第52話 レトファリック、魚の狩猟講座を行う。落語「枯山水」
女の子のエルフは少しずつバタ足が上達し早くなっていた。
「水中で吐いて。腕の回転と息継ぎのタイミングを合わせて。そういい感じ。じゃあそのまま正しい姿勢をキープ。そうよくできてるよ。」
女の子のエルフも少し水に慣れたようだった。
「少し泳げるようになりました。ありがとうございます。私、メリーって言います。覚えてください。先生。」
エルフから好意を寄せられレトファリックは照れていた。
「でも僕はNPCだからこの国じゃあまり立場がないだろう。プレイヤーの君の方がよっぽど将来がある。」
メリーは彼の言葉を否定した。
「そんなことないです。先生はすごいです。この前も溺れた人を助けたところを見てかっこいいなって思ったんです。」
レトファリックは頬を赤らめながら言葉を付け足した。
「まあ僕はNPCの立場を今よりも良くするために教師になろうとしてるんだけどさ。」
メリーは彼に声援を送った。
「応援してます。頑張ってください。」
レトファリックは嬉しくなった。
「ありがとう。」
色んな生徒と会話をしながら、クロールや潜水の仕方を教えていた。
「クロールはみんなできるようになったね。次は潜水だ。意識するのは足の位置だ。逆立ちをするように足を上に向けよう。足の動かし方も波を打つように滑らかに動こう。」
「「はい。」」
潜水の練習をしていると、ビーチの近くにいた子供たちも集まってきた。ツキレニーが彼に聞いた。
「レトファリックさん。彼らも水泳教室に参加したいみたいです。いいですか。」
彼はすぐに了承した。
「いいよ。君たちも泳げるようになりたいの。嬉しいね。」
新しく生徒になった人が彼に話しかけた。
「お願いします先生。」
引き続き丁寧に泳ぎ方、潜り方を指南した。
「先生、先生に習った潜水技術を生かして魚がもう少しで取れそうです。」
「おお。それは朗報だね。あれちょっと待てよ。」
レトファリックはその言葉を聞いて何かを閃いた表情をした。
「そうだ。魚の獲り方を教えてもいいんじゃないか。」
ツキレニーは彼の言葉に賛同した。
「いいですね。魚を生で獲ることに興味があるエルフもいるかもしれません。」
彼はビーチにいる近くの人に宣伝した。
「水泳、潜水得意な元人魚が魚の獲り方教えるよ。ツキレニーさんも銛集めお願いします。」
ツキレニーは街の方に銛探しと宣伝をしにいった。
数時間後、
「17人集まりました。」
レトファリックとツキレニーの宣伝の効果もあり、17人もの新しい生徒が来ていた。
「水泳教室に集まった人が20人、魚の狩猟講座に集まってくれた人が17人合計37人。よし、35人超えたぞ。」
レトファリックは念願の教師になれると知り嬉しかった。
「じゃあ魚の狩猟講座を始めるよ。まず銛を持つよ。」
彼は銛を持って生徒たちの方を向いた。
「取り方は先のとがった棒をゴムの力で飛ばして捕まえる。大事なのは銛の飛ばし方だ。魚から見えない方向から魚の挙動を読んで綺麗に刺す必要がある。」
生徒の皆は潜りながらレトファリックの動き方を観察していた。
1匹獲っては、捕まえてすぐに銛から魚をはずしまた1匹。丁寧で素早く魚を捕まえていく。生徒はその様子を見て驚嘆していた。
「よし。じゃあ次は君たちだ。この辺は石鯛が多いから捕まえられるといいね。」
その後も魚の狩猟方法を教えていった。
授業が一通り終わりレトファリックは皆に署名をお願いした。
「今日は僕の水泳教室、銛を使った魚の狩猟講座を受けてくれてありがとう。それで、実は僕もこの国の教師になりたいんだ。よかったら署名してくれませんか。」
子供たちはレトファリックの授業が面白かったのかいい返事をした。
「いいよ。先生の授業面白かったし。」
「水泳教室をやったエルフの先生なんて今までいなかったから楽しかった。」
子共たちからの署名は終わり気づけば37人分集まっていた。
「やったー。これは宝物だ。」
その日の帰り、ツキレニーさんと一緒に37人分の署名をシャトール教師申請窓口に提出した。
「申請完了しました、署名用紙をどうぞ。」
9月12日の夜は、ひたすら生徒たちからの署名用紙を眺めていた。
「僕も先生か。よし、NPCを迫害から救って自由を手に入れるぞ。」
そのころ、第2サーバーVARMARD PARADOX、アニープ都
獅子川らは自分のチームを集めるため、面接を行っていた。
「さあさあお立合い。落ちこぼれの落語家が創作落語を執り行うぞ。」
これは20人目の面接、今までの者はチームメンバーから落選していた。
突然の落語に瀬高は動揺していた。
「あ、あ、あのー貢献できるスキルを見ているのですが。」
式部も彼を止めようとした。
「おいおい。お前の強さと筋肉がどんなもんだって聞いてるんだが。」
血潮見はクリエイターなので面白そうに見ていた。
「落語か面白そうじゃん。俺好きだよ。こういう色物系。」
獅子川が瀬高、式部に提案をした。
