第12話 ビリヤード決着、そして個熱蜜蜂の意味

お手付きとなったレナリアは動揺して顔を見られたくなくなり、その場から離れ蹲ってしまった。峰未雨が自分のせいだと思い、仲間に視線を送ると、田芽助が反応した。峰未雨と二人でレナリアに近づいていった。


峰未雨は人見知りなので田芽助が、レナリアに話しかけた。


「あのー。」


「レナリアさん。拳銃は僕も怖いです。トラウマを思い出して失神されるかもしれないと考えた上での行動です。本当にすいません。」


「黙って。今の内に能力を試しているんですよね。これも時間稼ぎ。人間は集団になると周到深くなる。仲間のNPCもそうやって殺されました。」


レナリアが頭を抑えて耳を塞ぎ始めたのを見て峰未雨に任せた。


「これではゲームが続行できません。しかも男性の自分では心を開きそうもないです。だから峰未雨さん。貴方に彼女を任せます。」


峰未雨は彼女の頭ではなく腹を抱きしめていた。


「やっぱり頭より体が冷えてる。集団でないと戦は起きない。」


「なぜ敵の私を慰めているんですか。理解できません。」


「レナリアさんの言っている事は分かるよ。集団で行動するのは人間が弱いからなんだ。だから怖くないよ。」


一方Yobaseと鯱千は手球を動かし、既にクラブの7までボールを落としていた。


「田芽助はなんでいつも私らを攻撃してくるNPCに同情してるの。私はNPCは敵だって割り切ってるから。田芽助みたいに慰め近づいて結局自分のためなんて言う人は見飽きた。」


「鯱千。これはゲームだ。プレイヤーに影響する可能性のある大事な対戦でも相手の体調を気にする事は普通だ。」


Yobaseは道具の状態を確認して、モルホデフタを駆使して重いボールを落としていた。


「モルホデフタを使用しなければスペードの1は落とせなかった。スペードの1が異様に重いのは能力ではないのか。他のボールは同じ重さ。判明しているカードではないのに何か意味があるのか。ひとまず活かし方がないか探そう。」


二人が順調にゲームボードを移動しクラブの7を落とそうとしていると、ゲームボードの台が突然分裂して、台の一部が2つ開き、その部分が壁となった。


〔挑戦者側からNPCへのゲーム外干渉を確認したので演算能力をゲームボードに応用致します。挑戦者側のゲームオートビット・レナリア様がゲームに参加できる状況ではないと判断したため、一時的に私が防衛を務めさせていただきます。FONUMEES SKILL BALL squi。〕


