第5話 レトファリックvs幸運のカード

[峰未雨 Level 3]

「楽しい。私はこういう戦を待っていた。」


峰未雨はLevel 10のウェイターボガーディアンから逃げながら柱の前で相手の動きを封じ宙に浮き攻撃を当てていた。一発当たれば死ぬ連撃やビームを嬉々として躱している。

洗練された動きに物陰からYobaseは決断した。


「よし、こいつについていけば生き残れる。」


その時だった。ゴンッ。


「ど、どうも。うああ。ガーディアンに気付かれたああ。」

彼はウェイターボガーディアンにわざと石を当て自分に狙いを引きつけた。

「あのー人のモンスターをとらないで。」

「今のうちに、え。今ビーム打ちましたああ??」

彼が六衛田芽助だった。Yobaneは悔しかった。「あいつーー。いかしてるがいけすかねえ。」

田芽助は恐怖で泣きそうだった。

「ああ死ぬんだ僕。あの人かわいかったなー。彼女を守れたなら本望だ。」


ガーディアンが目の前にも来た。


彼は死を覚悟した。彼はこのゲームのNPCでもいいと思っていた。彼もキャラクター目当てで先程始めた男だった。しかし男とガーディアンより彼女の方が速かった。


「なんでここにいるんですか。」


「あのーそんな速さじゃ死ぬよ。合図出したら左に曲がって。…今!。」


すると綺麗に前のガーディアンと後ろのガーディアンが激突して一時的に動けなくなった。


「ここなら視認されないか。ねえあのさ人が狙ってるモンスターを横取りするのはマナー違反だよね。しかも弱すぎ。Levelいくつ。」


「1です。道に迷ってたら偶然あなたに会ったんです。それで自分が囮になればいいと思って。すいません。でも今異常事態です。ここはまとまって動いた方がいいと思います。」


「必要ない。君次からはこういうことはしない方がいいよ。」


「でもあなたもLevel10は超えてないですよね。ここは危険だからせめて別の場所に、」


「何処にいこうと自由でしょ。さっきの動きを見て私が死ぬと思ってんの。」

Yobaseが遠くからようやく彼らを見つけた。「おーい。お前らここは危ない、って聞こえてないな。」


ジジジジゴゴゴ。


「おいまじかこの音。」


ここの強力モンスターのホラノイエンノシンゴーレムは普段は地下内部にいる。しかし、ガーディアンが動き出すと敵がいると認識して地中を移動して真下から現れる。Level 10でも瀕死する初見殺しのモンスターだった。Yobaseは危険だと思い叫んだ。


「下だお前らーーーーー。」



轟音とともに、ホラノイエンノシンゴーレムが地下から地面を砕いて現れた。瞬時に峰未雨と田芽助は反応して上手く避けた。


「なに今の。でかっゴーレム。Level 21??」


「此処一帯のボスみたいですね。逃げましょう。」


「君だけね。今邪魔だから。」


そう言う峰未雨は手に持っている風鉄剣ですら歯が立たなそうなゴーレムに一人で挑んでいった。ちょうどその時Yobaseがゴーレムに気付かれないよう後ろまで回りやっと彼らに追いついた。


「やめとけ強い人。相手から半径2mに入ったら死ぬバグが直ってねえらしい。ここは手を引こうぜ。」

Yobaseは嘘をついてなんとか峰未雨を説得した。

「分かった。特攻だけが戦じゃないもんね。」


そして現在に至る。


「あのーもう夜になって何時間たちました。一向につかないんですけど。」


俺らはLevel1か2のスピードでしか走れない。あと、このMMOはプレイヤーがなんでもできるゲームだ。敵国の近くに置かないことでゴドルペラ王国はチートスキル持ってない弱点を補ってるらしい。」


