第19話 レトファリック vs 始発のカードモンスター

10階のホラノイノスラバリウレムの声は激しさを増している。掃除してくれるなら願ったり叶ったりだ。しかし11階に降りた場合隠れるしか道はない。


「また、あの化け物の声が近くなって来てる。道中のモンスターは片付けたみたいだな。地面砕いて来たりしなければいいが。ひとまず音を出さないようにしないと。」


ホラノイノスラバリウレムが興奮していないことから、Yobaseは10階の状況を分析。11階に降りてくることを警戒して探索を続けるか迷っていた。


『この辺りに部屋はなさそうだ。さっきのモンスターを倒せばチートスキルが手に入ったかもしれない。失敗した。一度部屋に戻ってやつをおびき出そう。』


部屋に戻るまでの道のためにはこのノートを見なくてはいけない。


Yobaseは開いたノートのページを確認して道を辿ろうとした。


「ええっとどう行けばいいんだったか。」


『モンスターからの返事は無かった。ブラフでモンスターがおびき出せず仕方なくホラノイノスラバリウレムを警戒し部屋に戻り隠れる他無かった。』


「地下遺跡部屋への道はと」

(→、←、→、↑、→、→、→、↑、←、←、↑、←、↓、→、…。)


モンスターからの反応が消えた。地図は部屋への矢印ではなく、人間の言語で方向のみがただ書き連ねられていた。


「よしじゃあ戻るとするか。」


『彼の脳内で、行先を記憶していた通りに思い出しノートを見ずに帰ろうとした。』


「それは駄目だ。罠を張っているんだ。」


『え。』


「とにかくこのノートの通り帰らなければならない状況に俺は持ってきた。そして俺だけはこれを見て部屋まで帰ることができる。」


レトファリックはモンスターの顔色を伺うように話し出した。


「時間があるか分からない。取引をしよう。お前が壁を何個か塞いで通れなくなっているホラノイノスラバリウレムの開けた穴の所在を俺に教えるか。それとも罠をくらい20秒間足止めされた状態で俺に切られるか。」


『私は浮遊している。階層を自由に行き来できるからこそ先ほどもホラノイノスラバリウレムの目を覚ますことが出来た。』


「生物の目を覚ますことはできないだろう。俺が何度も仮眠を取っていた時にお前は干渉できていなかった。人間もモンスターも意識的に行動しようとすればするほどお前は力を発揮する。ホラノイノスラバリウレムは効果切れだな。目を覚まして俺を警戒したから8階で狩りを始めただけ。」


『私は此処一体のボスモンスターとは比にならない。カードの一角を担っているからな。貴様の罠も役には立たない。』


レトファリックは手に持っているジジベムパワーをいくつも取り出して話した。


「用意周到なんだ俺は。お前が姿を現さないこと。俺のノートが見える位置にいたのに反応がなかったこと。お前は人やモンスターに寄生するタイプだと見た。自分の魔力と同化し視認できない。おそらく、死体のモンスターの中にでも紛れていたんだろう。」



レトファリックはモンスターからの応答が無くなっているが、気にせずに会話を続けた。


「浮遊している事が事実であれば今俺から離れて上の階へ移動すればいい。それを俺が視覚したところですぐに対応は出来ないだろう。しかし未だにモンスターの信号はない。」


彼は井戸の中で明日どうやって生き残るのかを綿密に考えていた。


「このままじゃlevel1の俺は第二サーバー到達と同時にお陀仏だ。スキルの一つでもあればな。」


簡易爆弾を作りながら、第二サーバーを怖がっていた。無理もない。敵モンスターを遠ざけてしまい経験値をほとんど得ていない。彼は、あまり眠れずに考えていた。


「今朝実験してたから分かる。例え、自分が視認していないモンスターでもこの端末は使用して画面からカーソルを合わせて調べれば、教えてくれる。」


レトファリックは端末を使用して上部に向け反応が無い事を確認した。


「生物に寄生しなければ行動できない。それがお前の弱点なんじゃないか。」


レトファリックはようやく思考を誘導させずに済むと思い安堵の表情を見せた。


「騙り合いで俺に勝つにはもう少し人間のことを学ぶべきだったな。人の陰湿さはこんなものではない。甘かったな。特別なモンスター。」


『甘いのは貴様だ。さらばだ。』


モンスターの反応が消えた。彼はそれを聞いてにやりと笑った。


「面白い。我慢比べだろうな。此処一体にモンスターはいない。上の階のモンスターも粗方ホラノイノスラバリウレムが片付けた。警戒すべきは動き回ってるあの化け物だけだな。」


レトファリックは何かを思いついたような素振りを見せモンスターを挑発した。


「そうだ。今お前が反応できないのであれば電気を食らっても何の応答もないということだな。」


彼は手に持っているジジベムパワーを自分にぶつけた。

「いだだだだ。」


傍から見れば彼がただ自分に電気を浴びせているようにしか見えない。


モンスターからの反応はなく彼は自分を振り返り動揺した。


「ゴゴゴ。」


上の階でホラノイノスラバリウレムがまたもや突進を始めた。


「ひとまず遠くにいったみたいだな。」


レトファリックも内心モンスターが今自分の中にいるのか疑っていた。


しかし、モンスターはレトファリックの体内にいた。


『カードの一角を担う意識をコントロールする俺様が電気が来ると分かっているのであれば自己意識をコントロールすることも容易だ。』


モンスターは彼を警戒し反応するどころか、意識を向ける行為全てを避けていた。

完全に我慢比べが始まった。


レトファリックはまた自分の思考を読み取られるのかと思い、ため息をついた。


「面倒くせえ。お前もそう思わないか。」


彼の居場所である部屋につく訳にもいかず来た道を戻っていた。



『考えないようにしている事は分かる。帰る道を探ろうとしているのだろう。毎度毎度ホラノイノスラバリウレムとエンノシンゴーレムの開けた穴を私がゲラリオレミゾカやゴブリンとなり塞いでいるのだ。教えはしない。考えずに分かる程単純ではないからな。』


「なあ同じ景色でつまらん。話でもしようや。」


レトファリックは道を進みながら現実世界の話を始めた。


「あの部屋に興味深い絵がいくつかあった。お前もよく見ていたんだろう。」


『揺さぶる前兆だな、自己意識を眠りにつかせるか。』


「まずは人間の絵だな。よく描けている。手足の関節、首と顔、胴体のバランス。椅子に座っている大人が描かれていたな。あれもNPCなのだろうか。黒い武装服なのに真夏のヤシの木?に赤い実の服装。アロハシャツは俺も現実で着ていた。」


『あのゴブリン、人間の絵は丁寧に書いていたな。PCで作業している研究員に恋でもしていたんじゃないか。性別も分からんが。』


「次に見つけたのは、カラフルな街だな。線がありすぎてよくわからないが家が異様に長い。窓が多すぎる。街を見たことは少ないのだろうな。

第二サーバーの事だろうな。お前は近未来な街がカラフルだと思っているか。大抵黒と白を基調としたモノトーンな街だ。笑い声なんてものはない。」


『ありえない。未来になったというのに色を減らす訳がないだろう。』


「すまん。笑い声はあるかもな。アニメを見すぎた。最後に見たのはこの飛行機だな。お前は空を飛ぶ乗り物が飛行機と言うことを知っているか。」


『前死んだ奴が飛行機って言ったから知っている。』

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