「能力の一つでしかないsqui自体が動いていいのかよ。何でもありだな。」


「ゲームの目的が達成されないからsquiの行動が変わったって事。」


〔ゲームボードの形状が変更したため、ゲームボードの操作画面を書き換えます。〕

ゲームボードに2つのボールの高さ程の壁が表示された。


「これ壁の速度でどれくらいなの。手球より早かったら無理ゲーだよね。」


「ルールの範囲なら何をしてもいいと考えたことを恐らくsquiに悟られた。squiはシステム的に行動しているが、感情や思考も集積して対応している。」


「とりあえず使えるものは使おう。」


モルホデフタを手球に使用。壁を貫通するつもりで、クラブの7を狙う。


「じゃあ、判明してるスキルも使ってみようよ。FONUMEES SKILL BALL ヒロピアナイト」


〔「    」所持FONUMEES ダイヤの3 ヒロピアナイトは所持していないため使用できません。〕


「余計な事したらルールに抵触するからやめて。」


「へーsquiが持ってる訳じゃないんだ。この空欄は何だろう。でも使用できない事は分かった。」


「今squiが暴走してるからじゃないか。スペードの1と同じ手順でいく。攻略するつもりでやれ。」


「まあsquiと対戦できる機会は滅多にないし。私なりにやってみたいなー。」


鯱千は円盤のついた道具を壁に密着させる形で使用した。


「動かさないんだ。暴走してもゲームで定義した能力はちゃんと守るんだね。球を突いた直後に行動するのか。これで開いたスペースに手球を通せばクラブの7も落とせるよ。」


〔…予備の応答モードを使用。ルールへの抵触は等しく違反となりゲームへの参加が出来なくなります。〕


「そっかsquiも律儀なんだ。じゃあ道具全部使うね。」


四角い棒の出る銃を使用して、もう一つの壁に穴を開けようとしたが、跡も残らずに終わった。


「頑丈だなー。田芽助と峰未雨がいないし相手squiだから2回分とも私がやろう。いいよね。Yobase。」


「一回目でボールを落とせたらいい。」


squiという存在を感じて鯱千は会話して揺さぶろうとした。


「分かった。元々この台にギミックが施されてるんだ。この2つだけを開いたのは最低限でターンを終了させるって事ね。2回分をこの壁だけで守る訳か。面白い。」


squiがゲームボードに集中しながら会話を行うシステムにアクセスする事は難しいと判断した。彼女は人工知能について興味があり調べた事がある。


「最近のMMOで使われるAIは応答システムと演算を分けて考えていると聞いた事があるんだ。ってことはさ。MMOAIの応答と演算どちらにもアクセスし続けるのは大変じゃないかなって思うの。FONUMEES SKILL BALL モルホデフタ。ルール説明をもう一度してsqui。道具の使い方が分からないんだ。教えてほしいな。」


〔Yobase所持FONUMEES ダイヤの3 モルホデフタは現在使用しています。〕


〔ルールを再び記載致します。


・ゲームクリアはトランプのマークに書かれたボールの数字が得点となり、最終的な合計値が相手より高ければ達成となります。


・ビリヤードと同じようにスペードの1から順番に玉を突きます。…〕


〔どちらの道具を示しているか分かりません。現在 挑戦者の鯱千様が所持している鳥の機械はメニュー画面から操作画面に移り遠隔操作…〕


鯱千は機械の鳥を使用して手球にぶつけた。円盤の金属板の間を抜け、クラブの7に迫った。しかし、squiの動きは壁を高速回転させ風車のようになりクラブの7や周りのボールを移動させた。結果クラブの7を逸れ、ハートのQueenに当たった。お手付きとなり、3ターン目の相手の番になった。


しかし、レナリアが未だゲームボードに向こうとせず、峰未雨の手を振り払おうとしていた。田芽助が少し離れた所から心配そうに眺めていた。


「人間が弱いならどうして私達は一度も反逆する事が敵わなかったのですか。そうやって悪意で寄り添って突き放す人は何人も見てきました。」


峰未雨もやけになっていた。


「2回も爪で引っ掛かれて理解した。人間とは分かりあわなくていいからゲームを続けてくれない。」


「このまま、私がゲームに参加しなければ貴方たちはNONUMEESGAMEを達成できない。見苦しいですがゲームボードには戻りません。」


レナリアの様子を見てYobaseが話しかけた。


「レナリアさん。難しい。やはり俺と田芽助は怒りを増長させるだけみたいだ。」


長時間同じ状態が続きそうな雰囲気を変えたのは鯱千だった。


「羨ましいんだけど。なんで、峰未雨の抱擁は許してるの。女子は全員味方だと思ってる。人間を信用できないんだったら、剣で一撃でも与えたらいいよ。」


鯱千の言葉にレナリアが動揺して、目を向けた。


「エレミルの兵士は人間じゃない、人型の獣だよレナリアさん。後別にNPCだからって狙われた訳じゃない。前国王の時はプレイヤーの多くも犠牲になってたし。」


鯱千はレナリアの近くに行き、顔を近づけた。


「squiがゲームを続けてしまってる。多分だけどレナリアさん。あなたはsquiの手足としか思われてないんじゃない。あなたが人間を信用しない程じゃないけど私もNPCを信用してない。というか、人間は自分以外信じないことが多いよ。あなたがいつ生まれたのか知らないけどね。」