六衛田芽助は疲れていた。


「それにしても遠くないですか?もう辺りも真夜中でよく見えないしアンデット系のモンスターばかり出てきてます。」


「俺はこれでも元エレミルの兵士だったんだぞ。この辺りのでいいか。」


エレミルの兵士たちがドスペラ王国に向かう際のためにエレミル王国はいくつもの井戸を建設し利用していた。

現実主義のDESSQでは水魔法では体力は回復しない。このMMOは乾きも意識的に再現していた。

体力も水を飲まない状態ではエリアによって一定の時間で減少していく。DESSQにおいて水というのは国家間で数少ない共有している資源だった。


「…確かに敵が来る可能性は低いな。」


「まじで井戸の中で過ごすんですか?」


「そんなわけはねえ。ちゃんと部屋がある。そんじゃ入るぞ。」


井戸の水の下には魔法がかかっていた。解除して石壁が動くと水源のある辺りの見えないほど暗い洞窟に入った。


「Yobaseさん。暗すぎて何も見えないです。しかもちょっと寒い。」


「灯りつけるぞ。確かこの辺りにあると思うんだが。」


アイテム画面には一人一人にNPCサバイバルBOXが入っており、開けると寝袋とテントとノートとランプと25日分の食料とNPCトイレがあった。


ゲームマスターがさすがに近くのモンスターをそのまま食事させることはすぐには無理だろうと思いそれらをアイテムの中に入れていた。


モンスターを倒して得たドロップアイテムで換金できるまではアイテムをできるだけ奪い合わないためにかなり多めに入れていた。


洞窟の壁の中に石壁の扉があった。中には道が続いており多くの部屋があった。そのうちの一つを使った。


「ふう。これ、井戸の水にしては綺麗ね。」


「井戸の水もアイテムなんだ。手に入ればほとんど同じ普通に飲める水になる。」


「はああああ。やっと気が抜けました。えーーーっと、で僕たちこれからどうなるんですか?」


「わからない。squiからのメールくらいしか情報がない。もう一度読んでおくか。」

squiからのメールにもう一度目を通すと、ある違和感に気づいた。


「Yobaseさん。僕たちはキャラ自体、アビリティとかもNPCになっているってことですか。」


「死んでリスポーンしたら正式にNPCになると書かれているってことはおそらくだが今はNPCじゃない。」


それにしてもおかしな点はある。


NPCというのはプレイヤーがいなければ特に何もしなくていい筈だ。今の私たちにはNPCのような役割が与えられていない。しかしメールの最後にあった[ご健闘をお祈りしていますが、遅くとも]というのは不自然だ。


メニュー画面を調べていると、Yobaseはメニュー欄のスキル画面が開くことに気付いた。


「とにかく私たちはこのMMOに閉じ込められてゲームマスターのわがままに付き合わされているってことじゃない。」峰未雨は既に食事を終えたらしい。「俺らも一旦休憩しよう。」


「そうですね。」


アイテムにあった食料を開くと中からパンとカレーが出てきた。


「ただのカレーならまだしも匂いが良い。温度も前より感じる。」六衛田芽助は既にカレーを食べて少し泣いていた。


「うまいです、これ。めっちゃ現実のカレーです。しかも肉もありますよ。人生で一番うまいです。」


Yobaseも我慢できずカレーを口一杯に放り込んだ。


「人生で一番ってのは言い過ぎだ。でも、あはは。確かにうめえ。」


それから何も言わずに無心で彼らはご飯を口に詰め込んだ。その後、六衛田芽助は完全に力が尽きたのか食べ終わった後に寝てしまった。


「なあ。このメールの最後の文章おかしくないか。スキル画面も今までと違くて長方形なんだ。」


Yobaseの画面の指している箇所を峰未雨は覗いた。「確かに変。」


峰未雨は危機感から嫌な予感がした。


「もしかしてこれってさ、元NPCの人達がプレイヤーとしてログインしてくるんじゃない。」


Yobaseは考えたくなかったことが脳裏を巡り、手が震えていた。



「…今の内にLevel上げておくべきだったな。」


Yobaseは自分のステータスを見て後悔した。


「なあこのパンとカレーボリューム結構あるし普通に一ヶ月以上はもつからここにいてもいいんじゃないかと思うんだが。」


「私は朝には出る。もう近いんでしょ。」


「ああ。だが今は夜だしこの辺りは霧も少しある。ドゴスペラは暗いのを好む変な

連中だからよく見えないだけだ。明日の昼までには着くだろう。」


「分かった。」


そういうと峰未雨は寝るために別の部屋に入った。


Yobaseは明日自分が生き残れるのか心配で落ち着けなくなっていた。


「もう俺は無理だ。」


寝る姿勢にはなったものの全く寝られずに起き上がってしまった。


彼はアイテム欄を見直していた。「NPCトイレのこれすごいな。」


DESSQには本来排泄する機能などは存在しない。しかし、NPCとして意識が同一化されている時には排泄するという意識すら再現されていた。


テントを見るとモンスターがあまり近づかないような効果が付与してあった。ランプは40日間でエネルギーが切れると記載があった。ノートは一冊で白かった。何らかの意図があるようには見えなかった。


