第3話 レトファリック、始まりの草原で経験値稼ぎを試みる

レトファリックは瞬時に場の空気を読む事に長けていた。そのためあえて小さく喋っていたのだった。

周りは全員HPが10と少なかった。経験値稼ぎのため、既に始まりの草原へ向かおうと軍隊のような統率をとったまま城外に出るところだった。

「そうか。周りにいるのは人間。ゲームマスターの緋戸出セルにNPCにされたはず。ということは僕も同じNPCにされたんだ。」


彼は現状を分析して理解し始めていた。彼はDESSQに関する動画の内容を見てチートスキルが大量に出てくるというのは知っていた。


「僕もついていきたいなあ。」


彼にとって兵士のHPゲージが全員10であることはあまりにも好都合だ。しかし、実際は運が悪かった。今から死地に行こうとしていたのだから。


リトリタ草原。チュートリアルを行う始まりの草原。

本来であればパウンドマウス、ウィーブシープの2種類しか生息しない最弱モンスター発生エリアだった。

そこにはNPCであるエルフの族長クロシスがいた。何名かの同じエルフを従えており木の裏に隠れていた。始まりの草原にやってきた忌まわしきプレイヤーに復讐する腹づもりだった。

DESSQの世界ではNPCに対しての扱いがひどかった。エルフらはプレイヤーからトラウマを植え付けられる程、働かされていた。

レトファリックは歩兵の中の一般人部隊の一員となっていた。同じような新規プレイヤー含めて何十名かが城外へ行くため待機しており、その中に混ざるように彼はそこにいた。

彼は周りの兵士の数と指示を聞いて、このままでは自分が戦闘する機会を失うと思っていた。

そのため初めての経験値稼ぎのため出来るだけモンスターを討伐しようと考えていた彼はある作戦を企てていた。

まず、エレミル連合国の兵士は真っ先に経験値を独占しようとする。自分たちはドロップアイテムなどの回収をやらされると考え、どことなく浮いている兵士を見つけて餅つきの要領で自分が盾となりHPを削り最後を兵士に譲る事を提案し、何体か討伐するつもりだった。


「あ、兵士さん今少しだけいいですか?すいません。その、敵のHPを自分が削るんで、あのその後任せてもいいですか?」


「…お前一般歩兵がエレミルの兵士と対等に話せると思うなよ。」


「す、すいません!!!!」


彼は謝ることが上手い方だった。相手は男だった。この現実感のあるDESSQでは、女性アバターと話かける度胸は無かった。女性かどうかなど甲冑があっても把握できる優秀な目が元人魚の彼にはあった。


「お前、状況分かってるのか?俺は嫌な予感がして体が動かねえんだ。とっとと終わらせて安全な城に戻りたいんだよ。他のやつに聞いてくれ。」


「はい…。」


会話が続かなくなり男はもどかしくなった。そして、彼の先程の提案をよく考えてみると相手の望んでいることが理解できた。


よく考えろ俺。今、城に戻っても俺は永遠と三等兵。国王や兵のトップ共が安全な城で悠々自適に過ごしてる中前線に駆られ続ける。今ここで経験値を稼いどけば他の奴らに差をつけられる。それだけじゃない。今の偉い奴らのHPも10なんだよな。だったらもう俺が国を統治できるかもしれねえ。


「仕方ねえ。その提案乗ってやるよ。安心しろ、経験値は独占しねえ。」

まあlevel上げに協力すんのは最初だけでいいな。


「あ、ありがとうございます。」


やった。これで確実にモンスターを討伐できる。

エレミルの兵士が狩りに出る支度を済ませ、仲間たちが見送っていた。

兵士長が、共にモンスターを討伐するNPC姿のプレイヤーに作戦を説明していた。


兵士長が、共にモンスターを討伐するNPC姿のプレイヤーに作戦を説明していた。

「ソロジーさん頑張ってくださーい。」「兵士の応援はこれ以上必要ですか。ソロジーさん。」

「いや非常時を考えてもこれで十分だ。かなり積極的な者が多かった。他の国も動き出しているらしい。エレミルだけが置いて行かれると後々大変だ。」


「皆どうか私の指示に従い行動してほしい。今回は基本的に、戦闘に慣れた者を援護する形で問題ないと思う。今回の目的は経験値を出来るだけ稼ぎ、異変がないか情報を集めること、いいな。では城外に行こう。いつもとは違う。気を緩めるな。」