レナリアは実はsquiから自分が対戦相手によって消滅したら、別のNPCを登場させると言われていた。彼女は鯱千の言葉に鼓舞されて抵抗をやめた。


「可愛いじゃん。さっさとゲームをしようぜ。」


その後も鯱千と峰未雨に看病されて、レナリアは勝負に向き合えるようになった。

レナリアはもう一度squiの能力を使用した。


「ごめんなさい。squi。私からの情報も推測もちゃんと伝達しますね。これからはもっと連携したい。FONUMEES SKILL BALL squi」


〔情報の共有感謝致します、オートビット・レナリア様。レナリア所持FONUMEES ダイヤのKING squiを使用致します。〕


オートビット・レナリアが頬を上げ前を向いた。


「鯱千さん達人間と本気でゲームがしたくなりました。」


ゲームボードの上には手球が壁に阻まれないように置かれていた。squiが最低限のギミックで敵を足止めしたのは精神面の不安なレナリアの次のターンのためだった。


「squi。道具にレオリープ・カメレオンの能力が無いか調べる事って出来る。」


〔1ターン目の最中、対戦で使用する道具の通信が一つ増えました。現在はゲーム開始時に戻っています。〕


「なるほど。一度擬態して効果を試したみたいです。鯱千さん達ならやりそうですね。」

レナリアはその後同じ銃を取り出して、細工がされていないかどうかを銃口の中まで確認した。


「次はクラブの7かな。」

ゲームボードに置かれていた5つの球を見て、彼女の眼は冴え、疑心暗鬼な表情を浮かべていた。オートビット・レナリアはエレミルでの悪夢によって、人間の憎悪が強いので今回のゲームに選ばれていた。そして、もう一つ。彼女の全てを疑う事のできる目が評価されていた。


「squi。もしかしてクラブの7を突いたらお手付きですか。先ほどまでボードを見てなかったからどの球が死に球か、擬態したクラブの7の能力か判断しかねています。」

〔情報のみを伝達致します。得点を表示します。〕

〔オートビット・レナリア 3-6 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


〔レオリープ・カメレオンの能力であれば中身のセンサーまで擬態する事が可能です。前回のターンまでに、挑戦者側が、モルホデフタ、テママリナネット、レオリープ・カメレオンの能力を使用しているため、その可能性は高いと推察できます。〕


「squiはあくまでFONUMEESとしての参加だから知ってても教えられないはず。先ほどまでの間にレオリープ・カメレオンが使用されているのであれば、死に球の入れ替えはあり得ると考えます。」


オートビット・レナリアは、ゲームボードに置かれた6つの球の内、一つが偽物であれば、それはクラブの7だと考えた。理由は、ハートのQueenがボードの上になかったから。


「なるほど。そうですか。人間と対等に向き合ったのは初めてなので嬉しい。クラブの7がハートのQueenが擬態したものだった場合はダイヤの9が最も小さい数字なのでお手付きになりますね。得点が入ってないという事は、ボールを能力で操作して落とした。レオリープ・カメレオンであれば、更なるケースも考えられます。」


自分がゲームボードから目を離している間にボールの入れ替えがあった事に気付き、しばらく思考した後、彼女は決断した。


「これはレオリープ・カメレオンの能力が使用されている。ダイヤの9を落下させようと思います。」



レナリアが腰を低くして前かがみになった。今までとは違い一点を狙って四角い棒の銃を撃った。


レナリアの推測は正解だった。


操作は鯱千に任せ、Yobaseと田芽助はそれを隠す。レナリアはゲームに集中していない様子からsqui任せの復讐だと考え、自チームの所持しているFONUMEESが相手には知られないため、クラブの7レオリープ・カメレオンの能力まで目が行き届くほど冷静ではないと判断した。


