狼会の若頭がいる二次団体の子分なんで、ちょいと面倒な輩なんですよ。まぁそれはともかく、SNSを見る限り……コイツ等は使いパシリってところでしょうね。たぶん、何者かから依頼を受けて、このイベントに追い込みかけてるんでしょう。北条さん、何か心当たりあります?」


 じゃが、北条は首を横に振った。


「し、知りません。暴力団に狙われるのだって……今、初めて知ったんですから」


「北条さん……どういう事なんですか? なんで暴力団が……」


 北島は恐る恐る訊ねた。

 しかし、北条は無言で頭を振るのみであった。

 本当にわからぬのじゃろう。


「コイツ等は多分、理由までは知らないと思いますよ。でも、ある指示を受けてはいますけどね」

「ある指示……って一体……」


 幸太郎はそこで、北条にスマホの画面を見せた。


「これ見て下さい。SNSのやり取り見た感じだと……イべントで得られるココの開発権をNOC建設で確約して来いって指示を受けてますよね。これ、どういう事ですか? ここって行政の管理区域だと思うんですけど」


「開発権ですって……なんでその事が……」


 北条はそれを聞くなり、大きく目を見開いていた。

 こりゃ、確かにきな臭いわい。 


「実は俺……今回のイべントについて、少し調べたんですよ。そしたらこのイべント……どこにも告知されてないんですよね。突如、降って湧いたようなイベントだったので、引っ掛かってはいたんです。もしかして……なんかヤバそうな案件が関わってるんですか? それに……この辺り一帯の土地を貴堂グループが買収してるって話もありますし……何かあるんですかね?」


 幸太郎の言葉を聞き、北条は少し青醒めた表情になっていた。

 そして、諦めたように肩を落とし、ボソボソと話し出したのである。


「三上さんは既に、色々と調べておいでなのですね。他言はしないと約束できますか?」


「安心して下さい。私の口は堅いので」


「わ、私も口は堅いです」


 北条はそこで、輩達に視線を向けた。

 幸太郎はそれを見て察したのか、北条に微笑んだ。


「大丈夫ですよ、北条さん。私の催眠はそう簡単に解けませんから。それは安心してください」

「わかりました。ですが、三上さん……お話しする前に、1つ訊かせてください。貴方はもしや、何か目的があって、このイべントの助手に応募したのですか?」


 幸太郎も諦めたように頷いた。

 信用を得る為に、ある程度は話すつもりなのじゃろう。


「目的は勿論ありますよ。ですが、私はそういった大人の事情とは無関係です。それに、北条さん達に迷惑かけるつもりもありません。俺の目的はただ1つ。ある人物を探してるんですよ。ただ、それだけです。まぁそのついでに、報酬も頂くつもりですがね」


 あっけらかんと話す幸太郎に、北条や北島はポカンとしていた。

 予想外の言葉が出てきたからじゃろう。


「え? 人探し……ですか?」


「三上さん、誰かを探してるんですか?」


「まぁそんなところです。イべントの参加者の中にいるのかもしれませんし……もしかすると、いないのかもしれません。なので、その辺はまだわかりませんけどね。まぁとりあえず……人探しは人探しですよ」


 上手いこと言うのう。

 まぁ確かに人探しではある。

 誰かは知らぬがの。ほほほほ。


「そうだったのですか。わかりました……ではお話ししましょう。実は……ここだけの話なんですが、今回のサバイバルイべントはただの催し物ではないんです。この地のリゾート計画を進める貴堂グループが後援となっているのですが……実は主催なのですよ」


 幸太郎の言うとおり、裏があったようじゃ。

 案外、幸太郎が言っていた通りかもしれぬのう。

 この貴堂グループが関与しておるので、幸太郎は引っ掛かったらしい。

 厄落としを今まで何回もしてきたが、幸太郎は事ある毎に、その名前を目にしたそうじゃからの。

 むぅ……面白くなって来たのう。

 さて、何が出てくるか、楽しみじゃわ。

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