第9話 田芽助らはYobaseを捜索しに遺跡に入る。
30分前、井戸の中の一室
「田芽助のせいでまたYobaseさんの仕事が増える。」
「エルフ逃がしたのまだ根に持ってるんだー。」
「当然じゃない。今日の夜にプレイヤーが降りてくるの。とにかくあいつは邪魔。パーティから外してもいいかも。」
鯱千はYobaseと田芽助の気持ちをなんとなく理解しており峰未雨の見方を変えようとしていた。
「峰未雨姉さん。田芽助のこと意識しすぎじゃないすか。彼も彼なりに反省したからパーティの役に立とうとlevel上げを頑張ってるんだと思う。」
峰未雨は鯱千の顔を見て目をそらした。
「鯱千。その話し方むかつくからやめて。2人しかいないんだから普通でいい。田芽助が遺跡に向かった理由はなんとなく分かってた。Yobaseさんもlevelを上げたいのかなと思ったから止めなかった。」
鯱千はその言葉を聞いて
「本当?」
と真偽を確かめたのち深いため息をした。
「なんでそんなにYobaseの事慕ってるん。好きなん。」
「接し方が好き。田芽助と違って落ち着いてるし。危害は加えなさそう。」
鯱千は説得するように自分の思いを話し始めた。
「彼の作ったこの簡易爆弾は使えるけど、この私のスキルに合うように作った砲弾は使えない。なんで。坦々麺の仕返し?。」
峰未雨は砲弾を見ながらYobaseの事を頭に浮かべていた。
「違う。彼はパーティの仲間もそんなに信じてないの。鯱千、いつかあなたが敵になる事を想定してしまうから彼は怯えて嘘をつくの。」
「じゃあやっぱり手抜いてるんじゃん。アイテムを合成するだけってそんなに技術がいることなの。」
峰未雨は少し怒った。
「私が手伝おうとしても分からなかったのに鯱千に製作ができると嫌。砲弾が作れるなら自分でやれば。てかDESSQヘビーユーザーなのにアイテム製作やってないのね。」
鯱千は峰未雨の挑発に乗った。
「お前は不器用なんだ峰未雨。Yobaseの簡易爆弾もすぐに超える。昔からセンスいいから私。」
「砲弾を作ったら田芽助達を追いかけないと。どうせ、ガーディアンにはやられてない。」
「それも野生の勘なの。」
それから20分間、いつの間にか二人で協力して、砲弾を製作していた。
爆弾が当たると遺跡の入口を塞ぐ壁まで届かず少し手前で爆発した。しかし地面にひびが割れる程威力が高かった。
「峰未雨どうする3号でいく。」
「いや、火薬を集中させすぎたから無理。私が自力で開ける。」
鯱千と峰未雨がそれぞれの方法で入口の壁を開けようとしていた。
「峰未雨さん離れてください。敵が来ます。」
田芽助の声を聞き、峰未雨は瞬時に身をかわした。
しかし、なぜか近くにいたウェイターボガーディアンが光線で入口の壁を破壊してしまった。
峰未雨は動揺した。
「なんで守衛のガーディアンが。」
「田芽助がまたいないんだが。てか今こいつ喋ったのか。」
田芽助は既にウェイターボガーディアンに扮しており、峰未雨と鯱千が戦闘態勢に入った。
「あの田芽助です。さっき手に入れたカードのスキルを使うと10体まで憑依できます。防御力はないですけど。」
「田芽助やるな、だがむかつくんだよ。」
峰未雨が攻撃しそうになったのを見て淡い紫色の光が移動し人間の田芽助が出てきた。
田芽助は音を立てず、ガーディアンを背にして様子を伺っていた。
「峰未雨そんな暇ないから、田芽助も危ないから早く地下遺跡GO。」
鯱千と田芽助、峰未雨の3人が地下遺跡一階の中を走り出した。
鯱千は、田芽助が自分より剣の腕が上達しているのを見て態度を改めようと思った。
「level10のモンスター相手でも戦えている。鯱千さん。これであなたの役に立てますか。」
鯱千はなぜだか無性に腹が立った。
こんなネトゲ初心者の世間知らずに守られんのは嫌だ。
「邪魔だ田芽助。近接戦闘は私でいい。」
しかし、恐るべきは田芽助の見違えた剣技を圧倒している峰未雨の姿だった。
「前の敵がいなくなっていく。」
「峰未雨早すぎ。」
「鯱千。お前のスキルはパーティでの戦闘で効果を発揮する。この地下遺跡じゃ無理だ。」
「姉さん。」
鯱千は進んでいく峰未雨を羨望の眼差しで見た。
峰未雨のあまりの猛攻に地下遺跡のモンスターの動きが活発になり始めた。
レバニーブルの群れが来た。
向かってきたlevel13 レバニーブル10体の猛進を田芽助のスキルで動きを封じた。
「うわ。力が強すぎる。」
田芽助のスキル「テママリナネットの3」
相手の戦闘力に応じて、憑依し使役できるかが変わってくる。
レバニーラフトフ全てが峰未雨と鯱千に向かってきた。
鯱千は見せ場だと思い専用バズーカを取り出しスキルを発動しようとした。
「駄目だ。どうしても可愛く見えない。」
峰未雨はYobaseの伝えたパーティの目的通り、鯱千を守るためにレバニーブルを返り討ちにしようとした。
2体を倒したものの3体目のレバニーブルが峰未雨に突進を食らわせ態勢を崩した。