「とりあえず、食料を確認するか。」


「すげえ。何で違うんだ。」


食料は何と数種類あった。


初めがパンとカレーときまっていただけで、焼き魚、坦々麺、チャーハン、カルパッチョなど多種多様だった。「まあ一旦外の様子でも見てくるか。」


洞窟に戻り井戸の上の音を確認するとモンスターたちのうめき声が聞こえてきた。


Yobaseは少し状況に慣れたのかため息をつきながらNPCトイレを使用した。


Yobaseが外に出ている間、田芽助も峯未雨も既に寝静まった環境でなぜか部屋の扉が開いた。


モンスターのようなうめき声は無かったが、食料の匂いを嗅ぎつけそれを盗もうとしていた。峯未雨は寝ていたが物音に気づき、Yobase達がいた部屋に近づいた。


部屋のドアを少し開けると、人型のエルフがいた。彼女は食料を貪るように食べていた。


「おい。お前敵だな。」


「ぎゃあああ。ワイも人間だから攻撃しないでくれー。」


「うわあああ。何、モンスターですかああ。」


六衛田芽助も叫び声を聞いて起きた。


「お前何者だ。なぜ人の食料を盗んで食べている。」


「あなた人間なんですか。なんでエルフの服着てるんですか。」


峰未雨と田芽助はエルフの恰好をした人間に理由を追及した。


「足りない。」


「「え。」」


「パンとカレーじゃちょっと足りなかっただけ。」


彼女にとって元プレイヤーに渡された食料では足りなかったらしい。


「でもあなたもう担々麺全部食べてますよね。」


「これ好き。コンビニでよく買ってたから。」


彼女は大食いだった。ゲームマスターが多めにきちんと3食分入れていたが、彼女はそれでは満足しなかった。


一旦落ち着いたらしく峰未雨は彼女を正座させ、話を聞いていた。

「はじめまして、六衛田芽助です。」


「私は峯未雨。あなた名前は。あとまずなんでここに入れたの。」


「鯱千。なんで入れたのってエレミル王国は井戸にNPCを閉じ込めてるって有名な話じゃん。入り方も簡単だし。まあどうせ死んだらやばい的な感じだからここにいれば安静にできるし。まさか自分たちだけだと思った?。」


峰未雨は図星を突かれ内心ムカッとした。


「国家運営とかにはあんまり興味なかったってだけ。」


「それがこのDESSQのメインコンテンツじゃないの。なんでやってたん。」「それは私の勝手。君さ態度でかくない。今の状況分かってる?人の食料盗んだんだから反省するのが普通じゃないの。」


「あの、この井戸の中には他にも人がいるんですか。」

「人はいないけど、エルフがいるよ。奥の部屋にいる。」「まさかあんた。」



「うん。エルフが高原の辺りを少数で移動してて後ろにいた魔法が使えなさそうなエルフを攫った。そんで、井戸の中に入って服を盗んだ。」


峰未雨は考えたことも無かったので驚いた。


「なんで。どうやって。」


鯱千は峰未雨の質問に面倒くさそうに答えた。


「えー情報料無しで言いたくないなあ。もうゲームは始まってるんだよ。」


「スキルを持っているんですか。」


「おお、君はスキル持ってるの。」


「持ってないです。」


「なーんだ。じゃあこれで話は終わり。食料を取ったお詫びにエルフと話させてあげる。これでどう。」


突如、峰未雨は少しの間、呪われる効果が付与されている剣を鯱千に向けた。


「駄目だ。エルフを攫った理由を言え。」


「こわ。君強キャラだね。levelいくつ。」


「6」


「へー高え。おけ、エルフを攫った理由について話すよ。それは元NPCのAIプレイヤーがどこにいるか聞くためさ。対面しても無理ゲーだからね。詳しいことは奥のエルフに聞きなよ。彼女は私にもあんま話さなかったけどね。まあ結局は明日の6時になったら分かると思うよ。」


「一つだけ聞かせて。今元NPCのプレイヤーはいるの。squiからの次のメールの内容はその時から元NPCのプレイヤーが降りてくるってことじゃないの。」

峰未雨の推測に彼女は理解を示した。


「分かってるね。そう今はいないよ。」


「そうか。それなら朝まではお前以外に敵はいないな。安心した。ステータスを洗いざらい見せてもらおう。」


「げ、君やっぱ怖い。」


彼女のステータスを確認しようとしているとYobaseが戻ってきた。

level3 


「人の個人スキル欄だけは見れないみたいだな。同じプレイヤーも警戒する必要があるのか。」


彼女のステータスを確認しようとしているとYobaseが戻ってきた。


「お前らも寝れなかったん・・あなた誰。」


「こいつは鯱千。Yobaseさんの食料勝手に盗んでた。お前はまず謝れ。」


「ごめんなさい、Yobaseさん。」


Yobaseは自分の坦々麺が食べられている事に気づき落胆した。


「坦々麺が無くなってる。俺のガソリンが。」


「すいません。」うわあまじか。君もだったか。


「待ってください。目的地はドゴスぺラ王国ですよね。彼女がいれば安全に王国までたどり着きます。鯱千さん、私たちと一緒に行動するのはどうですか。食料は僕のものをあげます。」