鯱千がクラブの7レオリープ・カメレオンの能力を使っていたのは始めのターンだった。


「クラブの7を何と入れ替えればいいんだろう。相手のターンが終わればいいんだから、スペードの10やクラブの11辺りがいいだろうね。」


Yobaseは鯱千に反応して、作戦を伝えた。


「とりあえずレオリープ・カメレオンの擬態能力で、ボールの内どれか一つを擬態させればいい。」


「とりあえず、オートビット・レナリアの最後のターンはハートのQueenになりそう。」

鯱千は、相手の最後のターンがハートのQueenから始まると予想した。

〔オートビット・レナリア 12-13 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


彼女の推測は正しく、お手付きにはならなかった。


「あ、はは。まじかよ。まさかボールの数字の偽りが擬態で可能だと気づかれた上で、こちらのブラフを読まれるとは思わなかったなー、レナリアちゃん。切り替えが半端ないね。」


「テママリナネットの能力で防御します。すいません。レナリアさんに同情してました。」


「賞賛してる場合じゃない。レオリープ・カメレオンの能力であれば、squiであっても数字で騙す事ができると気付かれた上でダイヤの9を丁寧に落とされたんならここからダイヤの13まで持ってかれるぞ。」


峰未雨は危機感が無く田芽助は焦って準備をし始めた。


鯱千もYobaseも落ち着いた表情を繕ってはいるが、レナリアの観察眼が想像を超えたため、本気で連続得点を止めにかかっていた。

「テママリナネット FONUMEES SKILL BALL」

「レオリープ・カメレオン FONUMEES SKILL BALL」

「モルホデフタ FONUMEES SKILL BALL」

能力を総動員して、レナリアの好調なプレーを止めようとしていた。


Yobaseらの3つの能力に対して、レナリアも2つ程強力な能力がアバターに付与されていた。

・FONUMEES ルーピルの能力ゲームボード上のみの一時的な時間停止を一ターン分使用できる。

・FONUMEES 短時間の間、squiの演算能力を視覚化して、情報を得られる。


彼女は得点とゲームボードのボールの数字を確認してこの内、squiの演算能力を視覚化して戦うかどうかを決めあぐねていた。


「もし、相手にターンを渡すならスペードの10までが賢明そうです。クラブの11以降に能力を使用する事が望ましいと思います。どうですかsqui。」


〔演算能力の視覚化は、ゲームボードの近くの演算が可能になり、情報量に比例して道具を制御する精度も高くなります。連続であれば3ターン分使用できると予想しています。〕


「了解しましたsqui。このターンは私の眼で撃ってみようと思います。」


テママリナネットでゲームボード上の壁を利用してレナリアを惑わせていたが、彼女

はスペードの10を見つけた後、辺りを慎重に時間をかけて観察し構えを取った。


「10個のボールを操作するのは大変だよね。他のボールの軌道と同じようにスペードの10の動いた軌跡を逆算すれば、これが本物だって気付けた。」


レナリアの眼は数学の二次方程式のように、動線を予想する事に長けていた。


「はあ相手に火をつけちゃった。」


「スペードの10の動線を完全に把握されました。」


「よっし。初めて人間とゲームをしたら、こんなに楽しいとは思ってもいませんでした。」


〔オートビット・レナリア 22-13 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


「squi。勝負をつけます。演算能力の視覚化をお願いします。」


レナリアが決して油断をせず次のボールを狙い始めた時、突如、光が発生した。


「この能力は凄い。峰未雨ありがとう。」


「役に立てて嬉しい。でも解いたのはリーダーです。」



Yobaseから話を聞き峰未雨は、なぜか挑戦者側がアクセスできる「    」所持のヒロピアナイトの能力を使う方法を一緒に考えていた。


〔「    」所持FONUMEES ダイヤの3 ヒロピアナイトは現在所持していないため使用できません。〕


「一番初めの空欄、何か意味がありそう。」


「この空欄はメニュー画面にも記載されて文字も打てる。何かの暗号としか思えない。」


時間があまりなく焦っていたYobaseとは違い、峰未雨はシンプルに考えていた。


「普通に考えればsquiかこのゲームの景品なんだから、このゲームのものですよね。名前、難しい英語でよく覚えていないけど。」


「俺も覚えてない。ゲームボードは対戦で使用しているし。確か鯱千はFONUMEES BALLを駆使したビリヤードのようなゲームって言ってたな。くっそ。思い出せない。」