4体目と5体目のレバニーブルの猛進も直後に食らいそうになり瞬時に身をかわし後方に下がった。3分の2まで下がった自身のHPを見て峰未雨は自分を戒めた。
「死線は好きだが、今はそんな事をしている場合じゃない。」
峰未雨はスキルの[クロウメハカアマル]を使用した。
自身の身に着けている服が光り男性用の黒く梅の花模様になり、帯が伸縮性のある足先までは届いていない袴のアーマーが身に付き、靴もアーマーされ黒くなっていた。
自身の防御力、耐久力、瞬発力が大幅に上がった。
「慣れない。ていうか少し動きづらいなこれ。」
峰未雨が仕方なくレバニーブルに向かって突撃すると、足のすねが瞬発的に力が加わり早く移動できるようになっていた。
「うわ。少し飛んだ。」
モンスターに迫っていくのが思ったより、早い。
態勢が崩れながら目の前のレバニーブルに斬撃を与えると、かなりのダメージになった。そのまま何体かを倒していった。
田芽助も憑依から既に離れておりレバニーブルを討伐していた。
鯱千も足を少し止めていたが、途中から戦闘に加わった。
レバニーブル3体を片付けると、峰未雨は田芽助の事を威嚇した。
「顔は見違えたけど、いまだに臆病者。調子に乗んなよ。」
鯱千が間から田芽助をフォローして峰未雨を止めた。
「いやー。この目でみると流石じゃん。田芽助君かっこいい。峰未雨もパーティじゃないと遺跡の下に進めないくせにー。」
「自分一人で攻略できるなんて思うなよ。田芽助。」
鯱千は落ち込んでおり、自分のスキルを使った出番がないかなと探っていた。
峰未雨のlevelが7でスキル2つ、田芽助のlevelが5でテママリナネットの3を持っている。
自分のスキルを見返してレアスキルだからと自惚れていたと思った。
地下遺跡を進んでいき、3階あたりの広間にてモンスターの群れが襲来してきた。
虫モンスターである、グラスピーズ
オオゴマダラの形から粉まみれの白い大きな尻尾が生えており、そこから周囲に花粉をまき散らす敵の動きを痺れさせ封じ込み口からベロを出し、敵を絞め毒ダメージで死に追い込むモンスター。
ジジベム。
ジジベムパワーを動力原にしており、それぞれが陽極、陰極を操作し合体し砲撃の方に敵を打ち落とす。合体したジジベム3体以上はジジベムパワーの電気性大きなジジベムパワーの電子移動の流れを大きな糸の形にして合成され、ジダカットカムルになる。これを触るとジジベムパワーの電気が周囲に張り巡らされ網のようになる。
グラスピーズが、花粉をばらまくより先に田芽助が前回の反省を生かし、テママリナネットの3を力技で封じ込み、峰未雨がその間にジジベムを合体前に機械の溝の核を剣で攻撃し裂き続け、電気を帯びたかのように素早く触れずに討伐していった。
すごい。鯱千は、自身よりlevelの高いモンスターを圧倒している二人の力を見てついていけないなと思った。まるで動画に登場してくる有名人を見るように呟いてしまった。
「まるで主人公だなお前らは。」
鯱千はいつしか動画を漁るようになった。
「あー。まだWoddatの出番ないのかよ。ちぇまああの化け狸でいいか。」
「鯱千ー。どうせまた部屋散らかしてんだろ。激辛担々麺買ってきたぞー。掃除してやるからドア開けてくれー。」
男は全員あほだし、女は全員キモイけど、この人たちはめちゃくちゃ面白いな。描くペンが止まってしまう。
7月、夏の日が熱くなり熱中症が叫ばれる中、部屋で3日間風呂に入っておらず、見たい有名人が夏限定でコラボして72時間連続配信をしていたため、現在4日目を更新しそうだった。
親は二人とも航空関係の仕事で外出する事が多く、基本的に一人だった。
昔からイラストを描くことが好きで好きな推しの絵を描いて専用サイトに投稿したこともあった。
ただ、サイトには自分よりも上手い絵が並んであった。一枚の絵を描く労力より、毎日ゲームして掲示板と、クラン間のコミュニティーでチャットする方が明らかに楽しかった。イラストを描くことは趣味でいいと思っていた。
自分の絵が売れたことは無かった。いいねも始めは8いいねくらいが平均だったのに、同じBL系の絵ばかり描いていたら見る人も減っていった。
DESSQ絵師
DESSQ内のリバーサイドシャトール王国で登場するダークエルフ、ゼレラミルラムのコスチューム、キャラクターを担当しました。
アカウントの名前よりも肩書に目が行った。
すぐ下のポートフォリオの一番上にゼレラミルラムの原画が描かれていた。
イラストも何枚かあり、描写も、色彩も、なんか全てが美しかった。
あまり、嫉妬心は湧かなかった。この人の作った絵を私は認めている。
おそらく絵が一流になる程、ひたすら努力したのだろう。見てすぐに自分の描く絵とは違う。イラストの中のキャラクターが動いて選ばれに行っているようだった。
「この人も細部まで綺麗なイラストみたいだ。」
それなら私は脇役でいい。
「またクランの奴らを私のアートを見せて美的センスで驚かすか。」
地下遺跡3階
