第14話 六衛田芽助vs北極のカードモンスター

六衛田芽助は目の前に現れた画面に書かれたものを分析して何か特別な事が起きていると感づいた。

近くのレバニーラフトフ8体が退路を塞ぎ、ウェイターボガーディアンと同じように人間のように笑っていた。普通の光景ではなかった。


「ぐすん。君さ、側から見てて面白かったんだよね。ゲームマスターの望むように動いてくれてた。クレーンゲームは得意かい。」


田芽助は震えて転んでいたが、体を起きあがろうとしていた。


「なんなんだ、お前らは。地下遺跡に行かせろよ。」


「おお、口調が荒いね。怒ってるのかな。言葉遣いは気を付けなよ。この状況分かってて言ってるのかなあ。」


近くのレバニーラフトフは8体ほどいる。level4が8体とlevel10が1体。


level2の田芽助ではどうしようもなかった。

彼には現実でも同じような光景があった。


「あんたさ、キモいんだけど。昨日も胸触られたって言ってる友達がいてさ。近づかないでまじで。」


「ごめんなさい。そんなつもりは無かったんですけど。」


「キモいから、とっとと、死ね。」


ありもしない事実でただ殴られていた。


後で、全部出まかせだった事を知った。


何人かの女子も一緒に見てて笑っていた。


あの声をどうしても思い出してしまう。


「ありがとう。みんなのおかげでここまでやって来れた。」


元々、推しのSEREINはライブ放送中ほとんど無言になる程控えめだった。推しがコラボをする度に、嬉しくなる。いつしか天真爛漫な人になっていた。


「こんな光景もう慣れたんだよ。」


くそ。Yobaseさん使います。


井戸の中を探して入手した貴重な火薬に火をつけて投げた、よし。


「Yobase手製簡易爆弾」


田芽助は後ろを振り返り、動かないウェイターボガーディアンに投げた。level10 2体撃破。


[Level 4 UP↑]

[Level UP bonus 一時的なスピード、防御力の大幅増幅、剣選択]


[序盤、NPC護身用の剣3つからお選びいただきます。

風鉄剣、キエサシウザン、光撒剣」

[能力解説。風鉄剣は、一番攻撃力、スピードの速い一般的な剣で大半の]


「じゃあそれ。」


田芽助は3つの武器から風鉄剣を瞬時に選択した、相手に隙を与えたくなかった。


「さあ、かかってこ…」


周りを見ると、レバニーラフトフがウェイターボガーディアンの近くに集まり、ガーディアンまで攻撃が届かない体制を取っていた。


「じゃあ俺と一対一しようか。この門を通りたかったらね。」


「くっそ。どこが一対一なんだよ。」


「見たまんまさ。君は仲間の為なら命を投げ出して飛び込む人間とみた。それなら戦法を変えるだけ。どうせ帰っても他の仲間に合わせる顔もないんだろう。あはあはは。」


「正々堂々戦え。」


田芽助は近くのレバニーラフトフを一体に新しい剣を使用しようとした。


「ウェイターボ専用開閉式光銃。」


ウェイターボガーディアンの光弾が田芽助の進行を遮った。


「惜しい。動きがよくなってしまった。Yobaseの向かった先の話でもしようかな。でもね。これで僕もパワーアップできるかもしれないよ。」


田芽助は思わず青ざめた。自分の感じた嫌な勘は的中し、地中からゴゴゴと音が聞こえた。


「来る。まずい。」


前回とは違い、異変に気付き後方に移動。元いた場所に戻り姿勢を低くし体制を整えた。


ホラノイエンノシンゴーレムlevel22


アップデート前のガーケイム・アトラ遺跡のボスモンスター。


ゴーレムにしては足や手が短く大きな球状の腹が回転し大きなドリルが姿を現す。

田芽助は完全な姿を初めて見た。顔が姿を出し、巨体で彼は愚痴を言っていた。


「カメレオンの7は自分の敵に対しても優しいから駄目なんだ。洞窟だと遊び相手が話の通じない奴ばかりだし。そんなだから初日にカードが奪われて僕らの出番も無くなる所だった。本当は強くて面白いのにさ。ずっと石になってれば最後まで奪われないのに。」


「カメレオン。」

プレイヤー レトファリックが一時的に入手したカード。


「じゃあ君に問題を出そう。このlevel22のホラノイエンノシンゴーレムとさっきのlevel10のウェイターボガーディアン一体ずつならどちらが強い。場所は此処で。」


田芽助はさきほどのエンノシンゴーレムの動きを見て頭を回し質問の意味を考えて数秒悩み答えを出した。


「ウェイターボガーディアン。素早いプレイヤー相手であれば機動力が、」


「2弾連動式光銃。」


彼は瞬時に横に避けたが、攻撃の一部が彼に被弾した。


「まあ溜め少なかったしな。機動力か。こういうゴツメなタイプは相手の攻撃を受けた上で戦うタンク系だよ。」


「かは、」


服が一部燃えて消えており、左腹にくらった光弾が彼の姿勢を乱していた。


「もう帰ればいい。後ろにも大勢味方がいる。今level4瀕死寸前の君なら無駄死にだ。yobaseさんの事伝える人も要るんじゃないかな。」


彼は腹にダメージが入り、迫ってくるモンスターと自分の死に対して走馬灯のようにある言葉を思い出していた。


「田芽助さん。君は優しすぎる部分があるね。大抵の人は弱さを内に秘めてるもん。君は弱さを出すからまたこうやってケガして来る。」


保健室の先生は今みたいに誰にでも優しいっていうのだろう。彼は当時冷めた目で見ていた。三次元には興味がなかった。


どんな人間でも弱さを抱えて表と裏の顔を持っているらしい。それなら、この揺るがない強さを持ったこの得体の知らないモンスターも弱さを隠しているはずだ。


奥のモンスターはなぜだか動かない。門を守るのであればウェイターボガーディアン一体で事足りるはずだ。


彼は勝利への鍵を見つけようと模索し始めていた。


彼は一対一だと言っていた。そうであるなら、多くのモンスターを使役しているが中身は一体なんじゃないか。もしくは憑依しているのか。どちらにしても、本体が何処かにいる。彼の視線は迫る脅威ではなく門の前のモンスターに向いていた。


ウェイターボガーディアンもセンサーが稼働しているが声を出さない。なぜだ。意識が集中しているのか。まず、ガーディアン1体のためになぜ8体守らせる。そもそも本体が何処かにいるのであれば草むらや遠くに隠れていればいいはず。不自然に固まっているレバニーラフトフの群れをよく見ると一体だけ、笑い声を出さず控えめそうな者がいた。


彼は人生で初めてブラフを張った。


「レバニーラフトフの中に笑い声も出さずに控えめに身を潜めている者がいますね。君の本体は俺と同じくらい弱い。嘘が下手ですね。」


ホラノイエンノシンゴーレムは突如、素早さを切り替え本気で殺しにかかった。


「死ね。雑魚。」

「図星ですね。今ドキッとしました。」


彼はエンノシンゴーレムのドリルを躱し、ウェイターボガーディアンとレバニーラフトフの群れに一直線に向かって走っていった。


「やっぱ馬鹿だわー。」


彼は後ろからのツインビームを見事に予測し、柱を使って回避していた。


「冷静じゃないですね。声が大きいです。」


「自惚れんなよ。雑魚焼き。」


ウェイターボガーディアンから田芽助の前方にビームが当たり少し砂埃が立ちその間にレバニーラフトフは別々の方向に逃げていた。


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