第13話 六衛田芽助、レトファリック、男組の友情

「レトファリックさん、僕、は。」


田芽助は固まったまま剣を握っていた。

彼は目を隠し少し考え結論を出した。


「あなたにこのモンスターと向こうのウィーブローズシープの経験値あげます。すいません。あとで井戸の近くに戻るんで。」


「田芽助!」


田芽助は遺跡の方に走っていった。


「無茶だ田芽助君、馬鹿野郎。」


Yobaseはなんとなく彼は強くなりたいのだと思った。

彼も同じ事を考えていた。彼の中には生き残りたいという気持ちが根幹にあった。MMOでデスゲームが始まっても安全圏から動かなければ死ぬ事はない。

何処かのお人好の元リーダーとは違い最善手だった。


「レトファリック、ウィーブローズシープも持ってきたぞー。」


彼女の網にかかると重いが鯱千だけ軽く持ち運べるようになる。レアスキルと呼ぶほど強力だった。彼女はそれを引きずってエルフを井戸の中に運んでいた。


「レトファリックリーダー、level UPおめでとう。」


「ああ峯未雨、鯱千、お前らのおかげだよ。」


彼はlevelが2に上がっていた。3になるのも時間の問題と言える程だった。


「じゃあ急いで田芽助の馬鹿を引き戻しに行かないと。遺跡まではまだ距離があるし私のスピードでもスキルでも追いつける。じゃちょっと待ってて。」


「待ってくれ。」


彼は峯未雨から目を逸らした。


「お前ら井戸の中に戻っててくれ。俺があいつを連れ戻しに行く。もし時間に現れなかったら第二サーバーに向かえ。遺跡のウェイターボの動きは分かってる。すぐ戻ってくる。」

「分かった。リーダー。」


「いいぞー。早く安全圏に戻りたかった。もう誰かいるかも知れないしな。」


鯱千が井戸の中に走り出したので峯未雨も戻らざるおえなくなった。

峯未雨は感情は無駄だと思っているが、戦をしてきたものの予測、嫌な感じを察知した。


「レトファリックさん。Yobaseさんみたい消えたりしないで。どうか血迷わないで下さい。」


「連れ戻すだけだ。井戸に入る時も油断はするなよ。」


彼も遺跡に向かって走り出した。


ガーケイム・アトラ遺跡


田芽助はようやく、遺跡につき膝を抱えていた。


「何をしているんだ僕は。自分じゃないみたいだ。」


パーティーから離脱し単独行動、その上、推奨レベル22の遺跡へともう一度足を踏み入れた。迷惑な判断をしていた。


どうしよう。levelを上げたくて来たのにこれじゃ何も出来ずに帰るだけだ。峯未雨さんでもウェイターボガーディアンを倒せてないのに僕が倒せるはずがないじゃないか。


彼は勇気のある青年ではあった。しかし、草むらからガーディアンの動きに怯えるしかなかった。


「このガーディアンの動き、さっきも見た。」


彼は草むらから見つからないようにウェイターボガーディアンを見つめていたが、その動きの規則性に気づいた。


「敵がいないときは、柱を通りすぎて右に曲がっている。しかし向こうのガーディアンと鉢合わせたら向きが逆になるんだ。」


彼は峯未雨と出会ったときを思い出していた。


あの時はガーディアンがどう動いていたんだ。確か視認しても急に曲がる事はできない。そうか彼らは4方向にしか進めないんだ。


あの時ガーディアン同士がぶつかったのは?ビームを打つ前の動作は?

連撃とビームを打つ時の距離との関係は?


彼の脳内では一撃で致死ダメージを与える相手のパターンを経験から推測し続けていた。


彼は、推しを見つけるとその人の事しか考えられなくなる。その際推しの行動、反応から自然と分析する様になっている時があった。


彼はそれを死線に応用した。


彼の中では勝利への方程式を探すようになっていた。


「まず、ウェイターボガーディアンは近くに2体のみ。それなら一直線上に来たタイミングで中心で視認させる。ビームを打つ際の動作は必ず右から。柱の手前で打たせれば柱は少し崩れるが次のビームまでのインターバルを稼げる。その間に上部にあるセンサーを大きな石で壊せれば確実に2体がぶつかって停止する。」


強い者や察知力のある者であれば感覚でやっていることを彼は全て手順を明確にしなければならなかった。しかし、それ故に動きに規則性を見つければ彼の洞察は周到深い、侮れないものになる。


「別に柱の手前に数cm単位で合わせなくてもいいんだぜ。駄目なら俺が囮になってあげるよ。」


「レトファリックさん。なんでですか。」


「経験値くれたり聞いた話によると鯱千に食料あげたり、敵のエルフ逃したり話を聞くたびにお前はこのDESSQじゃ真っ先に死にそうだと思った。だが、お前人がいいからな。うちのパーティーには必要だ。男一人だと辛いからな。それともう敬語は必要ない。」


「あ、ありがとうございますー。」


田芽助は泣きそうになりレトファリックに抱き着いた。


「まあいいか、じゃ行くか。田芽助。」


「はい。手順通りに行きましょう。」


ウェイターボガーディアンが円を描くように回って来た。柱の通りすぎ曲がった。2本の柱の間をガーディアンが抜けようとした。


「今です。」


「手合わせ頼むわ。ガーディアン君。」


ウェイターボガーディアンlevel 10防御力がかなり高くビームを打つことが出来るので弱点が少ない。


ウェイターボ2体が彼を視認。ビームを放つが柱に阻まれる。田芽助はその間に大きな石を回収して投げていた。


2体ともセンサーが壊れ、何も見えないまま真っ直ぐ進んでいく。


「まだ油断すんな。停止したら攻撃だからな。」


「はい。でもやりましたね。レトファリックさん。」


「ああこの経験はきっと役に」


ガブり。ホラノイエンノシンゴーレムがボスだというのはアップデート前の話だった。洞窟や遺跡は新しいモンスターを再配置していた。


名はホラノイノスラバリウレム。ガーケイムアトラ遺跡の新ボスモンスター。


ホラノイエンノシンゴーレムは、地中から地上に出る際ドリルで穴を開けて出てくるので、反応して避けられる。このホラノイノスラバリウレムはの空いた穴を使って移動。カバのように固い顎で敵を丸呑みにするモンスターだった。


「ゔああああレトファリックさーーん。」


地面が割れ、表面のみが修復されていた穴を伝い、ノスラバリウレムはYobaseを捕食し自身の縄張りである地下遺跡へと潜っていった。

地面が自動的に修復され田芽助の侵入を防いだ。まるでシステムとして初めから狙われていたギミックのようだった。


ガーケイム・アトラ地下遺跡 推奨level 35


「ゔぐ、あああ」

僕がレトファリックさん殺したんだ。また僕のミスでリーダーを失ってしまった。峯未雨さんや鯱千さんに、どんな顔をして説明すればいい。取り返しのつかないことをした。


ガガガ。物音が立ったと思ったら、地下遺跡への入り口が開いた。

「開いた。レトファリックさんの生命がまだあるんだとしたらこの遺跡の中に。行こう。僕が起こした問題だ。助けに行こう。」


彼の行動とは裏腹に足は動かずにいた。

自分の渾身の作戦を嘲笑うかのようにカベリウレムは現れた。

目が定まっていなかった。


足を叩いて動かし地下遺跡にいこうとした時、門が閉まった。


「え、なんで。」


「ぎゃはははははは。いい顔っすね。」


ウェイターボガーディアンの1体が向こう側から綺麗な軌道を描いて現れ門を閉めていた。


なぜか周りの草むらからも笑われていた。


[これは北極のカード]


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