「うーん。試しに文字を打ってみる他ないですYobaseさん。」


「ああ。そうだな。」

Yobaseは半分諦めた気持ちで、メニュー画面に表示された空欄にFONUMEES BIRIYARD と打った。すると、なぜか他のFONUMEESと同じく使用できるようになった。


Yobaseは急いでゲームボードに戻り、ヒロピアナイトの能力を使用した。


「テママリナネットでもレナリアの好調が止まらなかったか。クラブの11がある。まだ間に合いそうだな。」


Yobaseは手に入る事のできない今回のゲームのFONUMEESを見て、瞬時に思いついた事を実行した。


「ヒロピアナイト。FONUMEES SKILL BALL。」


Yobaseの発言後、光がゲームボードを包み、視界が悪くなりボールが見えなくなった。


だが、現在のオートビット・レナリアの眼は、ゲームの画面のような電脳空間になっており、意味を成さなかった。


「今回の景品のFONUMEES。挑戦者にも私にも明かされていない。光の攪乱か。ボールの消滅か。ダイヤの3なのだから、使いこなす事は困難な能力だと推測します。」


Yobaseはレナリアの疑問を聞き、正直な感想を伝えた。


「最後のダイヤの3か。今回でお別れするには惜しい能力だと俺は思った。」


〔Yobase所持FONUMEES ダイヤの3 ヒロピアナイト 2つのFONUMEESを融合させ一つの形にする能力。FONUMEES融合は過剰取得によるスキル選択時にのみ可能。また、能力を自分以外にも使用可能。所持したプレイヤーが消滅したら、能力は分散する。単体では、ヒロピアナイトを召喚して一日に一度貫通ダメージを与える事が出来る。〕


Yobaseはテママリナネットを慌てながら操作する田芽助とレオリープ・カメレオンを操作する鯱千を呼び出した。


「鯱千、ヒロピアナイトの能力はFONUMEESの融合だ。擬態する能力の幅は広い。何か策はないか。」


Yobaseの話を聞いて、鯱千は動揺した。


「テママリナネットと融合したら、ボード上の全部のボールが擬態できるって事。はは。えげつねえ。」


鯱千のメニュー画面には、近くの無生物のアイテムが表示されているだけで他の物に化けるには、検索するか、絵を描いて表現するかの2通りがあった。


「待って、これって動かない状態であれば生物にも擬態出来たはず、模造品でもジジベムに擬態してテママリナネットで固めれば、レナリアの勢いを喰い止められるんじゃない。」


レオリープ・カメレオンの操作画面から検索にジジベムを入力したが、無生物のア

イテム以外は表示されないものになっていた。


「分かった。未確認モンスターをネタバレさせないためにモンスターの絵を描いて知識を示せって事ね。」


鯱千は素早く作業に取り掛かった。


峰未雨が負けそうな状況を変えようと機械の鳥を操作してレナリアの視界を奪った。


「レナリア、人間の視線も把握できないようじゃ死角からモンスターに襲われて死ぬしかない。この端末の操作が明快で良かった。流石VRMMO。」


レナリアは、峰未雨の鳥の動きも可視化したが、動物本能のまま、まさしく鳥のように迂回する機械の鳥の道具の動きを捉えられなかった。


「凄いです。視界を遮っていると思って演算しても視界からいなくなります。これは、ボールの動線より攻略が難しい。」


レナリアは、峰未雨の野生の勘はまだ理解出来ておらず、相性が悪かった。


「でも野生の鳥とは違って、曲がり方が規則的です。」


レナリアは自分の眼で銃を使いこなし、峰未雨の鳥の機械を破損させていた。

その後すぐに、オートビット・レナリアは再び歓喜を上げていた。


〔オートビット・レナリア 33-13 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


「squiの演算能力の可視化は本当に素晴らしいです。クラブのJackも落下させる事が出来ました。しかし、テママリナネットの動きが不規則になり始めましたね。ボールを落下させる事が不可能であれば演算能力を可視化しても同様です。」


