第45話 獅子川宙炊とレトファリック
「誰だろう、あの人。」
レトファリックは、異質な行動に出た獅子川に興味をそそられていた。
獅子川は後ろに2人の仲間を連れていた。
「血潮見、私は人間の脆さを見せる彼らを止めるべきだっただろうか。」
「いや、最高っすよ。獅子川さん、自我を失ったやつらを見るのは最高の愉悦っす。」
「に、に、人間の、慌てふためいた姿、よ、予測できない行動、興味深いです。」
獅子川は、血潮見と瀬高とともに、理性を失った仮NPCたちを見物していた。
こうなったのは、機械神 レドックスドートの仕業だ。
第2サーバーが開通し、獅子川らを出迎えたのは、時神 ルーピル、雷神セト・トルエド、滝神ウァリダスナッコ、そして機械神レドックスドート。
滝神が水の圧力で仮NPCの者を移動させ閉じ込めたのち、雷神の雷と機械神の超巨大鉄球を上から落とした事によって多くの人間の命を奪った。その際の光景があまりにグロテスクだったので生き残った人間も自我を失ってしまっていた。
「あのートレミーっていうアイドルのライブのチケットを持ってないですか。」
獅子川は初めてレトファリックの方を向いた。
「チケットは持ってない。質問するならまず名前を名乗ってほしいな。でもまあいいや。やるべき事があって今忙しくてね。」
そういうと獅子川はその場で白い端末からPCの画面を開き操作し始めた。
レトファリックは自分の名前だけを名乗った。
「レトファリックです。」
すると獅子川は画面の操作を中断しレトファリックを凝視した。
「ふーん。君が最速でカードを手に入れたっていう少年か。興味深い。酒場で話でもしよう。」
獅子川は酒場アルゲエの中にレトファリックを案内した。酒場の中ではゴブリンやミノタウロスが食事をしていた。カウンターの部分は白色のステンドグラスが敷いてありお洒落な雰囲気だった。カウンターで獅子川はレトファリックと一緒に座った。
血潮見がまずレトファリックに質問した。
「さて、そんでどうやってカードのスキルを最速で来たのか教えてもらおうかね。」
瀬高がこれに同調した。
「ぼ、僕も気になります。」
レトファリックが質問に応じた。
「道に迷ってしまって洞窟で命懸けで逃げ回ってたら偶然カードのモンスターを発見して巨大ヤスデが道を塞いでたので戦いました。」
獅子川がレトファリックの言葉に付け足した。
「それでモンスターを捕まえて承認を得たと。故意じゃないのか。なるほどね。ありがとう。」
獅子川は彼を試すかのような目を向けた。
「故意じゃないなら再現性がないかもしれない。よし君を試して見よう。マスター、食糧とグラスを交換しよう。グラスを一つ私に売ってくれ。」
そういうと獅子川は隣にレトファリックを誘った。
「このグラスをあそこにいるミノタウロスに向かって投げる。もちろん逆上して襲いかかってくるだろう。それを倒して見てくれ。」
そう話すと獅子川はグラスを酒場の中でも特に大きいミノタウロスに向かって投げた。
ミノタウロスは頭から血を流しながら獅子川の元に向かってきた。
「なんのつもりだ。貴様私の頭目掛けてグラスを投げやがって。」
獅子川はミノタウロスに向かって謝罪をした。
「申し訳ない。このレトファリックってガキに強要されたんだ。どうか許してくれ。」
ミノタウロスの標的が獅子川からレトファリックに変わった。
「待ってくれ。何かの勘違いだ。」
レトファリックは弁明したが、ミノタウロスは彼を標的にしたままだった。
「くそっ。カメレオンの7！！」
彼はジジベムパワーに擬態した。ミノタウロスはレトファリックの麻痺にかかり身動きが取れなくなっていた。
「ほう。アイテムに擬態できるのか。面白い。」
次にレトファリックはドリルレーダーのドロップアイテム、レダドリルに擬態しドリルを回転させミノタウロスの肩を貫いた。
「痛え。こいつ。」
獅子川は面白いものが見れたと手を叩いた。
「面白いスキルだね。アイテムに化けてカメレオンのように壁を伝い移動する。」
獅子川は満足したのか雷神の能力を使用するために手に電気を溜めていた。
「もういいよ。満足した。雷神セト・トルエドの10。」
そういうと彼の手の中に溜まった電撃でミノタウロスを地面と並行に帯びる横の電撃で倒した。
「掖電撃。」
レトファリックは先程見たのとは別の雷撃を見て動揺した。
「君、うちのチームに入りなよ。うちは今ところスペードの10回答者、売れない漫画家、ハッカーって感じだけどもっとチームを強くしたいんだ。全てのカードを集めるゲームのためにね。」
しかしレトファリックはこの誘いを受け一つ質問した。
「先程もそうですがなぜミノタウロスを殺すんですか。彼らにも市民権が与えられてこの地で生活しているというのに。」
レトファリックの質問に彼は素直に答えた。
「第二サーバーは第一サーバーまでとはまるで違う。ここはまるでNPCである敵モンスターのために作られたような街だ。おかしいじゃないか。第一サーバーでは討伐対象のゴブリンやミノタウロス、スケルトンが生息している。我々は第一サーバーから来た元プレイヤーだ。ゴブリンもミノタウロスも討伐する。それが僕らのルールだ。」
レトファリックはその言葉を素直に受け入れた。
「なるほど。」
少しの沈黙ののちレトファリックは彼の誘いに返事をした。
「でもあなたたちとは行動できません。僕は教師になるためにここ第2サーバーに来ました。教師になってある街を変えるために。NPCとプレイヤーの共生を目指します。」
レトファリックの言葉を聞いて獅子川は納得したそぶりを見せた。
「そうか。分かった。残念だが君も君の道を歩むというなら止めはしないよ。」
そうして獅子川は酒場を去った。
「行こう。瀬高、血潮見。我々も我々の道を歩むとしよう。」
レトファリックは再びトレミーのライブチケット探しを始めた。
「マスター。トレミーちゃんって子のライブのチケットを持っている人を見つけたら教えてほしい。聞き込みしてくれませんか。」
すると酒場アルゲエのマスターは答えた。
「持ってるよ。俺、トレミーのファン。ほら。」
レトファリックはマスターの意外な趣味に戸惑いながらも目的を達成したことが嬉しかった。
「え、え本当ですか。すごいトレミーさんのライブチケットだ。」
「見せるだけでいいのか。」
レトファリックはマスターのチケットを凝視した。
「一度触らせてください。」
結果マスターからチケットを触れる事ができた彼は感謝を伝えた。
「チケットを持っていてくれてありがとうございます。」
レトファリックはその酒場を後にした。
彼はそのまま転送し元のリバーライド・シャトール王国に戻っていた。
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