「かっこいいぞー。お前ら。私は峰未雨の言う通り今回は静観させてもらおうかな。」
鯱千は自分のレアスキルが地理的不利だったため、峰未雨と田芽助に委ねる事にした。いつの間にか峰未雨の陰に隠れる事もやめ後方に下がっていた。
峰未雨が鯱千が集中を解いていることに気づきYobaseの代わりのように指示を出し鯱千を急かした。
「ジジベム合体前に捕獲しろ。合体したモンスターの電気の網に捕まるとまずい気がする。今のお前のスキルでもできるはずだろ。」
鯱千は峰未雨の指示に従って、すぐに専用バズーカを設置。発射準備をした。
「バムバム。」
目標をカーソルで捕捉。峰未雨から離れて空中を電気の磁力で移動しているジジベム4体に狙いを定めた。
「ジジベムたん…。」
鯱千はジジベムの見た目はかわいいと認識すると思っていた。
[ニーグ・バムタンタン砲ゲージluv.0]
「あれ、なんで、なんで発射しないの。」
鯱千は予想外のスキルのゲージに戸惑っていた。
ジジベムが合体し始めた。峰未雨はすかさずもう一度、鯱千を背中を見せながら焦りながら指示を伝えた。
「鯱千。合体する前に早く捕らえろ。」
峰未雨の指揮は失敗に終わり、ジジベム4体が合体し、ジガラットカムルになった。
見た目が、黒い面とジジベムパワーの見える光の面が交互に織り交ぜられた四角垂が上下左右の4方向に並び電気の網を張り巡らせた。
峰未雨はその網に捕まり、感電ダメージが入り始めた。
「いたた。くそ鯱千。しっかりしろ。このままじゃYobaseのいる所までつかないぞ。」
鯱千は半ばこの二人を置いて逃げようかと思っていた。しかし、冷静にこの二人がこのDESSQの現環境で優位な力を持っていると分析した。
「ねえ。もうYobase置いて第二サーバーに行こうよ。」
「ふざけてんのか。鯱千。井戸の中で砲弾作ってるときYobaseの事あんなに仲間みたいに語ってたのにな。」
「仲良しでやっていける程このデスゲームは甘くないと思う。初日でロードアーム王国も、エレミル王国も廃墟になったんだよ。」
鯱千は峰未雨がYobaseの事を一人でも追いかけると思い、少し諦めながら話かけていた。
「私はリーダーが彼じゃないとこのチームにはいたくない。」
「強いからって、主人公だからって言い分が通りすぎじゃない。」
鯱千は田芽助に目をやった。
「田芽助君。現状を理論的に把握できる君なら私の意見も分かってくれると思う。私たちが生き残ることがYobaseの望んでいる事じゃないの。」
田芽助は、グラスピーズの群れを足止めするために集中していたが、意識を一体のグラスピーズに集中させ、鯱千に想いを話し出した。
「はい。分かります。今戻って第二サーバーに行くことが賢明で着実で最善です。でも鯱千さん。あなたが笑えなくなってしまうのは嫌です。あなたは僕の推しで好きです。今現在此処にいるあなたが僕の生きる目的です。」
鯱千が田芽助の言動に戸惑っている間も田芽助は
「好きです。推しです。」と叫び続けており、始めて男として見た感情も恥ずかしさに変わり、恥辱になっていった。
怒りが力となって、鯱千のスキルが開花した。
「恥ずい。恥ずいスパークボルト。グラスピーズ田芽助たんへ。」
[ニーグ・バム坦々砲ゲージluv.3]
「乱獲して黙らせて。」
ゲージluv.3のニーグ・バム坦々砲は、網を複数発射するスタイルだった。
とにかく田芽助を捕らえるために、専用のバズーカの向きを変えながら、焦りながら10体のグラスピーズを捕獲し地面に落とし動けない状態にした。
田芽助がグラスピーズから憑依を解こうとしても網に捕まってしまう。
通常の凍結や捕獲スキルであれば憑依は解くことができるが、鯱千のレアスキルは精神干渉もする捕獲スキルなため、田芽助はグラスピーズのまま身動きが取れなくなっていた。
小刀を取り出し、網の中のモンスターを脅した。
「好きとか推しとか地下遺跡だからまだいいけど街とか人のいる場所では言わないで。あとね、田芽助君結局私の意見は聞かないんだね。もしこれから私の命令に従うなら網を…。」
峰未雨が剣で田芽助ごと網を切ろうとしたが、寸前で止め、網だけを裂いて解放した。
「ひえ。」
「こんな奴と張り合ってると思いたくない。馬鹿にされた気分。スキル奪ってやろうかな。」
峰未雨が横から鯱千を脅した。
鯱千の生返事に峰未雨は胸ぐらを掴み、何も言わずに離した。
「鯱千もつまらない冗談は今後やめて。」
「はーい。」
「鯱千さん、Yobaseリーダーを行きましょう。」
その後、鯱千が前向きになり、峰未雨と田芽助も順調にスキルの感覚を覚え始めて地下遺跡を駆け降りていった。
地下遺跡5階
モンスターの群れが来るたび峰未雨が襲い掛かり敵に見つかってしまう。田芽助が足止めを行い、鯱千がすかさず網で捕獲して残った強敵を峰未雨に倒してもらうという戦い方で何とか乗り越えてきた。しかし、一番初めに体力を失ったのは峰未雨だった。