田芽助は現在自分しかゲームボードと向き合っていない状況に、少し苛立ち、かなり焦っていた。


「もう後がない。ハートの12まで相手に奪われたら、逆転不可能で敗北なのになんで鯱千さんは防衛してないんですか。」



複数のボールを何度も操作しているからか、目と指の操作が職人のそれだった。

しかし、不規則な動作で相手の演算する時間を稼ぐ事しかできなかった。


峰未雨が鳥の機械の修理に戸惑い、田芽助が諦めかけていた時、周囲のボールが全て小さいジジベムとなり合体した。



「ブランクのせいで絵を描くのに時間が掛かっちゃった、頑張ってたよ田芽助くん。FONUMEES SKILL BALL テママリナネットリープ・カメレオン」



〔鯱千所持FONUMEES テママリナネットリープ・カメレオン 10体のモンスターを擬態させ、操作する能力をゲーム専用スキルとして使用。能力 相手のターン中に、10個の無生物の道具やボール等のアイテムを同じ種類の物体及び生物に擬態させる。〕


「あれ、バグかな。レオリープ・カメレオン、じゃない、squi不正があったら私に報告するって言ったよね。」


鯱千がレナリアの横に移動していた。


「私の力作。ジジべミーちゃんを見てくれた。Yobaseからの知識を基にして中身まできちんと描いたら認識された。サイズ調節まで出来るのは驚いた。」


小さな固形ジジベム10体は、テママリナネットの能力により、ジガラットカムルのように変形し、隊列を組み始めた。


「落とせるものなら落としてみろよレナリア。squiだろうと、3個のジジベミーが固まってたら穴の直径より大きいんだから落とせないでしょー。」


しかしオートビット・レナリアは冷静だった。


鳥の機械を円盤のついた道具と組み合わせた。


「squi。真ん中がダイヤの3で死に球、右がハートのQueen。左がダイヤのKingで合ってる。」


〔レナリア様、的中しています。しかし、ハートのQueenを狙うのは困難です。〕


「演算能力の可視化を使って壁のギミックも利用して決め打ちます。」


レナリアの視界は、プレイヤーの動きは手に取るように分かり、ギミックであっても回転する速度から数コンマ0秒先の動きも可視化される。ギミックを利用すれば、四角垂の固形物であっても、宙に浮かせられるかもしれないとレナリアは推測していた。


結果、ハートのQueenは落ちなかった。レナリアはジジベム3体を引き離し手球の回転数によるドリルのように突いた。小さな固形ジジベムの物は電気を帯びていないため他の固形ジジベムとの連結がもろかった。


挑戦者側の最後の機会がやってきた。防衛側のレナリアは相手のターン中に、ギミックを操作してボールの動線を変えて封じようと試みていた。


「squiの演算能力の可視化は防衛でこそ活きます。」


「ああ。俺たちはsquiの演算を上回るしかない。精度は落ちるが数による演算防止で行く。」


鯱千は、手球にギミックの穴を付く作戦として道具を作り出し峰未雨が鳥の機械を鯱千が2つずつ銃を構えていた。手球を打ったのは鯱千だった。squiの演算による予測では峰未雨だったが、鯱千の銃口で手球がハートのQueenではなくダイヤのKingの方向に動いたため、レナリアは反応出来なかった。


