第6話 Yobase一行、井戸の中で夜を過ごす。
轟音とともに、ホラノイエンノシンゴーレムが地下から地面を砕いて現れた。瞬時に峰未雨と田芽助は反応して上手く避けた。
「なに今の。でかっゴーレム。Level 21??」
「此処一帯のボスみたいですね。逃げましょう。」
「君だけね。今邪魔だから。」
そう言う峰未雨は手に持っている風鉄剣ですら歯が立たなそうなゴーレムに一人で挑んでいった。ちょうどその時Yobaseがゴーレムに気付かれないよう後ろまで回りやっと彼らに追いついた。
「やめとけ強い人。相手から半径2mに入ったら死ぬバグが直ってねえらしい。ここは手を引こうぜ。」
Yobaseは嘘をついてなんとか峰未雨を説得した。
「分かった。特攻だけが戦じゃないもんね。」
そして現在に至る。
「あのーもう夜になって何時間たちました。一向につかないんですけど。」
俺らはLevel1か2のスピードでしか走れない。あと、このMMOはプレイヤーがなんでもできるゲームだ。敵国の近くに置かないことでゴドルペラ王国はチートスキル持ってない弱点を補ってるらしい。」
六衛田芽助は疲れていた。
「それにしても遠くないですか?もう辺りも真夜中でよく見えないしアンデット系のモンスターばかり出てきてます。」
「俺はこれでも元エレミルの兵士だったんだぞ。この辺りのでいいか。」
エレミルの兵士たちがドスペラ王国に向かう際のためにエレミル王国はいくつもの井戸を建設し利用していた。
現実主義のDESSQでは水魔法では体力は回復しない。このMMOは乾きも意識的に再現していた。
体力も水を飲まない状態ではエリアによって一定の時間で減少していく。DESSQにおいて水というのは国家間で数少ない共有している資源だった。
「…確かに敵が来る可能性は低いな。」
「まじで井戸の中で過ごすんですか?」
「そんなわけはねえ。ちゃんと部屋がある。そんじゃ入るぞ。」
井戸の水の下には魔法がかかっていた。解除して石壁が動くと水源のある辺りの見えないほど暗い洞窟に入った。
「Yobaseさん。暗すぎて何も見えないです。しかもちょっと寒い。」
「灯りつけるぞ。確かこの辺りにあると思うんだが。」
アイテム画面には一人一人にNPCサバイバルBOXが入っており、開けると寝袋とテントとノートとランプと25日分の食料とNPCトイレがあった。
ゲームマスターがさすがに近くのモンスターをそのまま食事させることはすぐには無理だろうと思いそれらをアイテムの中に入れていた。
モンスターを倒して得たドロップアイテムで換金できるまではアイテムをできるだけ奪い合わないためにかなり多めに入れていた。
洞窟の壁の中に石壁の扉があった。中には道が続いており多くの部屋があった。そのうちの一つを使った。
「ふう。これ、井戸の水にしては綺麗ね。」
「井戸の水もアイテムなんだ。手に入ればほとんど同じ普通に飲める水になる。」
「はああああ。やっと気が抜けました。えーーーっと、で僕たちこれからどうなるんですか?」
「わからない。squiからのメールくらいしか情報がない。もう一度読んでおくか。」
squiからのメールにもう一度目を通すと、ある違和感に気づいた。
「Yobaseさん。僕たちはキャラ自体、アビリティとかもNPCになっているってことですか。」
「死んでリスポーンしたら正式にNPCになると書かれているってことはおそらくだが今はNPCじゃない。」
それにしてもおかしな点はある。
NPCというのはプレイヤーがいなければ特に何もしなくていい筈だ。今の私たちにはNPCのような役割が与えられていない。しかしメールの最後にあった[ご健闘をお祈りしていますが、遅くとも]というのは不自然だ。
メニュー画面を調べていると、Yobaseはメニュー欄のスキル画面が開くことに気付いた。
「とにかく私たちはこのMMOに閉じ込められてゲームマスターのわがままに付き合わされているってことじゃない。」峰未雨は既に食事を終えたらしい。「俺らも一旦休憩しよう。」
「そうですね。」
アイテムにあった食料を開くと中からパンとカレーが出てきた。
「ただのカレーならまだしも匂いが良い。温度も前より感じる。」六衛田芽助は既にカレーを食べて少し泣いていた。
「うまいです、これ。めっちゃ現実のカレーです。しかも肉もありますよ。人生で一番うまいです。」
Yobaseも我慢できずカレーを口一杯に放り込んだ。
「人生で一番ってのは言い過ぎだ。でも、あはは。確かにうめえ。」
それから何も言わずに無心で彼らはご飯を口に詰め込んだ。その後、六衛田芽助は完全に力が尽きたのか食べ終わった後に寝てしまった。
「なあ。このメールの最後の文章おかしくないか。スキル画面も今までと違くて長方形なんだ。」
Yobaseの画面の指している箇所を峰未雨は覗いた。「確かに変。」
峰未雨は危機感から嫌な予感がした。
「もしかしてこれってさ、元NPCの人達がプレイヤーとしてログインしてくるんじゃない。」
Yobaseは考えたくなかったことが脳裏を巡り、手が震えていた。
「…今の内にLevel上げておくべきだったな。」
Yobaseは自分のステータスを見て後悔した。
「なあこのパンとカレーボリューム結構あるし普通に一ヶ月以上はもつからここにいてもいいんじゃないかと思うんだが。」
「私は朝には出る。もう近いんでしょ。」
「ああ。だが今は夜だしこの辺りは霧も少しある。ドゴスペラは暗いのを好む変な
連中だからよく見えないだけだ。明日の昼までには着くだろう。」
「分かった。」
そういうと峰未雨は寝るために別の部屋に入った。
Yobaseは明日自分が生き残れるのか心配で落ち着けなくなっていた。
「もう俺は無理だ。」
寝る姿勢にはなったものの全く寝られずに起き上がってしまった。
彼はアイテム欄を見直していた。「NPCトイレのこれすごいな。」
DESSQには本来排泄する機能などは存在しない。しかし、NPCとして意識が同一化されている時には排泄するという意識すら再現されていた。
テントを見るとモンスターがあまり近づかないような効果が付与してあった。ランプは40日間でエネルギーが切れると記載があった。ノートは一冊で白かった。何らかの意図があるようには見えなかった。
「とりあえず、食料を確認するか。」
「すげえ。何で違うんだ。」
食料は何と数種類あった。
初めがパンとカレーときまっていただけで、焼き魚、坦々麺、チャーハン、カルパッチョなど多種多様だった。「まあ一旦外の様子でも見てくるか。」
洞窟に戻り井戸の上の音を確認するとモンスターたちのうめき声が聞こえてきた。
Yobaseは少し状況に慣れたのかため息をつきながらNPCトイレを使用した。
Yobaseが外に出ている間、田芽助も峯未雨も既に寝静まった環境でなぜか部屋の扉が開いた。
モンスターのようなうめき声は無かったが、食料の匂いを嗅ぎつけそれを盗もうとしていた。峯未雨は寝ていたが物音に気づき、Yobase達がいた部屋に近づいた。
部屋のドアを少し開けると、人型のエルフがいた。彼女は食料を貪るように食べていた。
「おい。お前敵だな。」
「ぎゃあああ。ワイも人間だから攻撃しないでくれー。」
「うわあああ。何、モンスターですかああ。」
六衛田芽助も叫び声を聞いて起きた。
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