虫モンスターの麻痺、機械モンスターの電撃、それらの状態異常ダメージが峰未雨の身体に蓄積され、足が止まってしまった。レバニーラジブルの群れが襲い掛かって来た。
「峰未雨さん危ない。」
峰未雨が反射で身を躱し、緊張と汗を熱に変えて、流れるような剣技で敵を圧倒した。
すかさず田芽助がスキルで止めに入ったが必要ないと言わないばかりに全ての敵を葬り去った。
[level9 UP ↑ ]
[level 9 UP bonus 一時的なスキル 攻撃力、防御力増幅。]
足止めに徹している田芽助は、levelが6に上がり、鯱千も捕獲したモンスターを倒し、level4に上がっていた。
「峰未雨さん。一旦仮眠を取りましょう。level7を超えたあなたなら睡眠後10分でHPが3分の1回復します。私たちが見張っているので休んで下さい。あなたが今一番負荷を負っていてHPが低いです。」
峰未雨は田芽助の助言を断った。
「いや時間がもったいない。1階ではモンスターの攻撃を喰らいすぎたがその後は的確に倒せている。Yobaseさんは一つ下の階にいるかもしれない。」
遺跡に入った初めの頃とは違い、負荷を負い3分の1まで減った峰未雨と、鯱千の仲が悪くなっており田芽助が間を保っていたが時期会話が少なくなっていった。
しかし、田芽助にとっては複雑な気持ちだった。
「田芽助っち。どうやってテママリナネットを倒したの?」
鯱千は前よりもフレンドリーに話しかけてくれるようになった。
「倒したんじゃなくて承認してもらって。相手の数も攻撃も多くてゴーレムの攻撃を避けて、レバニーラフトフを倒していったら、上手く行きました。」
「DESSQ内じゃ噂が止まなくなっていると思うよ。私も田芽助君の活躍を近くで見てたいな。」
鯱千は田芽助の身体にハグしてエールを送った。
めちゃくちゃ嬉しい。こんなこと滅多にない。
しかし、峰未雨とはほとんど会話をしていないため田芽助の顔はあまり晴れていなかった。
6階に入ると印象が変わりモンスターが少数で出てくるようになった。峰未雨も今まで通り機敏に戦えていたため、これならこの階はひとまず乗り越えられそうだと思った。
2階と4階にもあった定期的に訪れる十字路の多い細い道は少し暗い。必要な場合峰未雨に負担をかけないため田芽助が灯りを持っていた。かなり暗い道が今までにあり10体以上であろうと峰未雨が行動不能にして他の二人でサポートすれば余剰だといえる程だった。
道が少しずつ暗くなっていった。近くの灯りが倒れており、壊れた遺跡のかけらが転がっていて踏むと音がした。
「プス」
前の暗闇から遺跡上部を伝い峰未雨の肩を突き刺した。
「いた。」
「あれ、峰未雨さん。大丈夫ですか?」
「峰未雨どしたん。あ、上。」
峰未雨の足にも同じツルが刺さり、リーダー不在のパーティーは統率が取れなくなっており、峰未雨の息が荒く、視界が狭まっている事に2人は気づいていなかった。
田芽助は浮かれていた。現在パーティーの中核を自分だと思い込んでいた。本当に倒れてはならない者が、戦闘に置いて全幅の信頼を置ける人物が敵に背を向けた。
「み、峯未雨さん。どうして。後方からの攻撃にも反応していたはず。」
田芽助は自分の不注意でまた仲間を危険に追い込んだ事で動けなくなっていた。
「田芽助君。峯未雨を守って。お願い早く。」
普段とは違う声色の鯱千に田芽助は我を取り戻した。
「はい。スキルを使用します。テママリナネットの3。」
しかし、テママリナネットの3は敵モンスターを完全な姿で3秒間視認しないと発動できない。
田芽助はスキルに比重をかけていた。自分の実力とテママリナネットの能力を混同していた。
脇腹を抑える峯未雨を見るのは、初めてだった。
「動揺するな。援護なしでも私は。」
無情にもツルが増殖し、峯未雨に纏わりついて連れて行った。
「駄目だ。行かないで。」
田芽助は、Yobaseと同じ悪夢が脳裏をよぎり、ひたすらに走っていた。鯱千もかなり青ざめており、動けなくなっていた。
暗い広間に着くと縦に長い大きな広間である事が分かった。
なにせ、モンスターのうめき声が多すぎる。
手前のみ灯りがつき、人間の来訪を歓迎していた。
ガーケイム・アトラ地下遺跡6階モンスターハウス
通常であれば9階以下にいるはずのゲラリオレミザリア、ゲラリオレミゾカ、レバニーブル、ジジベム等が獲物を探していた。
しかし田芽助はそれを視認できるほど心が正常では無かった。
「まただ。また仲間を失ってしまった。」
田芽助の心で蠢く中で黒い何かが視界を狭めた。こんな時ださえ理論的に今帰れば、鯱千さんを、鯱千を。顔が浮かんで曇りは晴れていった。
「まだだ。まだやれる事がある。」
視認できるモンスターはレバニーブル一体だった。
彼は現状を冷静に分析した。
半径10mをテママリナネットの瞳で知覚する能力は、人間がスキルを得た今暗闇では効力を発揮しない。モンスターを視認した事を認識するためには一定の明るさが必要がある。
手元にあるランプを何処に投げるか。