「いいのか。お前神じゃん。」


こいつチョロそうだな。

次はこいつから合法的に食い物とれるぞお。


「これでひとまずドスペラ王国には着きそうですね。」


「いやこういうやつは信用できない。エルフの話を聞いてから判断しよう。」


Yobaseが冷静になったのか重い口を開いた。


「なあ。少し俺と話をしないか。お前らは、奥のエルフから話を聞いてきてくれ。」

「わ、分かりました。」


「分かった。」


他の二人は彼が怒っていると思い、奥のエルフがいるという部屋に向かった。鯱千は坦々麺をとった事で何かされると思い臨戦態勢に入った。


「やめておけ。俺はさっきの峰未雨より強い。なあ、お前さっきからなんか隠してないか?」


「え。」

「さっき田芽助たちと話をした内容を教えろ。」


それからいつの間にか、鯱千はYobaseと同盟を結ぶ事になっていた。


「NPCは次のメールの後、多分夜に出てくるって流れだろ。」


YobaseはできればNPCがプレイヤーとなってサーバーに降りてくる時間は遅くなってほしいと考えていた。


「なんだよ、お前も分かる側だったか。何時までかは分かる?」


「24時くらいじゃないのか。」


「私らの間じゃあ22時前ってことになっている。今夜何もなかったんだから開始は大体19時くらいじゃないかな。」


「またメールの話か。俺は参加させてもらえないのか。」


「このチームは男が来てもつまんないよ。」


「そうか。」


squiからのメールが来た後、勘の鋭い者たちはメールにて今まで所属していたチームでやりとりをしていた。


それによりクロシス族長が率いているエルフの位置などを共有していた。一方、峯未雨と田芽助は、井戸の奥の部屋でエルフの話を聞いていた。


「よかった。服は着てたのね。」


「何たる屈辱。だが我らは必ず先程の竜のような圧倒的な力で貴様らを葬る。」

田芽助は自分の部屋の毛布を渡した。


「峯未雨さん鎖は外しましょう。エレミル王国がNPCをここに閉じ込めていたのが事実であれば、恨まれるのは当然です。」


「はああ。こいつのlevel私と同じだよ。あんた死ぬよ。」


「彼女も推しになってしまったんです。」


田芽助は鎖を外した。


「あの、寒いんでこれも着てください。食料もあげます。」


「また?」


「あ、ありがとう。」


田芽助はオタクだった。


推しを見つけると身銭を削る癖があった。


結局話は聞けなかったので峯未雨は彼に腹が立った。


「おー。お前ら話は聞けたか。」


「こいつが逃がした。」


「「どういうこと。」」


田芽助と峯未雨が二人に怒られ、その日は終わった。


ライムゴナールドレインの洞窟


元人魚のラグリーグ・レトファリックは誰とも一緒にはいなかった。とりあえずモンスター除けのテントを洞窟の隅に貼り中で寝られずにいた。息を潜めてもモンスターが定期的に襲ってきていたからだ。


やめろ、まじでやめてくれ。推奨Level 25のこの洞窟は、モンスターも潰しあっていた。


入り口に逃げ込んだ途端、足場がコールドメスシャークによって凍らされていたため滑り降りてしまい次にコウモリのカノライムの群れが待ち構えており、奥の方に逃げ込んでしまっていた。テントの中にいればモンスターから視認はされることはない。


しかし、目の前の巨大クモのモンスターのアカメザオオガラシラと巨大ワニのパスドラッグデラフィルが激突しており、戦いが終われば捕食対象になるのは明白だった。彼は逃げる道を覚えていなかった。


あまりにも洞窟内を走ったのだけは覚えている。


ここまで来た方向ぐらいしか覚えておらず、いくつも柱や道が存在しており、動揺していた彼は逃げることしか出来なかった。

「ギエエエエエエ」戦いが終わった。


勝ったのは巨大ヤスデだった。彼はテントをしまっていた。

逃げ足だけは素晴らしく、来た方向を慎重に進んでいた。


しかしモンスターにはバレていた。


彼は手元にあったウッドソードスローで一本投げたが無意味と言わないばかりに弾かれた。


「うああ。」


声もあまり出すわけにはいかなかった。突如洞窟内の道が繋がっており、二手に別れていた。彼は選択を迫られ短い時間で思考を巡らせた。左は大きな道で少し光が強くモンスターの声が聞こえた。

そして、画面が目の前に表示された。


[これは幸運のカード。]