「ダイヤのKingはお手付きで無効、なぜですか。」


「得点を見れば分かるさ。」


〔オートビット・レナリア 33-38 挑戦者 Yobase、峰未雨、鯱千、六衛田芽助〕


〔ゲームが終了致しました。結果、33-38で挑戦者側の勝利となります。挑戦者の4名には報酬としてゲームマスターの音声データの閲覧権利を許可致します。〕


鯱千は、誇らしげにレナリアに真実を話した。


「不正ではないよレナリア氏。ハートのQueenは今さっき落としたんだよ。」


「どうやって、再びボールの擬態を行ったという事ですか。しかし、先ほど、レオリープ・カメレオンは融合されるために使用している。擬態するには、死に球から操作するか、ボールを穴に落下させるしかない。まさか同時に…。」


「君が擬態だと見ぬいたクラブの7は、ハートのQueenじゃなくてハートの5に擬態していたんだ。レナリア」


鯱千はレナリアに感謝を伝えた。


「凄く楽しかったよ。楽しそうなレナリアを眺めるのも好きだった。だから、これは感想戦、種明かししないともったいないし説明したい。いいかな、レナリア。」


レナリアは、自分を仲間に入れてくれた鯱千とYobaseらを見て敗北の悔しさと、ゲームの気楽さを表情に示す事が出来ていた。


鯱千は、どこから持って来たのか眼鏡とビリヤードのキューを差し棒代わりにして、

レナリアの疑問を解決しようと講義を始めた。


「重要なものはビリヤードの球が入る事を探知するセンサーだ。2ターン目に金属の球を穴の中に入れて、死に球のハートの5をクラブの7に擬態させた時そのセンサーの位置を把握した。そしてハートのQueenとクラブの7はモルホデフタの不動の能力でセンサーに探知される前の位置に留めて置いた。だから得点には反映されない。けれどずっとモルホデフタがビリヤード台の中の筒で堪えてたって事。」


鯱千からの説明は終わりレナリアは納得した顔で帰っていった。

squiから連絡がきた。


[ それでは、勝利報酬としてゲームマスターの音声データを与えます。]


ゲームマスター緋戸出セルからの音声データは流れ始めた。


「こんにちは。緋戸出セルだよー。このメッセージを送る時私はこの世にはいないと思うけどその前にメッセージを残したい。

君は今回のDESSQ全体を巻き込んだゲームはトランプをベースにしていると思ったろう。でも今やってるのはビリヤードだ。トランプとビリヤード2つのゲームを混ぜないと私の意図が分からないと思ってね。FONUMEESのスキルも加わってたから頭がこんがらがっているかもしれない。でもね、ヒロピアナイトのスキルみたいに元々遊びだったものが融合して派生してトランプやビリヤードといったゲームになるんだ。

トランプは東方からヨーロッパに伝えられたゲームだと言われている。元々は杖や棍棒などタロットよりのゲームだったんだ。それがダイヤやハートになって今のトランプになった。

ビリヤードの方も最初はクリケットのような屋外スポーツを家の中でもできるようにして誕生したんだ。私はトランプを生み出したい。ビリヤードを生み出したい。

当たり前となり色んな媒体で活用されるゲームを生み出したい。

だからこのビリヤードに名前をつけてほしくてヒロピアナイトを景品にした。

入力された名前が何であれこのゲームを表しているならいいとはいかない。新しい形を突き詰めるのが表現だからね。」


[入力されたゲーム名はFONUMEES BIRIYARD。いまいちです。もう一度このゲームを命名して頂きます。]