騒音が聞こえていた。峯未雨さんの声が見つからなかったが作戦は実行できそうだった。
灯りを遠くへ投げ、2体のジジベムを視認した事になった。
「結局は峯未雨さんもYobaseさんも僕が見つけ出さないといけないんだ。」
ジジベムに憑依してからは流れる動作で、放電を放った。
光の先にジジべムがいた。
彼は見逃さなかった。
瞬時に電荷をマイナスにし、合体した。
ジガラットカムルの電子移動網を全力で使い、光を周囲に張り巡らせた。
レバニーブルを無視してジジベムのみに憑依を行った。
6体が合体した状態になり、光も増大した。
「ああ。」
峯未雨の声がうっすら上部から聞こえた。
光を声の聞こえた方に集中させるとゲラリオレミザリアがいた。ツルが迫ってくる前に憑依を行おうとしたが、出来なかった。
田芽助は反射でジジベムを分解し、敵の攻撃を避けた。
憑依できないものは避け、憑依できるモンスターをミミズのように慎重に移動しながら集め始めた。
ゲラリオレミゾカ3体を憑依した。
(「そうか同化できていなかったんだ。」)
憑依した対象を彼は、位置、身体を正確に把握したため操作ができる事に気が付いた。
しかしまだ思ったようには動かない。
彼は操作するスキルに対しての力量、器が足りていなかったため、ジガラットカムルでジジべムをまとめ、ゲラリオレミゾカのツルに神経を集中させた。
彼は真剣だった。峯未雨がいる。生きている。見えないけれどまだ取り返せる事にジジベムになった本体の中にいる猫の瞳は光っていた。
ツルでゲラリオレミザリアを誘導させ、敵をそちらに集中させた。
本体のジジベムから青鈍色の猫が現れた。
「峰未雨うう。声が小さくて場所が分かりません。目を覚まして返事をしてください。」
ゲラリオレミザリアが彼女を上部に張り付けていた。
峰未雨は田芽助の声で意識を取り戻し、力技で邪魔な植物のツルを噛んで引きちぎり少しの間に返事をした。
「クッソ最悪。このモンスターを殺すから早く解放して。お願い。」
田芽助は変わらない峯未雨の返事に思わず温かみを覚えた。
問題はゲラリオレミザリアが憑依できない事。
ジガラットカムルの電子移動の網で、敵を麻痺にすることができる。
電子移動の網は、彼女も含めて感電させダメージを与える。
田芽助の中で彼女なら耐えられるという確信があった。
ゲラリオレミゾカのツルを峯未雨のいる方向に纏わりついた。
敵の攻撃は纏わりついたツルではなく声が聞こえた場所に向けられた。しかし青鈍色の猫はもういない。ジガラットカムルの電子移動網を使い、ゲラリオレミゾカ諸共、感電させた。
ゲラリオレミゾカは元の状態すら残らず消滅した。ゲラリオレミザリアも感電状態になり身動きが取れない状態になった。憑依できないモンスターの代わりにかなり苛立っている武者が降りてきた。
「峰未雨さん。」
青鈍色の猫の田芽助はYobaseと同じ過ちをせず、峯未雨を救い出した事で泣きそうになっていた。
「後にして。」
ゲラリオレミザリアもまた、上部に張り付き続けられず地面に落ちてきていた。
しかし、感電している間に植物系モンスターは切り刻まれていた。
峯未雨は自分の服を汚された事に怒っていた。本当に武者のような猪突猛進の剣筋だった。
[level UP 10↑]
[level UP bonus 一箇所転移地点設定可能]
「田芽助、とりあえずありがとう。Yobaseの事に対しての恨みは一旦不問にするわ。」
しかし、暗闇の先には数多のモンスターがいた。ひとまずランプを使おうと、田芽助がアイテムを回収していると、鯱千が周りのモンスターを捕獲してくれている事に気が付いた。
「バマバマ、バミバミ、バムバム、バメバメ。ダメダメだな私。自分に怖くなって峯未雨のピンチに動けんかった。」
言葉は何でも良かったらしい。
[ニーグ・バム坦々砲ゲージluv.2]
暗闇の先のモンスターも、捕獲していった。
「峯未雨、お前の力が強くて羨ましくて、わざと避けてた。意地張ってる場合じゃないのにね。ごめん。」
「いいよ。別に気にしてないから。それより先に不気味な気配を感じる。」
ランプの灯りを鯱千と峯未雨が3人分つけて進むと、そこにはモンスターを捕食する怪物がいた。レバニーブルをキバで噛み殺し丸呑みして捕食しているオオキババラメシドミムが、場を支配していた。
ライムゴナールドレイン遺跡のバラメシドミムより明らかに大きな個体で、生息しているモンスターを捕食するため大きな牙で噛み殺し腹の中に蓄積していた。
峯未雨はやっと自身に感電が回ってきて、HPも減っており、手を出せなかった。
オオキババラメシドミムは肉を欲していた。
人間の匂いに気づき、捕食するため、近づいてきた。
「これが私なりの罪滅ぼしだ」
[ニーグ・バム坦々砲ゲージluv.2]
鯱千がまず反応し、峯未雨を守るために専用バズーカを発射。しかし網より大きく意味をなさなかった。
「僕がやります。」
田芽助が、ジジベム一体を操作して、敵を足止めした。組み合わさってまとまっていたジジベムを再び操作してジガラットカムルの状態にした。電子移動網で足止めを測った。
しかしジジベムパワーを食らっても何のダメージもない事を確認した。
峯未雨を助ける際、意識の中で電気の感覚があった。まるで異世界の魔力の感覚がした。
電子移動の網というのはジガラットカムルでの攻撃手段で田芽助には別の可能性が浮かんでいた。本来、電子移動とはジジベムのように一方方向に移動する事だ。とにかく電気の砲撃をしようと考え、スキル能力に神経を集中させた。やはり魔力のようだった。電気が一つに集約されるように全身から一点へ電気を移動させていく。
時間稼ぎに近くのレバニーブルを3体憑依した。方向のみを意識した。田芽助は少しずつ盤面というものを理解し始めていた。
オオキババラメシドミムを3体のレバニーブルでは抑えられなかったが、捕食に時間を回すことが出来た。
「電気の砲撃が発射できない。まずい。集約した電気が散ってしまう。」
田芽助は自分の大切な人を思い出した。
「バムバム。オオキババラメシドミムさん。どうかこの想い、届いてください。」
電子が集約された砲撃がオオキババラメシドミムを消し去った。
青鈍色の猫がジガラットカムルの近くに現れ倒れ込んでいた。
「使うなら恥ずかしがらないでよ。変えるかもう。」
田芽助は自然と自分の身体に戻った。
鯱千は恥ずかしくて頬を赤らめていたが、スキルを過剰に消費した事に気付いた。
地下遺跡 8階
田芽助はスキルを使用するまでインターバルを要する状態だった。鯱千は峯未雨に剣技を教わりながら、順調に下の階へと進んでいた。
[level6 UP ↑]
「峯未雨ー。levelが上がったよ。」
「そうか。油断は禁物だ鯱千。田芽助のように力を抜いてはいけない。」
「力が入らないんです。僕も普通にモンスター倒せてるじゃないですか。」
8階でまた6階の時のような十字路の道が続いた。
四方から来るモンスターを倒しながら、慎重に進んでいると遺跡の道の幅が広がり、横にはある模様があった。
モンスターと人間が戦っている絵だった。槍先の模様から線が繋がっており、それを人間が眺めていた。コロシアムより形が、複雑で進んでいくと元々開けていた遺跡の道がさらに広がり、大きな広間に着いた。
広間には、遺跡の壁が覆い隠されるほど、光る赤色の花弁の植物が至る所に生えていた。灯りもかなり強く、別のエリアに来たような空間だった。
「ゲラリオレミゾカは見当たらないですね。」
植物の茎に田芽助が足を取られ連れ去れてしまった。
「鯱千。」
「了解。」
鯱千のスキルでモンスターを視認しようとしたが、ゲラリオレミゾカ、ゲラリオレミザリアの姿はなかった。峯未雨は素早く植物を切って進み、田芽助を探した。
実際、田芽助は無事だった。植物は彼の身体に纏わりつくだけで攻撃してこない。
「この植物捕食するつもりがない。ただ、僕を此処に連れてきたかっただけ?」
植物は意思ではなく反応のような動きだった。峯未雨の体の周りにも、植物が纏わりついてきた。彼は全て切って進んでいた。
過ちだった。ただの赤い花弁でもこの植物は一時的に進化していた。位置を把握された峯未雨と鯱千の内、植物の反応から力の弱い方に何匹かの蝶が飛んできた。
綺麗な蝶だったので鯱千は見惚れていたが、よく見ると粉を振りまくしっぽが生えていた。
腕がチクッとした。注射針の跡があった。
嫌な予感がしたが、植物が地面に生えており機敏に動けなかった。
[出血ダメージ]
「こいつら。モンスターだ。」
蝶はリトルグラスピーズというモンスターだった。まだ花粉を出す事は難しいが、血を吸って成長を図っていた。
峯未雨は田芽助の元に辿り着いたが、無事である事に嫌な予感がして田芽助を助けて鯱千のいた方向に戻った。
「本当に邪魔。切っても意味がないし、進みづらい。」
峯未雨は野生の本能で鯱千の方角に強敵を察知した。鯱千は倒れ込んでおり、4体の蝶が張り付いていた。巨大な影が鯱千の前に現れた。グラスピーズザラミバ。
グラスピーズのしっぽが大きく生えており濃い黄色で粉が光っている。
花粉にあてられた植物は大きく成長し、モンスター、人間関係なく危害を加える動物をつるで封じ込める。グラスピーズと赤い花弁の植物はお互いに守り合っている依存関係だった。
「眠い。」
鯱千は貧血状態だった。リトルグラスピーズは人間を殺すまでは吸わない。殺すかどうかはグラスピーズザラミバが決める。
脅威ではない。グラスピーズザラミバは鯱千を見て植物に危害を加えないと判断して様子を伺っていた。
しかし様子を伺っていたのは鯱千だった。スキルでは太刀打ち出来ないため、峯未雨に習った剣技を自分に置き換えていた。腰に収めた剣を相手の隙を見てモンスターを討伐する峯未雨の剣とは別の戦い方を練習していた。
「ざまあみろ。クソ蝶。吸った血の倍経験値吸わせろ。」
4体の蝶を切り殺し、鯱千はグラスピーズザラミバに対しても剣で構えを取っていた。
