第35話 峰未雨、拳銃でレナリアを脅す

操作画面には、ゲームボードのボールの位置が表示されており、意識指示を送る対象を一つお選び下さいと書いてあった。その横には、ホラノイノスラバリウレム 3126kg、ゲラリオザラミバ 24.7kg、ジジベム 53㎏と3体のモンスターの名前と体重が書かれていた。


「なぜ今まで寄生したモンスターを選択できるんだ。レナリアがボールを突く前に防御しないといけない。まあ、無難にこいつにしとこう。」


思考を巡らせ、レナリアを警戒してとりあえず最も強いホラノイノスラバリウレムを選択した。


レナリアは相手の後出しのルールへの適応に驚いていた。


「squi。演算終わってるよねー。」


「ボールはスペードの1を選択する。squiからボールを一つ選んで操作するとしか言われてないから確証はないが上手くいけば得点されずに済む。」


「謝罪した人に寝首をかかれた。やっぱり人間はよく自分を正当化させる。性格が悪いねー。」


レトファリックが瞬時にスペードの1にモルホデフタを寄生させた。レナリアが銃をスペードの1に向け演算能力を使用し、銃がレナリアの腕を動かすように位置を決め、白い手球に当てた。


結果、スペードの1の端に手球が当たった事でボールは回転し後方のダイヤの3のみに直撃した。ダイヤの3は端の穴に落下。スペードの1は微動だにしなかったが、レナリアはもう一度球を打てる状況になった。手球はハートの5に並ぶように横に止まった。

〔オートビット・レナリア 3-0 挑戦者 レトファリック、Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


レトファリックはボールの軌道があまりに常識から逸脱している事に納得できなかった。

「はあああ。ビリヤード球が回転して一番後ろのボールだけ落とす所なんて見たことねえよ。」


「squiが事前にスペードの1が重くなった分を計算に入れただけですよー。squiの演算能力はボールに打つ直前まで変更できる優れもの。」


レトファリックと田芽助はこの時点で敗北を悟ってしまった。


「降参したいレナリア。squiの演算能力がこんな魔球を生み出すとは思わなかった。出直してくる。」


「まだゲームは始まったばかりですよYobaseさん。僕もスキルが使えるか試してみます。FONUMEES SKILL BALLテママリナネット。」


〔六衛田芽助所持FONUMEES ダイヤの3  テママリナネットの10体に憑依し、操作及び一体化する能力を今回のゲーム専用スキルとして使用。能力 相手のターン中、ダイヤの3から平行線にある一定の広い範囲にあるダイヤの3以外のボールを全て動かす事ができる。メニュー画面から対象のボールのみを上下左右の丸いマークを押して操作する。最大1分後までの操作をストックできる。途中でボールが落下したら、相手の得点となります。〕


「あれ。これまずいですね。ダイヤの3がさっき落下したからメニュー画面から操作できるボールが一つもない。」


レナリアは一ターン目にして勝利を確信して笑みをこぼした。


「私の勝ちだねー。squiが要れば百発百中。負ける事は無いんだからー。」


レナリアがゲームボードを移動して、再び手に持った銃を操作して白い手球を動かそうとすると、峰未雨がレナリアの後方から拳銃を構えていた。


「人間はNPCとは違い生物なんだ。過酷な戦場が存在するのだから、当然殺しもある。」


レナリアはその場でただ笑っていた。


「撃ったらゲームが続行出来ないんだから君達の負けだよー。しかも拳銃なんて第二サーバーの代物此処にすぐに持ってこれる訳ないじゃーん。偽物だよね。」


それを聞いた峰未雨は手に持った拳銃の銃口をレナリアの顔に当てた。


「剣や槍のみの戦国時代とは異なり現代の武器も使えなければ強者にはなれない。」


「顔に向けないお人良しから撃てないよね…。」


峰未雨もNPC相手に銃口を向けたくは無かったが、これも作戦だった。


「レナリア。貴方はこのデスゲームに参加したら危険だ。人間と共に生きるより休んでいた方がいい。汗が出ている。」


レナリアは過去のトラウマを思い出してしまい額から汗が出ていた。

しかし、彼女はそれらの過去を糧にして自然な表情に戻り、峰未雨の要望に答えた。


「拳銃を向けてくる人間を見てこいつらは道具を持った事が特徴の獣人だって思ったの。私は必ずこのゲームに勝利し続ける。このDESSQから人間が全て奴隷になって死ぬまでね。」


レナリアは峰未雨を無視して、再び白い手球に四角棒が出る銃を向けた。

しかし、言葉とは裏腹にsquiの全ての演算が終了する前に銃を発射してしまっていた。レナリアがボードを見ずにsquiの能力に任せたため、演算能力により手球には当たったものの、白い手球は穴に落ちてしまった。


「あれ。ボールが落ちた。なんで。なんでよsqui。前回手球を打った時点で演算すればいいのに。」


レトファリックは、レナリアの顔色を確認し、視界が狭まっていると気づいた。


「よく見ろレナリア。ゲームボードのボールが動いている。」



実は、レトファリックらは始めから、メニューにある操作画面のFONUMEESの描かれたボールをタップできる事からトランプカードに該当するFONUMEESを使用できると気付いていた。4人で能力を想定して話し合った結果、テママリナネットを活かす方向性に決まっていた。また、テママリナネットが話した内容から擬態系と読みゲームで応用するならボールなどの物体に紛れる能力だと予想して緊急時にはモルホデフタのアイテムに寄生する能力を活用しようと考えていた。


「NPCのレナリアはゲームに集中していない。人間への復讐目的だ。峰未雨、心の傷を抉るのは酷だと思うが、相手のターンを終了させる方法は多い方がいい。頼む。」


最もレナリアを威圧できそうな峰未雨に拳銃を手渡した。


レナリアは目の前の現実が受け入れられずにいた。


「どうしてですか。テママリナネットの能力はダイヤの3を落とせば使用できないと伝わっていますけどねー。しかも私の手球を突く準備中にクラブの7の能力でボールを穴から移動させて元の位置に戻すなんて絶対ルールに抵触してますよ。」


鯱千が一仕事を終えたように額の汗を拭いレナリアに反応していた。


「ルールを律儀に守ろうとするのは可愛いねレナリアたん。初見で見えないゲームボードの穴の内部からクラブの7を操作できたの凄くね。田芽助のは導線を利用して手球を落としただけだしさ。」


田芽助が鯱千の言葉に反応し指摘していた。


「鯱千さんが一番貢献してますけど、10個のボールを操作するのだって難しいです。万が一穴に落としたら、ゲームの性質上、得点になるかもですし。」


レトファリック達4人は対戦前に話しあった作戦を一通り終えて、満足そうな表情だった。


「悪いがレナリア。ルールには手球を所定の位置を置く前に、道具を使用してボールに当ててはならないとしか書いていない。人間はマナーがなってないからルールの穴を勘繰る癖があるんだ。FONUMEESの能力と様々な道具を見て思ったよ。ゲームマスターからこの行為は許されている。その証拠にsquiから違反の文字が表示されない。」


〔NONUMEES GAMEサイド、レナリア様。手球が穴に落下したため、お手付きとなります。3ターン目からのゲーム参加となります。〕

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