第36話 峰未雨レナリアを抱きしめる、レナリアゲームから離脱

お手付きとなったレナリアは動揺して顔を見られたくなくなり、その場から離れ蹲ってしまった。峰未雨が自分のせいだと思い、仲間に視線を送ると、田芽助が反応した。峰未雨と二人でレナリアに近づいていった。


峰未雨は人見知りなので田芽助が、レナリアに話しかけた。


「あのー。」


「レナリアさん。拳銃は僕も怖いです。トラウマを思い出して失神されるかもしれないと考えた上での行動です。本当にすいません。」


「黙って。今の内に能力を試しているんですよね。これも時間稼ぎ。人間は集団になると周到深くなる。仲間のNPCもそうやって殺されました。」


レナリアが頭を抑えて耳を塞ぎ始めたのを見て峰未雨に任せた。


「これではゲームが続行できません。しかも男性の自分では心を開きそうもないです。だから峰未雨さん。貴方に彼女を任せます。」


峰未雨は彼女の頭ではなく腹を抱きしめていた。


「やっぱり頭より体が冷えてる。集団でないと戦は起きない。」


「なぜ敵の私を慰めているんですか。理解できません。」


「レナリアさんの言っている事は分かるよ。集団で行動するのは人間が弱いからなんだ。だから怖くないよ。」


一方レトファリックと鯱千は手球を動かし、既にクラブの7までボールを落としていた。


「田芽助はなんでいつも私らを攻撃してくるNPCに同情してるの。私はNPCは敵だって割り切ってるから。田芽助みたいに慰め近づいて結局自分のためなんて言う人は見飽きた。」


「鯱千。これはゲームだ。プレイヤーに影響する可能性のある大事な対戦でも相手の体調を気にする事は普通だ。」


レトファリックは道具の状態を確認して、モルホデフタを駆使して重いボールを落としていた。


「モルホデフタを使用しなければスペードの1は落とせなかった。スペードの1が異様に重いのは能力ではないのか。他のボールは同じ重さ。判明しているカードではないのに何か意味があるのか。ひとまず活かし方がないか探そう。」


二人が順調にゲームボードを移動しクラブの7を落とそうとしていると、ゲームボードの台が突然分裂して、台の一部が2つ開き、その部分が壁となった。


〔挑戦者側からNPCへのゲーム外干渉を確認したので演算能力をゲームボードに応用致します。挑戦者側のゲームオートビット・レナリア様がゲームに参加できる状況ではないと判断したため、一時的に私が防衛を務めさせていただきます。FONUMEES SKILL BALL squi。〕


「能力の一つでしかないsqui自体が動いていいのかよ。何でもありだな。」


「ゲームの目的が達成されないからsquiの行動が変わったって事。」


〔ゲームボードの形状が変更したため、ゲームボードの操作画面を書き換えます。〕

ゲームボードに2つのボールの高さ程の壁が表示された。


「これ壁の速度でどれくらいなの。手球より早かったら無理ゲーだよね。」


「ルールの範囲なら何をしてもいいと考えたことを恐らくsquiに悟られた。squiはシステム的に行動しているが、感情や思考も集積して対応している。」


「とりあえず使えるものは使おう。」


モルホデフタを手球に使用。壁を貫通するつもりで、クラブの7を狙う。


「じゃあ、判明してるスキルも使ってみようよ。FONUMEES SKILL BALL ヒロピアナイト」


〔「    」所持FONUMEES ダイヤの3 ヒロピアナイトは所持していないため使用できません。〕


「余計な事したらルールに抵触するからやめて。」


「へーsquiが持ってる訳じゃないんだ。この空欄は何だろう。でも使用できない事は分かった。」


「今squiが暴走してるからじゃないか。スペードの1と同じ手順でいく。攻略するつもりでやれ。」


「まあsquiと対戦できる機会は滅多にないし。私なりにやってみたいなー。」


鯱千は円盤のついた道具を壁に密着させる形で使用した。


「動かさないんだ。暴走してもゲームで定義した能力はちゃんと守るんだね。球を突いた直後に行動するのか。これで開いたスペースに手球を通せばクラブの7も落とせるよ。」


〔…予備の応答モードを使用。ルールへの抵触は等しく違反となりゲームへの参加が出来なくなります。〕


「そっかsquiも律儀なんだ。じゃあ道具全部使うね。」


四角い棒の出る銃を使用して、もう一つの壁に穴を開けようとしたが、跡も残らずに終わった。


「頑丈だなー。田芽助と峰未雨がいないし相手squiだから2回分とも私がやろう。いいよね。レトファリック。」


「一回目でボールを落とせたらいい。」


squiという存在を感じて鯱千は会話して揺さぶろうとした。


「分かった。元々この台にギミックが施されてるんだ。この2つだけを開いたのは最低限でターンを終了させるって事ね。2回分をこの壁だけで守る訳か。面白い。」


squiがゲームボードに集中しながら会話を行うシステムにアクセスする事は難しいと判断した。彼女は人工知能について興味があり調べた事がある。


「最近のMMOで使われるAIは応答システムと演算を分けて考えていると聞いた事があるんだ。ってことはさ。MMOAIの応答と演算どちらにもアクセスし続けるのは大変じゃないかなって思うの。FONUMEES SKILL BALL モルホデフタ。ルール説明をもう一度してsqui。道具の使い方が分からないんだ。教えてほしいな。」

〔Yobase所持FONUMEES ダイヤの3 モルホデフタは現在使用しています。〕


〔ルールを再び記載致します。


・ゲームクリアはトランプのマークに書かれたボールの数字が得点となり、最終的な合計値が相手より高ければ達成となります。


・ビリヤードと同じようにスペードの1から順番に玉を突きます。…〕


〔どちらの道具を示しているか分かりません。現在 挑戦者の鯱千様が所持している鳥の機械はメニュー画面から操作画面に移り遠隔操作…〕


鯱千は機械の鳥を使用して手球にぶつけた。円盤の金属板の間を抜け、クラブの7に迫った。しかし、squiの動きは壁を高速回転させ風車のようになりクラブの7や周りのボールを移動させた。結果クラブの7を逸れ、ハートのQueenに当たった。お手付きとなり、3ターン目の相手の番になった。


しかし、レナリアが未だゲームボードに向こうとせず、峰未雨の手を振り払おうとしていた。田芽助が少し離れた所から心配そうに眺めていた。


「人間が弱いならどうして私達は一度も反逆する事が敵わなかったのですか。そうやって悪意で寄り添って突き放す人は何人も見てきました。」


峰未雨もやけになっていた。


「2回も爪で引っ掛かれて理解した。人間とは分かりあわなくていいからゲームを続けてくれない。」


「このまま、私がゲームに参加しなければ貴方たちはビリヤードを達成できない。見苦しいですがゲームボードには戻りません。」

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