レトファリックは何の事かさっぱり分からなかった。


分かれ道の右は暗く狭かった。


右の道を見ると大きな石が生き物のように動いていくのを彼は見た。


モンスターだと確信した。


冷静だった彼はなんとなく左から来たことを思い出しそちらに向かって走った。


しかし、カノライムというモンスターは非常に狡猾だった。


彼らは人間の血が好物のモンスターだが、この洞窟ではLevel 8と最弱のモンスターだった。

そのため今夜はじめての人間だったので、奥に連れて行き仲間を呼んで待ち構えていた。

ざっと20匹くらいいた。彼は死を悟った。


前を見ても後ろを見ても勝てない敵がいた。ただ彼は瞬間死の淵に立ち状況判断が素早い状態になった。そして結論を下した。


「デカヤスデ、悪いがそこを通してくれないか。」


彼はある可能性に賭けていた。


まず、コウモリの集団の方が攻撃を畳み掛けられるから回避が出来ず勝ち目がないと彼は判断した。


そして、前にビースマッシュを使用したモンスターを倒したらスキルが手に入った。


それなら、あの石に化けたモンスターを倒せばスキルが手に入るかもしれない。


問題は相手がlevel 18のモンスターであったことだった。


明らかに一撃で瀕死だった。


[ポイズネークリムドーム]


ヤスデは体の毒を腹から巡らせ、それを吐き出す姿勢をとった。


彼は範囲攻撃だと思った。しかも広そうだった。


彼はとっておきを使った。


アクセルロールビーが洞窟に落としていた針をヤスデの腹に全て刺した。


一瞬痺れたヤスデは動きが鈍った。


吐き出す手前で止まった。


彼は大きな石をスキルの要領でヤスデの頭部にぶつけた。


相手の攻撃は右にそれた。攻撃の一部がヤスデ自体に当たった。


彼は左から逃げた。

彼は暗い道を見つけると中に入った。案の定行き止まりだった。


時間をかけるわけにはいかずランプを使用した。


そこには、池があった。


石が何個かあり、ルビーやサファイアなどの鉱石もあった。


草も生えておりライム・メタルという固有のものもあった。


レトファリックはここにある宝石を持ち替えれば高値だろうと眺めていた。

しかしそんな余裕は無かった。あの石のモンスターは本当に居たのか。


ランプを使うことに気づいて逃げたのか。彼は自分を疑った。思えば彼はかなり焦っていた。幻覚もあるだろう。


彼は今まで前を向いて走っていた。首が疲れていた。一息つきながら見上げた。


洞窟の壁には石が張り付いていた。


洞窟にくっついているかは少し暗かったためわからなかった。


とりあえず剣を持つと石が少し動いた。


「こいつだ。行け。」


彼は石を投げた。


しかし石は嬉しそうに回転しながら池の中に落ちた。


ウッドソードスローをすると剣が壊れる。


マーヴェリックはもう最後の剣を使用してしまっていた。


「この池の中を探せって事か?時間がないんだ。」


池は小さく石しか存在していなかった。


剣がなくなったので攻撃が素手しかない。


無駄な足掻きかもしれないと思いながら探した。


ランプの灯りで見える範囲が少し狭かった。彼はランプの見えない範囲を手で触った。見えはしなかった。ただ冷たい池にしては温かい少し大きめな石を掴んだ感触があった。彼はそれを池から取り出して懇願した。


「見つけたぞ。頼む、倒させてくれ。」


石は姿を変えた。レオリープ・カメレオン。固有モンスターだった。カメレオンは笑うと光を彼に浴びせた。次の時には消えていた。


[おめでとうございます。固有スキル、避役の変貌を獲得されました。使用の際にはNon Player Clown FONUMEES SKILL〔レオリープ・カメレオンの7〕もしくは〔カメレオンの7〕を唱えて下さい。トランプカードではクラブの7です。このカードの意味は〔幸運〕です。]


突如、全てのNPCモードの村人達に連絡が入った。


こんにちは、squiです。たった今、プレイヤー[マーヴェリック]がカメレオンの7を獲得致しました。スキル欄をアップデートいたしますのでご確認ください。


また、詳しい概要を説明いたします。皆様は今一つ目の固有スキルを入手致しました。スキル画面の長方形の部分を御覧ください。


長方形の左下にクラブの7、また、右上から1つ下の欄にNon Player FONUMEES SKILL JOKER CODEを表示致しました。


一つのカードを入手するごとに次のサーバーへの転送を許可いたします。


第二サーバー名VARMARD PARADOX。機械仕掛けのエリア。カードを全て集めればゲームクリア。現実世界に戻ることが可能になります。また明日の午後19時から21時までの3時間の間は元NPCのプレイヤーの戦場エリアでの皆様方NPCとの戦闘を許可いたします。levelが高くスキルも多数所持していますのでご注意下さい。]


「おい、田芽助起きろ。」


「うえ。何ですか?」


「峯未雨姉さんこれ。」


「ああ何か起こったのか。」


ドスペラ王国内

「レオリープ・カメレオン、クラブの7、がもう達成されたらしい。」


「スキルがもう取られてしまった。おそらく彼を先に取り込んだ国が優勢になる。」


「一体どんな腕利きなんだ。それにこれは。」


ウェルジーナ王国


「ウェルジーナ・レフィナ女王、レトファリックはエレミル王国群のロードアーム王国から来たという情報が入りました。おそらく今はドゴスペラ王国に向かっている途中のはずなので彼は恐らくゴナールウォールド高原辺りかと思います。」


「ロードアーム王国って滅ぼされたはずじゃない、どういうこと。」


コフィレットは自室に篭ってしまったし。騎士も剣技の腕に自信のあるものしかLevelを上げられていない。


「とにかく私達は今スキル集めに注力すべき。スキル画面は見た。」


「見ました。長方形の左下にクラブの7のマークが現れました。これはトランプを用いた問題ということでしょうか?何のスキルかも分かりませんし情報を得る必要があるかと思います。」


「そうね。とにかくこのレトファリックって人を探して国に引き入れるわ。遠征準備をして。」


「承知いたしました女王様。」


井戸の中「あはは、それまじYobase。」


「ああ、明らかにこのMMOに初めて入ってきた人間だった。」


「それって、その人はどちらに向かったのかって分かりますか。」


「始まりの平原で既に離れていた。森で迷ったのかもしれない。あそこには、渓谷や洞窟が何個かある。」


「今俺たちは大分近い所にいる。仲間に引き込めば、王国に行っても歓迎される。だがもし洞窟にいるならlevelが15くらいないと無理だ。」


Yobaseの忠告を聞いても、峰未雨、鯱千、田芽助はマーヴェリックを追いかけるつもりだった。


「私は行く。あの森には死を感じた。」


「私も。仲間が連れて来いって。」


「僕も行きます。」


「分かったよ。」


ドゴスペラ、ウェルジーナ、Yobase一行、他の小国も自国の立場を優位にするため彼を探しに遠征を始めた。


しかし、最も早くライムゴナールドレイン洞窟に辿り着いたのは、彼の討伐を望んでいるエルフ族長クロシス一行だった。


彼は近くの魔力の残り香を何とか辿ってきた。


「確実に見つけて殺せ。またプレイヤーから暴力を受けていたあの悪夢の日々を繰り返す訳にはいかない。」


初夜で固有スキルが奪われるのは想定外だ。


異例だった。Level 30のクロシス率いるエルフが洞窟の中に入っていった。


近くのモンスターもアイテムも構わず蹴散らして彼らは前に進んでいた。


彼は洞窟の入り口から爆音と幾つもの数の足音を聞いた。彼にとってそれは死の行進だった。しかし彼にはスキルがあった。


[モンスターの代わりに私がスキルのご説明を致します。


スキル避役の変貌は視認したものの無生物のアイテムに擬態する事が出来ます。

擬態中、視認、会話可能です。


通常アイテムにしか見えませんが、擬態を解けばレオリープ・カメレオンになっていきます。HPゲージ、アイテムの耐久値を参考にしています。]

「カメレオンの7」

[ FONUMEES SKILL Non Player Clown Card〔レオリープ・カメレオンの7〕][避役の変貌]


彼は動かないカメレオンになった。次に彼は石に化けた。

(これで生き残るしか道はない)


彼は地面を転がるように移動した。


彼には勝算があった。


エルフは攻撃を打ちまくっており粉塵が立っていた。


彼は一度落ち着いたことで、逃げるイメージを身につけられた感覚だった。


エルフを視認し、柱と粉塵を利用し股の下をくぐるように移動していた。入り口付近まで彼は辿り着いていた。


しかし、クロシスの魔力探知は執念とも言えるほどだった。


5cmにも満たないFONUMEESのスキルで僅かしか感じ取れない魔力を彼は探知した。何も言わずに彼は爆散魔法を放った。


「そこだな。」

レトファリックはそれを瞬時に避けたが風に飛ばされて、元の人間に変化していた。


「カメレオンの7!」


彼は手先が動くより少し早く次の姿に化けていた。他のエルフが魔法を放とうとしたが彼が静止した。


「打つな。もう当たらない。逆効果だ。」


「私が彼を追う。お前たちは入口で慎重に見張っておけ。」


「は、はい」


彼は感覚を研ぎ澄まし動いていた。


「今の感じ、やはり貴様Levelが4か5程度でこの洞窟に入ったのか。」


彼はエルフを入り口や小さな道を封鎖させ彼を探していた。



「まさか初日にしかもカメレオンの7が奪われるとは思わなかった。油断していた。始まりの平原で討っておくべきだった。」


マーヴェリックは氷の端になって素早く移動していた。


どうせ彼には見つかってしまうと理解した。


「しかし、残念だな。そのスキルは大分弱いものだ。生物に化けると動けない。上位互換も存在している。」


彼はモンスターに化けるしかないと思っていた。


魔力で測られるならこれしか道がない。


クロシスも隙を作る訳にはいかず魔法を打つ訳には行かなかった。


「やはりいるならここだろう。」


洞窟内で最も広いエリアにクロシスは着いた。


カノライム、コールドメスシャーク、ミミズのバラメシドミム、ワニのフレイジーラドックスとリトルラドクシークスなどがいた。


彼はまず洞窟の上でまとまってじっとしているカノライムに杖を向けた。


カノライムが驚いて逃げた。寝ているものが2匹いた。


「私ならカノライムだが、貴様は飛べない。」


クロシスが近づいたのは氷の地面だった。


「これに化けて移動していたように思う。それなら小さな生物だろう。」


小さな生物は殺気を感じクロシスを避けた。彼はブラフを張り続け移動させようとしていた。先程のプレイヤーなら動けない生物に化けないとクロシスは思っていた。死にたくないのだろう。それなら動ける無生物に化ける。



当たっていた。彼はモンスターの体内にいた。しかも先程のクモの死体の中だった。



モンスター同士の戦いで死んだモンスターは消滅するまでにかなりの時間がかかる。


クモの体内で鉱石となり消化ダメージを防いでいた。


「私は長い間人間の欲望を見てきた。仲間達の話を聞いていく内にその人間の思考を想像できるようになっていった。」


エルフのクロシスはクモの死体に近づいていった。クロシスはモンスターを動かせ、体内に異常があるものを見極めていた。彼の足音を聞いて方向を全く動かさずこちらに来ているとマーヴェリックは気付いてしまった。絶望した。生物としてここに住み着いていたものとの差だった。


マーヴェリックは居場所がバレたと気づき魔法を打たれる前に腹の中から離れるしかないと理解した。彼は体内から氷になって出てきた。彼は柱の後ろに待機した。来た方向と逆側から逃げようとした。愚策に見えて最善ではあった。クロシスの眼がそれを捉えてしまった。


「だが、お前は生存欲が大半を占め過ぎている。それは生物として持っているべきものだ。私達の中にも生きることしか考えてられていないものが多くいた。貴様はあの頃の自分たちを思い出す。私達に対して危害を加えた人間とは思えない。同じ種族ならいい仲間だったかもしれない。」


元人魚である彼は自分が人間として扱われている事に腹を立てたが居場所を悟らせないため声を発する事が出来なかった。言葉とは裏腹に無情にクロシスはマーヴェリックに杖を向けた。


「しかしな。私にも宿っているのだ。復讐から生まれる人間と似た欲が。」


クロシスの最大火力の魔法陣は洞窟の範囲を超えていた。


「私も無事ではすまないだろう。だが油断は出来ない。強敵には全力で葬る。最期に一言言う隙をやる。」


クロシスは彼なら氷の姿になってさらに奥に逃げるかもしれないと思った。そうしたら魔力を使用したことによりまた小さく化けたら流石に魔力探知が出来ないと思った。


彼は死を確信し人間の姿になった。死を体感するという行為は生物上普通出来ない。Kamesisiは死を確信し本能でも理性でも理解した。


「僕もあなたの仲間になれたと思うよ。」



僕は最後まで戦うのか。



「カメレオンの7…。」



死を完全に悟った彼が出した結論は悪あがきだった。



魔法が放たれると同時に彼はレオリープ・カメレオンを思い出し、洞窟の奥に逃げられる運を得ようとした。


しかし、柱を貫通し地面を砕く程だった。すぐに彼は消滅した。


洞窟が崩れクロシスも逃げても無駄だと分かっていたが入り口まで何故か歩いていた。しかし戻ろうとして下敷きになった。


彼は死んだと確信していた。暗闇の中を移動しているような感覚になった。


レトファリックは目を覚ますと平和に見える夢のような国に転送されていた。


「暖かい。これは、夢かな。」


「夢じゃねえぞ。お前もついてこい。」


彼は首輪をしており、手錠がかけられていた。


「まずお前が今までにした罪を裁いてもらう。そしたら俺たちのNPCとしてここで働いてもらうからな。」


[こんにちは。初めまして、私はskiqqu。スキックと呼んで。NPC レトファリック様。君は今日から正式にNPCだ。ここは、リバーライド・シャトール王国。戦闘魔法科学教師の国。新しいスキル等を習得しに様々なエルフの子供らが来る場所。魔法教師ランキングがあって1位が王様になっている。シャトール王国会議にて最も優れた教師が王様になる。]