鯱千と峯未雨はゲームマスターの夢を理解した。


「トランプを生み出したいって凄い大きな目標を掲げるね。」


「デスゲームなのは私らにそのアイデア探しに真剣に向き合ってもらうためかな。」


Yobaseはゲームマスターの願いに少し苛立っていた。


「じゃあ俺らはその新しい神ゲーをうみ出すためにデスゲームに巻き込まれたってことか。」


田芽助はゲームマスターの言葉に感動していた。


「タロットカードやトラップのようなゲームのこの世界に生み出す。ちょっと感動しました。」


「じゃあこのゲームの名前考えよう。」


鯱千らは今回のゲームについて話し合った。


「FONUMEESは付けた方がいいんじゃない。」


「途中からスキルをめっちゃ使ってた。ゲームボードも動いてたから。」


「FONUMEESと一番活躍したスキルを使おう。」


「それならモルホデフタを推します。ボードの判定を逆手に取るために必須でした。」

「Lenariyard。オートビット・レナリアからとった。」


「いいねそれ。」

ゲームボードの入力欄に[Lenariyard]と書いた。

すると、ダイヤの3マークが光り出した。

ダイヤの3に青い光る鉱石のようなものが埋め込まれ、ビリヤード台の画面が光り出した。その後比較的中心部分に、デジタルの画面のように文字が壁に書き込まれていった。


4人は3歩程後方に下がったが台座が上下に回転し始め事に驚きさらに後方に下がった。


「回転し始めた。」


「スキル画面と同じように振り出しに戻るのか?。」


回転していた台座が180度回転し止まった。


鯱千は気持ちが高揚していた。


「これは、カードの裏面に入ったという事か。」


「表の面のスキルを僕らしか入手していないのに。裏ステージなんてあまりにも早すぎる。」


「これがゲームマスターがデスゲームでやりたかった事かな。面白い。この情報は価値があるね。」


「あのよく見てください。台座の中心部分の上下に文字が書かれています。」


[伝達内容をお知らせいたします。現在の状況、NPC転生数 25320 残NPC数 54680 。

第一サーバーDESSQ□ ダイヤの3 始発のカード 達成 北極のカード 達成 クラブの7 幸運のカード 未達成 クラブの2 不運のカード 未達成 第二サーバーVARMARDPARADOX スペードの10、神々のカード〔第二サーバー〕達成率33% JOKER 全能のカード 未達成 第三サーバーDACASNARCUP ハートの3 絶縁のカード未達成。]


「これって、どういう事。まだ、二日目の朝だよね。」


「あの時のエレミル王国内の人間はどれだけ見積もっても7000人のはず。カードが1枚分しか達成していないのに人が死にすぎている。」


「なんで第三サーバーまで開いてるの。しかもスペードの10が一つ以上は入手されているのに連絡がない。システムが故障してない。」


その頃、第二サーバーVARMARDPARADOX

都市から外れた灯りのないガラクタが積み上げられた地面。それを家の補強にしたのだろう。ビルはないが、ホテルや建物に、歯車や、汽車の一部がついており、空爆を受けたのか一部の建物は崩壊していた。都市の中心には、青白く光るガラス張りの電脳城があり、遠目でモンスターのスケルトンやゴブリンが暮らしているように見えた。多くの大きな画面に、モンスターの獲得スコアのCMが流され、戦闘しているモンスターの左に人のマークが書かれ数字が大きく表示された映像があった。


「このメカメカしい都市に着くまでに何千人死んだんだろうな。」


「が、が、が、概算しても、今の残NPC数は55000人という所です。こ、今後の第一サーバーにおける農業可能面積、squiが放つプレイヤーは20000人と判明。そこから強奪可能金額から、第一サーバー食材屋の在庫数を考えても今の数でも十分です。s squi流石です。でも人間は後17000人は減らした方がお得です。」


「後は僕一人でも十分そうだね。役になってあげるから君は一旦休むといい。目がやつれているよ。」


都市に着くまで何があったのか、血が止まらず身体の一部が動かなくなっている人間達が、お金を求めてNPCの街を襲っていた。


「揃いも揃って自分を破壊して前に進もうとしない。同じ言動、同じ思考。自分という役を演じる仮面劇を俺たちは見ているだけさ。つまらないだろう。それならば、殺して役を奪ってあげよう。削って役を作り直してあげよう。人間は自分を破壊できる点においてsqui、君を上回っているんだよ。」


既に第二サーバーではDESSQのシステムでも予知できない程の事が起きていた。


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