しかし、グラスピーズザラミバの針はこんなものではなかった。
足に刺され動きを封じられ、花粉を出して植物に異常信号を知らせた。鯱千の腰を落とさせ、針で殺せる体制をとった。
「キュキキー。」
自分の子分を殺されかなり怒っていた。
「まじか。こんな感じで終わるんだ。」
鯱千は峯未雨がYobaseを追いかけると言った時からこうなると思っていた。そもそも、このパーティーは生き残るためにいた。初めの頃は騙しやすい田芽助辺りを踏み台にして、国家レベルのクランに入ろうと思っていた。
あの時、パーティーを見捨てておかなかった理由を考えていた。
「多分私、田芽助君より峯未雨が手放せなかったんだ。」
鯱千は死を感じ安堵したのか蝶から目を離し地下遺跡の天井を見上げていた。
「でも蝶モンスターに血を吸われて一人で終わるのは私らしいかな。」
植物を切り刻んで進む峯未雨は過去を振り返り反省し始めていた。
「あの時強い言葉で鯱千の意見を聞かなかったのは私の方だ。Yobaseさんがいないのに、私がパーティーの話を聞かなければいけないのに。」
峯未雨は昔から力技で敵を屠る武将が好きだった。
誰かは覚えていないが四方からの敵を一網打尽にする武将の絵があった。
「ねえこの武器なんていうの。」
「これは薙刀って言うの。」
「強くない?この武器。しかもカッコいい。」
「うーん。確かにきちんと使えれば隙がなさそう。でも女の子には重いから峯雨は無理ね。」
社会科見学で実物を一度見た事があった。
私の手じゃ持つ事も出来ない。かなり悲しかった。
周りの言う通り男女に力に差がある事に気付いて半ば諦めていた時、DESSQに出会った。
まるで自然界のようだった。モンスターも人間も現実のように感じる。爽快だった。
此処でなら武将になれるかもしれない。
しかしいつの間にかモンスターを討伐して回り、一人で全ての敵を屠る事に快感を覚えていた。
「私もスキルの出し惜しみはもうやめよう。」
[スキル タイジットカーフ使用]
タイジットカーフィーが出てきた。
「頼むぞ。舞雲寺ちゃん。」
耳としっぽにタイジットカーフの虎のような耳と尻尾がつき足腰も強くなっていた。
[スキル クロウメハカアマル使用]
黒い梅模様の男性用袴を身につけた。
パーティーの仲間がこんなに大切なものになる事は予想外だった。DESSQにおいて初めての守りたいと思えるものだった。敵を屠りたい。討伐したい。殲滅したい。今はもう一つ。
「鯱千を、このパーティーを絶対に守りたい。」
植物を切るのではなく、足場にして移動していた。それほどに俊敏で跳躍できていた。枝を植物のツルを掻き分け、移動した先に、植物が集中して生えている場所の中心に鯱千とグラスピーズザラミバがいた。
「鯱千無事、いや冷静にモンスターを鯱千から離さないと。」
針の刺さった蝶をひとまずどかすため、グラスピーズザラミバの羽を引き裂いた。危険を感じた大きな蝶は針をひとまず抜き、狙いを変えた。花粉を振り撒き、植物が四方から彼女に纏わりつこうとした。
まず、後ろからのツルを断ち切り、その後、3方向からのツルも切り、舞雲寺の俊敏性を活かし回転して回避した。
グラスピーズザラミバの針を飛んでいる峯未雨目掛けて刺そうとしたが、横から目を刺された。
「私、このグラスピーズの親玉だけ可愛くないと思うの。」
峯未雨の瞬発力は、前方への跳躍と呼ぶべきものだった。
「私も。」
敵の蝶の肉の部分を斜めに切り殺した。
[鯱千 level 7 UP↑]
[level UP bonus 一時的な最大HP増加]
「峯未雨、助けに来てくれると信じてた。」
バフ。貧血になっている鯱千に峯未雨は思いっきり抱きしめた。
「あなたの話を聞かない私が悪かった。ごめん。鯱千。生きてて良かった。」
「いや、パーティーを見捨てようとしたのは私だから」
それから田芽助とも合流し峰未雨らは9階の道を進んでいた。
すると、squiから吉報が入った。
[こんにちは、squiです。たった今、プレイヤーYobaseがモルホゼフタの3を獲得致
しました。スキル欄をアップデートいたしますのでご確認ください。]
「Yobaseさんが生きてる。」
「生きてるみたいだね。」
「よかった。生きてる。一緒にまた、パーティーでいられる。」
Yobaseさんが生きておりカードのスキルも持っている事から上機嫌になって道を度々走って進んでいた。峯未雨、鯱千、田芽助らはYobaseが8階までいない事に疑問を抱いている最中だった。
9階の道は、初めから十字路の道が多かった。
「峯未雨。私も剣技上達したんだから前衛がいい。」
「勝手な動きは駄目だ。」
「はあ。羨ましい。」
峯未雨が鯱千を超近距離で守る形になっており、田芽助が先頭を歩いているのだが、レバニーラフトフが来る度、田芽助の前をスキルで追い抜いて峯未雨が蹂躙していった。
「峯未雨。経験値が田芽助に並んだよー。」
「おめでとー。後は私が剣技さえ教えれば完璧だ。」
