第18話 レトファリック遺言を書き、謎の生命体から囁かれる。

モンスターは感情があるようにみせているのだとレトファリックは断定していた。それが自然だった。

しかし、目の前の本や、絵はその推測、常識を否定していた。


「彼らは、モンスターは、俺らと同じように夢も欲もあるのか。」


怖くなって倒したモンスターの残骸が思い起こされた。


「やつらに思考があるなんて思えない。」


Yobaseは今までの常識が崩れ落ち込んでいた。自分が目を逸らしていたNPCたちの想いがあるのかも分からず脳裏に浮かんでくる。


もう一度本を読み思考を整理しようとしたが


『ゴブリンの実験の内容に関わるものを見てしまったらモンスターに同情して倒せなくなってしまう』


という考えが頭をよぎり本を閉じひとまず安静にして心を落ち着かせることにした。


「ホラノイノスラバリウレムの突進音みたいなものはないな。階層全体に響き渡るはずなんだが。とりあえずあの化け物が来た時のために防御をしかなければ。」


ゲラリオレミゾカから得たつるを生かして部屋の入口から道中にホラノイノスラバリウレムが来た際の罠を設置した。


「何本かできつく結んで、ジジベムパワーも2個くらいは使おう。」


ゲラリオレミゾカのつるはかなり頑丈そうで、あの突進でも何秒かは足止めできそうだった。


「ま、まあ気づけばいいんだ。とにかくこれが逃げるための時間稼ぎになりゃいい。」


部屋に戻ると、片腕が負傷していたのが痛むのかまた休もうと思った。


眠ろうとしても、あのボスモンスターの恐怖を思い出した。


『このまま、この部屋にいてもあの巨体に殺される。ここに仲間がいつか来てくれると信じて遺言でも残そう。』


彼はアイテムの中からノートを取り出した。


白紙のノートを床に置き文字を綴った。


「峰未雨、鯱千、田芽助。お前たちには短い間だが世話になった。どうか田芽助のことを責めないでやってくれ。」


『田芽助とはぐれてしまったのは俺のせいなんだ。不注意でホラノイノスラバリウレムという強力なモンスターに捕食され地下遺跡のかなり深い所まで落ちてしまった。いくら仲間を見捨てない田芽助でもこの地下遺跡は無理だ。』


よし。いい感じに田芽助を擁護できてるぞ。俺がいなくなってもパーティが元気にやってたら俺は幸せだ。頭の中で自分のいないパーティメンバーの楽しそうに会話している姿が浮かんだ。鯱千の顔、峰未雨の顔……。忌まわしき田芽助の顔。


「ハーレムじゃねえか。絶対に許さねえ。全部消そう。」


彼は感情的になり怒りのままノートの一部を消しゴムで消そうとしたが、面倒くさくなり破り捨てた。


『え。え。』


「峰未雨、鯱千、田芽助。お前たちには事の経緯を詳細に話す必要がある。田芽助の言う事だけでは信じられない部分もあるだろうからな。まず田芽助の発案でウェイターボガーディアン2体を討伐する計画だった。

俺はそのことを聞いて止めた。しかし、どうしても経験値を稼いでlevelを上げたいなんて無駄な見栄に俺は仕方なく手伝うことにしたんだ。しかし、その後ホラノイノスラバリウレムに捕食された。つまりな。」


『田芽助のせいで、俺はこの地下遺跡に閉じ込められちまったんだ。田芽助には俺を殺した罪があるんだ。絶対に田芽助は許されるべきではない。』


「…少し書き直そう。田芽助のせいで、俺はこの地下遺跡に閉じ込められた。それは事実だ。だが、俺も悪かった。あの時止めて井戸の中に連れ戻していれば、田芽助も危険な目に遭わずに済んだのに。男一人で寂しいと思う。申し訳ない。田芽助。」


『これからは田芽助がチームを引っ張っていくことになる。その前に事の経緯をちゃんと話しておけばすっきりすると思ってな。過去は変えられないんだ。これからは地中にも注意して3人で頑張ってくれ。』


「峰未雨、鯱千、……。峰未雨……、鯱千ー--!駄目だ。嫌な予感がする。嘘がバレる前に書き直すか。くそ。」


『え。え。なんでだよくっそ。』


「え。え。」


Yobaseは明らかに自分ではない思考が脳裏をよぎり周囲を見回した。


『しかし、モンスターの気配は無かった。遺言を再び書き直すことが億劫になり、疲れていたため休息をとることにした。』


「いや、なるかよ。遺言くらいしっかり書くわ。」


彼は完全に別のモンスターがいると気づき、周囲を見回した。


[これは始発のカード。]


Yobaseは目の前に現れた画面を見て特別なモンスターがいる事を察した。


「おいおい。あり得ないってなんでモンスターの気配が無いんだ。」

よく考えれば、ホラノイノスラバリウレムから逃げていた時もこんな調子だった。めまいがするっていうか、嫌な方向に考えてしまうっていうか。


「モンスターからの囁きみたいなものも消えた。」


Yobaseは部屋の棚やその向こうの収納スペースを一つずつ開けたがモンスターは見つからなかった。


「まあ。気のせいなら仕方ないな。」


Yobaseの油断を誘う言動も虚しく自分の一階上、地下遺跡8階の道をホラノイノスラバリウレムが移動して来て下の階にまで轟音が起こった。


「獣の音近くないか。まずい。ホラノイノスラバリウレムが目を覚ました。とりあえずこの部屋からの逃走経路を探そう。」


ホラノイノスラバリウレムが貫通させた穴が閉じていないことに賭け、10階に来た際に上に逃げ込めるように道順を辿っていた。


「やっぱり見つからない。かなり移動してきたんだな。」


行先をノートにまとめるようになっており、先ほどいた部屋までの道順を覚えていた。前方から光は入っておらず、同じような道だった。


頭の中で話しかけてたモンスターに気配を探られないように階の道順を記録しておけば、あいつの居場所のヒントも分かるかもしれない。


Yobaseはカメレオンの7が登場した時、チートスキルが特別なモンスターではないかということを鯱千と話しておりこの地下遺跡を突破するために囁いたモンスターを探す他ないと思っていた。

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