第27話 地下遺跡8階、赤い花弁としっぽ蝶
8階でまた6階の時のような十字路の道が続いた。
四方から来るモンスターを倒しながら、慎重に進んでいると遺跡の道の幅が広がり、横にはある模様があった。
モンスターと人間が戦っている絵だった。槍先の模様から線が繋がっており、それを人間が眺めていた。コロシアムより形が、複雑で進んでいくと元々開けていた遺跡の道がさらに広がり、大きな広間に着いた。
広間には、遺跡の壁が覆い隠されるほど、光る赤色の花弁の植物が至る所に生えていた。灯りもかなり強く、別のエリアに来たような空間だった。
「ゲラリオレミゾカは見当たらないですね。」
植物の茎に田芽助が足を取られ連れ去れてしまった。
「鯱千。」
「了解。」
鯱千のスキルでモンスターを視認しようとしたが、ゲラリオレミゾカ、ゲラリオレミザリアの姿はなかった。峯未雨は素早く植物を切って進み、田芽助を探した。
実際、田芽助は無事だった。植物は彼の身体に纏わりつくだけで攻撃してこない。
「この植物捕食するつもりがない。ただ、僕を此処に連れてきたかっただけ?」
植物は意思ではなく反応のような動きだった。峯未雨の体の周りにも、植物が纏わりついてきた。彼は全て切って進んでいた。
過ちだった。ただの赤い花弁でもこの植物は一時的に進化していた。位置を把握された峯未雨と鯱千の内、植物の反応から力の弱い方に何匹かの蝶が飛んできた。
綺麗な蝶だったので鯱千は見惚れていたが、よく見ると粉を振りまくしっぽが生えていた。
腕がチクッとした。注射針の跡があった。
嫌な予感がしたが、植物が地面に生えており機敏に動けなかった。
[出血ダメージ]
「こいつら。モンスターだ。」
蝶はリトルグラスピーズというモンスターだった。まだ花粉を出す事は難しいが、血を吸って成長を図っていた。
峯未雨は田芽助の元に辿り着いたが、無事である事に嫌な予感がして田芽助を助けて鯱千のいた方向に戻った。
「本当に邪魔。切っても意味がないし、進みづらい。」
峯未雨は野生の本能で鯱千の方角に強敵を察知した。鯱千は倒れ込んでおり、4体の蝶が張り付いていた。巨大な影が鯱千の前に現れた。グラスピーズザラミバ。
グラスピーズのしっぽが大きく生えており濃い黄色で粉が光っている。
花粉にあてられた植物は大きく成長し、モンスター、人間関係なく危害を加える動物をつるで封じ込める。グラスピーズと赤い花弁の植物はお互いに守り合っている依存関係だった。
「眠い。」
鯱千は貧血状態だった。リトルグラスピーズは人間を殺すまでは吸わない。殺すかどうかはグラスピーズザラミバが決める。
脅威ではない。グラスピーズザラミバは鯱千を見て植物に危害を加えないと判断して様子を伺っていた。
しかし様子を伺っていたのは鯱千だった。スキルでは太刀打ち出来ないため、峯未雨に習った剣技を自分に置き換えていた。腰に収めた剣を相手の隙を見てモンスターを討伐する峯未雨の剣とは別の戦い方を練習していた。
「ざまあみろ。クソ蝶。吸った血の倍経験値吸わせろ。」
4体の蝶を切り殺し、鯱千はグラスピーズザラミバに対しても剣で構えを取っていた。
しかし、グラスピーズザラミバの針はこんなものではなかった。
足に刺され動きを封じられ、花粉を出して植物に異常信号を知らせた。鯱千の腰を落とさせ、針で殺せる体制をとった。
「キュキキー。」
自分の子分を殺されかなり怒っていた。
「まじか。こんな感じで終わるんだ。」
鯱千は峯未雨がYobaseを追いかけると言った時からこうなると思っていた。そもそも、このパーティーは生き残るためにいた。初めの頃は騙しやすい田芽助辺りを踏み台にして、国家レベルのクランに入ろうと思っていた。
あの時、パーティーを見捨てておかなかった理由を考えていた。
「多分私、田芽助君より峯未雨が手放せなかったんだ。」
鯱千は死を感じ安堵したのか蝶から目を離し地下遺跡の天井を見上げていた。
「でも蝶モンスターに血を吸われて一人で終わるのは私らしいかな。」
植物を切り刻んで進む峯未雨は過去を振り返り反省し始めていた。
「あの時強い言葉で鯱千の意見を聞かなかったのは私の方だ。Yobaseさんがいないのに、私がパーティーの話を聞かなければいけないのに。」
峯未雨は昔から力技で敵を屠る武将が好きだった。
誰かは覚えていないが四方からの敵を一網打尽にする武将の絵があった。
「ねえこの武器なんていうの。」
「これは薙刀って言うの。」
「強くない?この武器。しかもカッコいい。」
「うーん。確かにきちんと使えれば隙がなさそう。でも女の子には重いから峯雨は無理ね。」
社会科見学で実物を一度見た事があった。
私の手じゃ持つ事も出来ない。かなり悲しかった。
周りの言う通り男女に力に差がある事に気付いて半ば諦めていた時、DESSQに出会った。
まるで自然界のようだった。モンスターも人間も現実のように感じる。爽快だった。
此処でなら武将になれるかもしれない。
しかしいつの間にかモンスターを討伐して回り、一人で全ての敵を屠る事に快感を覚えていた。
「私もスキルの出し惜しみはもうやめよう。」
[スキル タイジットカーフ使用]
タイジットカーフィーが出てきた。
「頼むぞ。舞雲寺ちゃん。」
耳としっぽにタイジットカーフの虎のような耳と尻尾がつき足腰も強くなっていた。
[スキル クロウメハカアマル使用]
黒い梅模様の男性用袴を身につけた。
パーティーの仲間がこんなに大切なものになる事は予想外だった。DESSQにおいて初めての守りたいと思えるものだった。敵を屠りたい。討伐したい。殲滅したい。今はもう一つ。
「鯱千を、このパーティーを絶対に守りたい。」
植物を切るのではなく、足場にして移動していた。それほどに俊敏で跳躍できていた。枝を植物のツルを掻き分け、移動した先に、植物が集中して生えている場所の中心に鯱千とグラスピーズザラミバがいた。
「鯱千無事、いや冷静にモンスターを鯱千から離さないと。」
針の刺さった蝶をひとまずどかすため、グラスピーズザラミバの羽を引き裂いた。危険を感じた大きな蝶は針をひとまず抜き、狙いを変えた。花粉を振り撒き、植物が四方から彼女に纏わりつこうとした。
まず、後ろからのツルを断ち切り、その後、3方向からのツルも切り、舞雲寺の俊敏性を活かし回転して回避した。
グラスピーズザラミバの針を飛んでいる峯未雨目掛けて刺そうとしたが、横から目を刺された。
「私、このグラスピーズの親玉だけ可愛くないと思うの。」
峯未雨の瞬発力は、前方への跳躍と呼ぶべきものだった。
「私も。」
敵の蝶の肉の部分を斜めに切り殺した。
[鯱千 level 7 UP↑]
[level UP bonus 一時的な最大HP増加]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます