第7話 田芽助vs北極のカード
六衛田芽助は目の前に現れた画面に書かれたものを分析して何か特別な事が起きていると感づいた。
近くのレバニーラフトフ8体が退路を塞ぎ、ウェイターボガーディアンと同じように人間のように笑っていた。普通の光景ではなかった。
「ぐすん。君さ、側から見てて面白かったんだよね。ゲームマスターの望むように動いてくれてた。クレーンゲームは得意かい。」
田芽助は震えて転んでいたが、体を起きあがろうとしていた。
「なんなんだ、お前らは。地下遺跡に行かせろよ。」
「おお、口調が荒いね。怒ってるのかな。言葉遣いは気を付けなよ。この状況分かってて言ってるのかなあ。」
近くのレバニーラフトフは8体ほどいる。level4が8体とlevel10が1体。
level2の田芽助ではどうしようもなかった。
彼には現実でも同じような光景があった。
「あんたさ、キモいんだけど。昨日も胸触られたって言ってる友達がいてさ。近づかないでまじで。」
「ごめんなさい。そんなつもりは無かったんですけど。」
「キモいから、とっとと、死ね。」
ありもしない事実でただ殴られていた。
後で、全部出まかせだった事を知った。
何人かの女子も一緒に見てて笑っていた。
あの声をどうしても思い出してしまう。
「ありがとう。みんなのおかげでここまでやって来れた。」
元々、推しのSEREINはライブ放送中ほとんど無言になる程控えめだった。推しがコラボをする度に、嬉しくなる。いつしか天真爛漫な人になっていた。
「こんな光景もう慣れたんだよ。」
くそ。Yobaseさん使います。
井戸の中を探して入手した貴重な火薬に火をつけて投げた、よし。
「Yobase手製簡易爆弾」
田芽助は後ろを振り返り、動かないウェイターボガーディアンに投げた。level10 2体撃破。
[Level 4 UP↑]
[Level UP bonus 一時的なスピード、防御力の大幅増幅、剣選択]
[序盤、NPC護身用の剣3つからお選びいただきます。
風鉄剣、キエサシウザン、光撒剣」
[能力解説。風鉄剣は、一番攻撃力、スピードの速い一般的な剣で大半の]
「じゃあそれ。」
田芽助は3つの武器から風鉄剣を瞬時に選択した、相手に隙を与えたくなかった。
「さあ、かかってこ…」
周りを見ると、レバニーラフトフがウェイターボガーディアンの近くに集まり、ガーディアンまで攻撃が届かない体制を取っていた。
「じゃあ俺と一対一しようか。この門を通りたかったらね。」
「くっそ。どこが一対一なんだよ。」
「見たまんまさ。君は仲間の為なら命を投げ出して飛び込む人間とみた。それなら戦法を変えるだけ。どうせ帰っても他の仲間に合わせる顔もないんだろう。あはあはは。」
「正々堂々戦え。」
田芽助は近くのレバニーラフトフを一体に新しい剣を使用しようとした。
「ウェイターボ専用開閉式光銃。」
ウェイターボガーディアンの光弾が田芽助の進行を遮った。
「惜しい。動きがよくなってしまった。Yobaseの向かった先の話でもしようかな。でもね。これで僕もパワーアップできるかもしれないよ。」
田芽助は思わず青ざめた。自分の感じた嫌な勘は的中し、地中からゴゴゴと音が聞こえた。
「来る。まずい。」
前回とは違い、異変に気付き後方に移動。元いた場所に戻り姿勢を低くし体制を整えた。
ホラノイエンノシンゴーレムlevel22
アップデート前のガーケイム・アトラ遺跡のボスモンスター。
ゴーレムにしては足や手が短く大きな球状の腹が回転し大きなドリルが姿を現す。
田芽助は完全な姿を初めて見た。顔が姿を出し、巨体で彼は愚痴を言っていた。
「カメレオンの7は自分の敵に対しても優しいから駄目なんだ。洞窟だと遊び相手が話の通じない奴ばかりだし。そんなだから初日にカードが奪われて僕らの出番も無くなる所だった。本当は強くて面白いのにさ。ずっと石になってれば最後まで奪われないのに。」
「カメレオン。」
プレイヤー レトファリックが一時的に入手したカード。
「じゃあ君に問題を出そう。このlevel22のホラノイエンノシンゴーレムとさっきのlevel10のウェイターボガーディアン一体ずつならどちらが強い。場所は此処で。」
田芽助はさきほどのエンノシンゴーレムの動きを見て頭を回し質問の意味を考えて数秒悩み答えを出した。
「ウェイターボガーディアン。素早いプレイヤー相手であれば機動力が、」
「2弾連動式光銃。」
彼は瞬時に横に避けたが、攻撃の一部が彼に被弾した。
「まあ溜め少なかったしな。機動力か。こういうゴツメなタイプは相手の攻撃を受けた上で戦うタンク系だよ。」
「かは、」
服が一部燃えて消えており、左腹にくらった光弾が彼の姿勢を乱していた。
「もう帰ればいい。後ろにも大勢味方がいる。今level4瀕死寸前の君なら無駄死にだ。yobaseさんの事伝える人も要るんじゃないかな。」
彼は腹にダメージが入り、迫ってくるモンスターと自分の死に対して走馬灯のようにある言葉を思い出していた。
「田芽助さん。君は優しすぎる部分があるね。大抵の人は弱さを内に秘めてるもん。君は弱さを出すからまたこうやってケガして来る。」
保健室の先生は今みたいに誰にでも優しいっていうのだろう。彼は当時冷めた目で見ていた。三次元には興味がなかった。
どんな人間でも弱さを抱えて表と裏の顔を持っているらしい。それなら、この揺るがない強さを持ったこの得体の知らないモンスターも弱さを隠しているはずだ。
奥のモンスターはなぜだか動かない。門を守るのであればウェイターボガーディアン一体で事足りるはずだ。
彼は勝利への鍵を見つけようと模索し始めていた。
彼は一対一だと言っていた。そうであるなら、多くのモンスターを使役しているが中身は一体なんじゃないか。もしくは憑依しているのか。どちらにしても、本体が何処かにいる。彼の視線は迫る脅威ではなく門の前のモンスターに向いていた。
ウェイターボガーディアンもセンサーが稼働しているが声を出さない。なぜだ。意識が集中しているのか。まず、ガーディアン1体のためになぜ8体守らせる。そもそも本体が何処かにいるのであれば草むらや遠くに隠れていればいいはず。不自然に固まっているレバニーラフトフの群れをよく見ると一体だけ、笑い声を出さず控えめそうな者がいた。
彼は人生で初めてブラフを張った。
「レバニーラフトフの中に笑い声も出さずに控えめに身を潜めている者がいますね。君の本体は俺と同じくらい弱い。嘘が下手ですね。」
ホラノイエンノシンゴーレムは突如、素早さを切り替え本気で殺しにかかった。
「死ね。雑魚。」
「図星ですね。今ドキッとしました。」
彼はエンノシンゴーレムのドリルを躱し、ウェイターボガーディアンとレバニーラフトフの群れに一直線に向かって走っていった。
「やっぱ馬鹿だわー。」
彼は後ろからのツインビームを見事に予測し、柱を使って回避していた。
「冷静じゃないですね。声が大きいです。」
「自惚れんなよ。雑魚焼き。」
ウェイターボガーディアンから田芽助の前方にビームが当たり少し砂埃が立ちその間にレバニーラフトフは別々の方向に逃げていた。
田芽助が一時的なスピードを利用した地を蹴るような動きで2体のレバニーラフトフを一撃で倒した。
「弱い。防御力が低いのか。」
群れは身の危険を感じ、惑わせるように動いた。しかし1体のレバニーラフトフは一瞬静止し、ゴナールウォールド平原に向かって走り出した。ウェイターボガーディアンの反応も以前と同じようになっていた。
彼は辺りを見回してレバニーラフトフの群れ6体の位置を確認。
田芽助は先程のモンスターのことが気になっていた。口調は荒いが、優しい事を肌感で理解した。
彼はなぜだかレバニーラフトフが逃げて行ってもモンスターの気配を感じあまり焦らなかった。
彼はその内の3体、ゴナールウォールド平原の反対、インスターボの森に向かっていく3体に目を向けた。
レバニーラフトフの生息域とは別の方向に動く3体の中に間違いなく憑依したモンスターがいると判断した。
レバニーラフトフは早かったが、彼の動きは無駄がなくなっていき抵抗を受けぬよう低姿勢で走っていた。レバニーラフトフにも逃げる算段は合った。
「そんじゃあばよ。見誤ってた。お前は強いわ。」
レバニーラフトフの一体がそう話すと後ろ約10mのレバニーラフトフに気配が移った。彼はそれを察知し意図を読んだ。
「甘かった。確かに自惚れていました。反省だ。」
彼は自身を顧みてまもなく、レバニーラフトフに向かって走り出した。
田芽助の中では既に憑依には範囲があり、あと何度か憑依が移ってしまうことも予測していた。
例え峰未雨でも追いつくか分からない状態だったが、彼は走った。
なぜだか追いつくような気がした。今の自分の本気で彼は走った。
草むらを抜け元に戻ると、さらに向こう側のレバニーラフトフに憑依を移った事を確認した。
ようやく4mまで縮んだらまた離される。それでも彼は走り続けた。
ゴナールウォールド平原で先にばてていたのはレバニーラフトフだった。
早朝、平原の大地にモンスターが寝ころんでいた。
朝日が雲の隙間から差し込み、田芽助とレバニーラフトフを照らした。
「くっそ。こんなゴミに負かされるなんて最悪だ。」
「はああ。まだまだ走れますよ僕は。でも楽しかったです。成長できた気がします。」
そういうと田芽助はレバニーラフトフに近づいていき足を心配して容態を見ていた。あの頃の先生のように。
「それでも僕の勝ちなんで倒させてもらいます。カメレオンを知っているならスキル、持ってるんですよね。」
モンスターは田芽助の息を感じ温もりのようなものを感じた。
「いいや。承認すればいいから。とりあえずそれで勘弁してくれ。」
モンスターは光を出し、彼の前から消えた。
[おめでとうございます。固有スキル、多憑依獣の転転移を獲得されました。使用の際にはNon Player Clown FONUMEES SKILL〔テママリナネットの3〕を唱えて下さい。トランプカードではダイヤの3です。このカードの意味は〔北極の海〕だ。]
モンスターはなぜか背中辺りに戻っていた。
20cmほどの大きさで黄色い羽根付き帽子を付けた青鈍色の猫が歩いてきた。
「スキルの使い方教えてやるよ。」
ガーケイム・アトラ地下遺跡
何階かも分からない遺跡の近くで彼は暗い部屋の隅に隠れていた。
片腕が焦げて負傷していた。痛みを感じないことが不思議だと思えるほどだった。
ホラノイノスラバリウレムは石の壁のような腹の中だった。
1時間前に遡る。
叫び声を出しながらホラノイノスラバリウレムとともに遺跡の近くに落ちていった。
穴をいくつも抜けてたどり着いたことをYobaseは腹の中で感じ取り気を失いそうになった。
「なんだ、こいつ。消化ダメージをまだ受けてない。」
ホラノイノスラバリウレムは石の顎で出来ており中も石の空間なため消化ダメージを受けていなかった。かなり時間が経つと、石から肉体へと変化し消化ダメージが入る。初心者の多い地域のアップデート後のモンスターは、プレイヤーを倒すまでに時間がかかるように設定されていた。
「くっそ口が開かねえ。」
20分後パーティーメンバーの六衛田芽助から連絡が来た。
[こんにちは、squiです。たった今、プレイヤーRokuei tamesukeがテママリナネットの3を獲得致しました。スキル欄をアップデートいたしますのでご確認ください。]
スキル画面の長方形の空白が8つある内の右上から一つ下の欄にトランプのダイヤの3が現れた。
「田芽助、凄いなお前。カードのスキルを手に入れたならあいつが俺を助けに来てくれるかもしれない。」
しかし、30分間腹の中で適した武器やアイテムを使用しても無駄に終わった。
そろそろまずいかもしれない。この俺手製の簡易爆弾を一か八か使うか。でも二個しか持ってない。しまった。田芽助に同情して渡さなければ良かった。
ホラノイノスラバリウレムの中は座る分には広く意外と快適だった。
「まあ自分一人じゃあどの道帰れそうにないならここにいたほうがまだ…うわ、」
カバリウレムは捕食対象を見つけたのか突進していった。
彼は腹の中でただ動かないことしかできなかった。
「口を開いた隙に出てしまえばこっちのもんだ。」
ノスラバリウレムは口を大きく開けると彼は暗い部屋に異様な数のモンスターの気配を感じた。勢いで押し出されそうになったものの彼は怖くなり意地で口の中から動かなかった。ノスラバリウレムは自身の口の中にまだ獲物がいることに動揺し再び辺りを周り助走を取った。
「なんか、死亡フラグ感じたわ今の。モンスターみんなで美味しく頂きますってか。ふざけんな。」
「ゴー。」
鼻から空気を出し前回よりも早いスピードで突進していた。
「あいつが偉業を成したんだ。俺も頑張らねえと。」
Yobaseは危機が迫ると基本的に動かない性格だった。
友人とバンジージャンプをやる流れになった時。
海外の絶叫必須のジェットコースターに乗る流れになった時。
例え、飛行機での待ち合わせでも明らかに予定に遅刻している時。
彼は動かない。何も見ない。ただ何もしない訳ではない。
面倒くさがりが故に彼は可能な限り最善をとる。
「鼻の穴が少し広がったな。お前。」
大きな鼻の穴から彼は簡易爆弾を投げた。
「ゴゴゴ。」
Yobaseの狙いは目を見えなくさせるか、この地下遺跡のボスモンスターらしいこいつに周囲のモンスターを全てすり潰してもらう事だった。
鼻の穴を抜けた辺りで爆発が起こり、彼の狙い通りホラノイノスラバリウレムが壁に向かって突進し出した。混乱しているようだった。
「分かった。さっきの部屋お前が捕食する為に保存してる死体のモンスターだろ。肉食動物からの血があったのに声が聞こえなかった。」
彼は手に爆弾を片手に上機嫌になっていた。
「お前、この地下遺跡で最強なんだろ。最強ってのも大変だよな。大抵一体で行動しなくちゃいけねえ。他のモンスターが何を考えてるのか分かるか。」
前が見えなくなったホラノイノスラバリウレムの周りにモンスターが集まってくる音がした。
「キエエ。」「じじじ。」「ガルルル。」
「ボスをどうやって倒して縄張りを広げるかって考えてんだよおお。」
意味は〔乱怒〕です。]
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