「え、ここ学校だらけってことかよ。」


「メアリー、この風魔法は一点に集中させてから発散させるの。魔法制御序の書を確認して。」


「分かった。もっかいやる。」


ダークエルフの子供は、本を持って練習していた。少し遠くに城がいくつか見え、街の通りは賑わっていた。馬車の馬はおらず、熱と浮遊魔法で揺れがなく進んでいた。泡魔法か何かで全身を濡らしている者たちもいた。「だが見た感じ。悪くないな。」


レトファリックはエルフの男に手錠をかけられたまま、教会のような見た目の白く立派な城に案内させられた。


彼は案内人とともにロイヤルな模様の赤い絨毯の上を歩きながら、水晶玉の前まで連行させられた。


「これは、貴様の行いを見る水晶玉だ。手をかざせ。貴様の罪を暴く。」


「聞いてくれ。僕は元々人魚でNPCだから人間さんみたくエルフをこき使った事はない。」


レトファリックは説得を試みたが結局水晶に手をかざした。

「本当だ。でもこれはひどい。人魚なのに泳ぎもせず缶詰になっていたとは。」


「う、うるさい。エルフに何もしていないからいいじゃないか。」


結局レトファリックは最も軽い刑になり、リバーライドシャトール王国の商店街にあるホテルの従業員になった。


「このメルノシーミルというホテルで今日から働いてもらう。いいな。」


ホテルの従業員をやる事に彼は乗り気じゃなかった。


「面倒くさい。なんで働かないといけないの。僕は元々NPCだからエルフに危害なんて加えてないのに。」


「不満か。もう一度裁いてもらうか。」


「うぐ。くそお。」


レトファリックが与えられた仕事を嫌がっているとメルノシーミルの支配人のミライエルが来た。


「あらまあかわいい男の子。元NPCの人魚さんなんですってね。今日すぐに働けというのはかわいそう。今日はお客様としてうちで泊っていきなさい。」


「まじか。やったー。」

レトファリックは、メルノシーミルの支配人から直々に鍵を渡されホテルの一室でくつろげることになった。

「いやー。災難続きだけど最後は幸運に恵まれた。」

勝手に人間と同じ扱いを受けていた彼にとって束の間の休息だった。彼は自分のスキルを調べ始めた。

「レオリープ・カメレオンの7、カードのスキルは没収されてる。」


しかし、マップにモンスターの位置が表示されていた。レオリープ・カメレオンに気に入られ承認を得た人間にはモンスターの位置を表示するらしい。


「え、しかも位置って此処。このホテルの中にカメレオンは要るってことか。」


しかも、ここがエルフの国ならもしかしたら洞窟で戦ったあいつもいるかもしれない。メルノシーミルというホテルの内装を見ていると、壺が気になった。


「やっぱりレオリープ・カメレオンなら壺になるんじゃないかな。」


その時だった。近くで壺の割れた音が聞こえた。


「すいません、すいません。」


ピンクの髪のホテルの従業員が近くの客に謝っているのをレトファリックは見た。

忙しそうに壺の割れた破片を回収しているのを見た彼は手伝う事にした。

「あ、ありがとうございます。」


「いいって。僕明日からここで働くらしいから。よ、よろしくね。あなた名前は。」


「ツキレニー。」


ぎこちない会話だったが、二人は黙々と壺の破片の回収作業を行った。


破片を整理していると、壺の破片の一つが生き物のように動き始めた。


「まさか。破片になって壺の中に入っていたのか。」


レトファリックの推測通りレオリープ・カメレオンは壺の破片に化けていた。


破片が移動したので、レトファリックは手伝う手を止めて後を追った。


[これは幸運のカード]


「この表示間違いない。レオリープ・カメレオンだ。さっきまで一緒だったのに逃げるのか。また探さないといけないのか。」


レオリープ・カメレオンの後を追うと、まだ入居者のいないホテルの一室に入った。

そこには、ランプや時計、ベッドや服が置かれていた。


「大きいものには化けないだろう。化けられるのは無生物のアイテムだもんな。」

彼は、此処が従業員が掃除をしていた場所だと気づき浴室の部屋のスリッパが綺麗に並んでない事に気づき、レオリープ・カメレオンを見つけ出した。


「ツキレニーも、ミライエルさんもホテルをいつでも清潔に保つために頑張っている。そんなメルノシ―ミルホテルの浴室のスリッパが綺麗に並んでないなんてことはない。」


[おめでとうございます。固有スキル、避役の変貌を獲得されました。使用の際には〔カメレオンの7〕を唱えて下さい。]


2度目の表示にレトファリックは安堵した。


「僕の事が好きだから近くにいたのか。お前もこれからよろしくな。」


擬態スキルを手に入れたレトファリックは、ホテルの従業員という新しい人生を歩み始めた。






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