そして、彼らは城外に出た。そして彼らは広い草原をただ歩いていた。


兵士達が辺りの様子を再確認していた。

「ねえ、おかしくない?もう始まりの草原に着いてるのにモンスターが一体も湧いてこない。」

「視認系のスキルがあればなー。」

兵士長のソロジーは想定とは少し違う状況にも冷静に対応していた。

「モンスターは固まって行動しているのかもしれない。今までのような動きをしてこないのかもな。」


「どうしますか、ソロジーさん。」


「とりあえず、どこまで敵モンスターがいないのか確認しよう。」


それから彼らは始まりの草原である、リトリタ草原を一周するような形で歩きながら周囲を見渡していた。


「おい、あれウィーブシープじゃないか。しかも群れでいる。固まってただけか。」

体が白くツノが曲がっており機能していない上、体毛のせいで目がよく見えていない弱そうなウィーブシープの群れがそこにいた。


「念の為何匹かこっちにに誘き寄せて安全に狩らない?」


「それアイテムないと無理だぞ。」


「そうだった。」


「作戦通り、我々エレミルの兵士がウィーブシープを倒して経験値を得る。一般歩兵はその兵士の護衛。働きが良ければエレミル兵の一員として迎える。精進せよ。」


それから兵士各々が狙いのモンスターを定めて動き出した。HP10であったが相手が雑魚敵というのもあり、余裕がある者が多かった。


「よお、一般歩兵。そういや名前聞いてなかったな。」


「自分レトファリックって言います。」


「よろしく、俺はYobase。まあそんなかしこまらなくてもいい。"護衛"頼むぞ。」そんな時だった。人の密集していた場所に次々と魔法陣が張られた。「足を地面に固定するレアスキルだ。身動きが取れない。」


突然の出来事にソロジー兵士長含めて皆現状を把握できずにいた。


「辺りに物陰は全くない。一体どういうことだ。」


『Outside the System』突如、全ての人型NPCたちは脳内にテレパシーを送られた。


「これって。」


「おいおいまじかよ。」



[かしこまりました。現在あなたが所持しているFONUMEES SKILLは2 です。どちらをご使用されますか。]


『白藍鱗竜の逆鱗ログ・ウィルミルのげきりん


エレミル連合国コレックエレミー王国上空


突如夜の空を雲が辺りを埋め尽くし、それを割るように天から竜が降りてきた。

鱗が藍色から白色へと段階的に変化しており、瞳とツノが黄色の宝石のような見た目で光源のような輝きを放っている。

エレミル王宮内。

外が暗くなり嵐が吹き荒れ、窓が揺れて壊れそうだった。王宮内もいささか穏やかではなかった。兵士の一人がエレミル国王に報告をしていた。

「国王様、上空に見たことのない竜の姿をしたモンスターが現れました。」

「ああ、DESSQ beta版をやったものだけが知っている。チートスキルと言われている全37種の固有スキルは全てゲーム内に登場する幻のモンスターの力を奪うことで使用できているだけの借り物だ。」

「ではこれは本物の竜、」

「慌てるな。こちらもスキルを使えばいいだけのこと。Outside the System」

大きな玉座を背にしてメニュー画面を開いていた。

[現在あなたが所持しているNon Player clown cardは0です。使用の際にはカードの名前とモンスターからの承認を得て下さい。現在承認しているモンスターの数は0です。]

カーテンが大きく揺れて王宮の窓の一部が割れた。


「国王様、どうされましたか。」


「いや、すぐにスキルを使う。」


今までと表記が違う。Non Player Clown Cardとはなんなのだ。


「まずい、不具合で今スキルが使用できない。NPCになったばかりだからだろう。」


「そんな。では我々はどうすれば。」


「私はこの国から出て最も近いロードアーム王国に行こうと思う。もしくは比較的近いドゴスペラ王国に打診する。お前たちも各々で避難しろ。」


「待ってください。国王様HP20でどう逃げろと。」


「…。あ、竜が降りてきた。」


「これじゃ仕えてる意味がない。俺は逃げる。」


「やばいもう攻撃される。とにかく外に出て範囲から外れるんだ。青麟竜は時間はかかるはず。」


たちまち多くのエレミル兵士であったプレイヤーが城門の外へと走っていった。


「これで私も国王ではなく1プレイヤーになったのか。いや、今はNPCと変わらない。私も体が重いが逃げるとしよう。」


モンスターからの攻撃は触覚が制限されている。だがおそらく、チートスキルの竜からの攻撃は一撃であり死ぬ。確か白色の腹が目立ち藍色の眼と鱗を持つ白藍麟竜の逆鱗は使用者の魔力量に応じて変わる。


最大で効果範囲が一国分だったはず。その代わり発動までの時間が長い。その力を本物の白藍鱗竜が使用したら、近くのロードアーム王国もひとたまりもない。そもそも範囲制限はあるのだろうか。おそらくエルフ達の狙いはエレミル王国全体だろう。


ここはドゴスペラ王国にいこう。


国王が逃げる方向を考えながら取引で使えそうな骨董品などを幾つかだけバックに入れて国を出る準備をしていた時突如、王の部屋の門が開いた。


国王以外誰もいない部屋に隊長格でもない一般的な兵士が一人勝手に入ってきた。


「国王様。失礼ながらなぜFONUMEESのスキルが使用できないか教えていただけますか。」


「貴様は誰だったか。すまない、兵士一人一人は覚えていない。そしてなぜスキルを使用できない事を知っている。」


「申し訳ありません。他の兵士たちが国王様を頼りにしているため様子が気になるようでした。私も同じく部屋の外から聞いておりました。


しかし皆城門外に急いで逃げていき私だけ置いて行かれた次第です。


私欲はありますが、非常時でしたからお力添えになれればと思い質問させていただきました。」


怪しい。なぜこの者は話を聞いた上で何もかもなくなった私に近づいてくるのだ。しかしどの道一人では途中でモンスターにやられるだけだ。


「私をドゴスペラ王国まで護衛できたら正直に教えてやろう。」


「かしこまりました。命に替えても国王をお守りします。」


一方その頃エレミルの兵士たちは兵士長たちに続き、ロードアーム王国へと走り逃げていた。


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