経験値をほとんど鯱千が持っていっている。レバニーラフトフを2体引きずる峯未雨さんが怖い。なぜだ。8階の植物が生えていた広間を超えてから、2人の仲が良くなりすぎてる。邪魔だ。
それでも前方を歩き、モンスターの気配を察知しては仮リーダーの峯未雨に報告していた。その時だった。レバニーラフトフの鳴き声が一箇所に集中していた。
峯未雨が異変に気づき、前方へ進み臨戦態勢をとった。
「とりあえず様子を見に行こう。」
モンスターの声の出る方向に向かうと煙が立っていた。モンスターが落ちていっていた。最後のレバニーラフトフが落ちていき、燃やされ、狩られている。
「レバニーラフトフの脂はよく燃えるなあ。おーい。誰かいないかー。師匠の防壁さえあれば此処は安全だな。」
久しぶりな気がする声が煙の下から聞こえた。峯未雨は思わず煙の下まで飛び込んでいった。
「あ、この声、この煙の下にいる。い、いまーす。」
Yobaseの頭の中で希望が湧いてきていた。
「今、水かける。」
「Yobaseーー。あっち。服が燃える。」
「早いわ。あれ。峯未雨。峯未雨なのか。あ、あはは。なんだその見た目。」
鯱千と田芽助が、2つ下の階に望んでいたパーティーメンバーが生きている事に戸惑いながら心の底から安堵していた。
田芽助は涙を堪えられていなかった。
「田芽助、鯱千、居るかー。今ツルをそっちに渡すから受け取って降りてきてくれ。」
「Yobaseさん。ゔゔ僕の不注意のせいで地下遺跡に連れて行かれた事が申し訳なくて生きててくれてホッとしています。」
「あれは予測できない俺の問題だ。」
自分でも今の台詞を言えた事に感動していた。
「Yobaseー。無事でよかったぜー。田芽助と揃ってカードのスキルを手に入れるなんてお手柄じゃねーか。」
「Yobaseさん。リーダーの肩温かいです。お怪我が無くて良かった。」
Yobaseにとって今の光景は夢と錯覚する程だった。
「さっきまでの地下遺跡での地獄とギャップが激しすぎて追いつけん。」
(…。この状況で人間の仲間が本当に助けに来るとは。)
一旦落ち着きを取り戻し、Yobaseが自身のスキルについて話始めた。
「それでこの動かない赤鉱石の鳥がモルホデフタだ。意識はあって今も俺に話かけている。」『地上まで着いていくだけだとさっさと伝えろ。』
「これからパーティーとして同行してくれるらしい。」
『聞け、弟子、いやYobase。』
「Yobaseさんこの鳥生きてるんですね。凄い。」
「触ったらどうなるん。」
『人間は嫌いだ。近寄るな。』
鯱千の脳内で意識伝令が聞こえた。
「言葉が聞こえた。あれ、もしかして私より年下なの。」
『違う。お前が生まれる前からこの遺跡にいる。』
「お前ら、いきなりで悪いが話がある。」
Yobaseが再び皆をまとめて横に続く遺跡の白い道について話をし始めた。
「確かに変だな。めっちゃ面白そうじゃん。峯未雨的にはどう。」
「私も先に進んでみたい。」
「僕も今のこの4人なら行けると思います。」
「分かった。一旦確認させてくれ。」
(モルホデフタ。さっき言った通り、バグではないんだよな。ゲームマスターに怒られないよな。)
「…。」
「不安要素はあるがモンスターはいないらしい。慎重に行こう。」
遺跡の中でも一際目立つ白い道は暗くなっていった。ランプは発案者のリーダーが持って進んでいた。
「お前ら、情報通の私が考察すると多分この先にあるのは、ただのバグエリアか現実世界に戻る方法だと思うぞ。一番怪しいのはトランプカードのスキルだな。」
「鯱千、心が沸き立つのはいいが、圧倒的な敵モンスターがいる可能性もある。見ろ、白く綻びのない床と壁。遺跡かも分からなくなってきた。俺の勘が危険だと言っている。」
「バグで発生したエリアならこのまま現実に帰れるかもしれないですね。」
「もしそうなら最高ですね。このゲームのシステムに関係する重要な情報が眠っている可能性が高いと思います。」
「モンスターの気配どころか人間が来た形跡もない。これ一番乗りかもな。いたっ。」
「先に行くな。また束縛系モンスターに捕まるぞ鯱千。見ろ。あそこに段差がある。」
かなり前のめりで進んでいた鯱千が目的地に着いた事を悟った。
大きな空間には階段があり、それを登っていっていた。近くにモンスターの声も気配はなく警戒しながら登っていった。
階段の上には巨大な台座のようなものと棺が置かれていた。棺の周りには光る白い花が咲いていた。モンスターがいないのに花の手入れはしっかりとされていた。
ランプを近づける。巨大な壁には緑色の芝生があった。台座に見えたものはビリヤード台だった。
「右端と左端に穴がある。台座じゃない。これは…。」
「え。これどういう事。」
「巨大なビリヤード台?トランプカードじゃないのか。」
「台が横になってる。」
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