「まあ面接の趣旨に全くそぐわないのもイレギュラーで面白い。見てみようじゃないか。」
男は落語を始めた。
「櫻木命斗です。では始めます。枯山水。」
櫻木は手を作り石を触るような仕草をした。
「僕は子供の神さま。暇なので枯山水の石全員に意志を宿したらどうなるか。試してみる。」
石は突然命を宿した。
「俺は石川。あの曲がり角にある石に惚れちまった。あの燦然と佇む石。君名前は。」
「石子。あなたも中々のいぶし銀な石ね。私を見つけるセンス気に入ったわ。」
石子と石川は付き合い始めた。
「僕、神様は石が動けるようにした。石は動き出した。」
「動いちゃダメ。私たちはピサの斜塔。動かないからかっこいいのよ。」
石子は近づいてくる石川を止めた。
「でもこの気持ちが止まらない。今すぐ君と石削りがしたい。」
「だめだ。石川、枯山水は位置がずれてはいけない。どの位置から見ても見えない石が存在するから売れているんだ。」
枯山水のトップ、石沢も石川を止めた。
しかし、石川は話を始めた。
「でも想いが収まらない。」
すると嫌みな石田見が話しを始めた。
「この石の中に枯山水に不必要な石がいるよな。そうお前石沢だ。お前がいなくてもどの位置からでも隠れる石は存在するんだよ。お前は動いていいぞ。」
石田見の話しを聞いて石沢は動き出した。
「やった。動けるぞ。俺だけは動いてもいいんだ。」
石田見は嫌みを言った。
「まあ不必要のいらない石だからなんだけどな。」
それから石沢は石子と不倫を始めた。
「おい。石削りをして愛をはぐくむな。石子―。」
石子は動ける石沢にときめいていた。
「動ける石だからいくら触ってもいい。それって素敵。」
石沢も石子に夢中になっていた。
「どうだ。俺の石気持ちいいだろ。」
すると石田見が動き出した。
「石川はちゃんと仕事してるのに石沢はサボって石子とイチャイチャってか。お前ら許せねえよな。一か所に集まるぞ。」
石田見の言葉を聞いて石が動き出した。石同士が中心に固まり始めた。
「お前ら中心に集まって何をするつもりだ。」
「おい。これで石川、お前がいなくても枯山水のどこからでも見えない石があるという事実は変わらないぞ。」
「ありがとう、石田見。いーしーざーわー、くらえ。ロックバズーカ。」
石川は石沢を倒して転がした。
「強い石川さん、素敵。」
「石子さんへのこの想い枯れることなし。」
石田見が嫌みを放った。
「石子はお相手は誰でもいいんだな。」
「石川は石子が他の石に気移りしないように男磨きのために石削り美容外科に赴いた。」
石川は美容外科のドアを開けた。
「石川さんですね。石削り美容外科治療の料金はえーと。トクトクトクトクトクトク。」
お金をそろばんのように手で数える。
「合計5万円となります。」
石川にとっては大金だった。
「高いな。どうにかしてお金を集めないと。」
石川はあることを閃いた。
「そうだ。俺は枯山水の選ばれし石なんだからパワーストーンとして身を削って売ってみればいいじゃないか。」
石川は自分の身を削りパワーストーンとして売った。
「しかしめっぽう客は来なかった。通りすがりの客が言った。枯山水の石だとしても他の石と見分けがつかないじゃない。なんか特別な事でもできるの。」
石川は通りすがりの客に答えた。
「で、できますよ。えーと私の石は神聖なので鳥から糞を落とされたことがありません。」
「たまたまでしょ。石川は作戦を変えてお金持ちの庭の石の面接に行った。」
「えーよろしくお願いします石川さん。面接は私岩蔵が務めます。石川さんはあの枯山水の石ということで、優秀な石だとは思います。何か特技はありますか。」
「石としての佇み方ですね。何か意味があっておいてあるようなノスタルジックさを出せます。」
「合格です。石川は見事合格し、庭の石としてお給金をもらい石削り美容外科の治療を受けた。」
石川は石子と再会した。
「石子、ブラッシュアップした石を見ろ。」
石子は石田見と会話で盛り上がっていた。付き合っているようだった。
「石田見、なぜ石子と仲良くしている。お前だけは味方だと思っていたのに。」
「いやー好きな映画の話で意気投合しちゃって、実は誕生日プレゼントもこの前もらったんだ。特大のチョコだった。」
「俺は何のために男磨きをしていたんだ。」
石田見は石川の話に答えた。
「石川がいない間石子寂しかったみたいだぜ。男磨きは大事だがまずは中身を磨かないとな。」
「石子また俺と付き合ってくれ。男磨き頑張ってたんだ。」
石子は石川の体を見て興奮した。
「いいわ。石川さんあなた本当にいいからだになったわね。好き。」
石田見は石子の切り替えの早さに呆れた。
「乗り移りはや、魔性の女だな。」
「この想い、朽ちることなし。」
櫻木は落語を終えた。
「これで落語、「枯山水」終わります。」
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