箱入り悪役令嬢の物語ははじまったばかりですわ!
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
そういう世界観ですの!?
箱の中に、みつしりと悪役令嬢が詰まっていた。
というか、詰まっているのはわたくしです。
先ほど斬首されたわたくし、キャロル・フォン・ジーナスに間違いありませんわ。
子どもの頃からぼっちちゃん、ブラック企業に勤めてからも友人一つ作れず孤独死したわたくしは、唯一の生き甲斐だったファンタジー系乙女ゲームの悪役令嬢に転生。
なんとか身の破滅を回避するため、今日まで奮闘してまいりました。
しかし願い叶わずこの有様。
本来ならばゲームオーバー。
死に戻りとかそういう便利スキルはないので、朽ち果てるに任せるしかない……はずだったのですが。
事情が変わりました。
ゲームのファンディスクが発売されたことで、世界に変化が生じたのです。
そしてなにをとち狂ったのか、製作サイドはジャンルをSFに変更。
前作で根強い人気を誇っていた悪役令嬢キャロル――つまりわたくしを主役に大抜擢。
かくしてわたくし大復活!
箱の中で生命維持装置に繋がれて生きていました展開はご都合主義過ぎませんかと思うものの生きていれば丸儲け。
我が世の春よきたー! などと浮かれていたのも束の間、事態は急転直下を見せます。
空の向こう、宇宙から襲い来る謎の敵〝アグレッサー〟。
彼らには魔法が通用せず、人々は次々に塩の柱へ変えられてしまいます。
対抗手段は唯一、わたくしの実家の地下深くで発見された発掘戦艦で迎え撃つこと。
太古の昔に飛来した
もっと重要なことがあるのです!
なんとこの発掘戦艦、わたくしじゃないと動かせないのですわ。
そう、王宮が秘蔵していたオーバーテクノロジー、心肺蘇生装置でわたくしを箱入り令嬢として蘇生させたのも、全ては戦艦のコアにするため。
アグレッサーと戦わせるためだったのです!
おっと……人生がハードすぎるゾ?
しかし、転んでもただでは起きないのがわたくしのよいところ。
なにかと口出ししてくる王子や光属性ヒロインを一喝、世界中へ演説をぶち上げ、一大抵抗勢力を組織します。
彼らとともに、わたくしはアグレッサーをちぎっては投げちぎっては投げ反中間子砲で吹き飛ばし殲滅。
聖女として崇められます。
なにかいまさら巫女のような立場に光属性ヒロインが収まろうとしていますが、お退きなさい、今作のメインヒロインはわたくしですわよ!
……というか、無謀な戦いをするのはひとりで結構。
ついに出現するラスボス。
宇宙の最果てより迫り来るアグレッサーの超巨大母艦。
これと差し違えようとするわたくしの愛してやまない乙女ゲーの登場人物たち。
いけません、ああ、いけません。
わたくしは確かに生き足掻こうとしましたが。
物語の役割をまっとうしたあなた方には、きちんと幸せになる資格があるのです。
だから、わたくしは飛び立ちました。
皆を置いて。
度重なる戦いでボロボロになった翼で。
それでも、敵を打ち倒すために。
母艦アグレッサーはこちらの数百倍の大きさ。
ありったけの砲門を開いても、質量差で敗北は必定。
……だからどうしたというのです。
わたくし、負けが決まった戦をひっくり返すのには慣れていましてよ?
粘りに粘り、紙一重で攻撃をかわし続け、執念深く立ち回れば。
敵が先に、業を煮やしました。
敵母艦の中核にエネルギーが集中。
数十秒後には解放され、惑星ごと塩の結晶へと変化する可能性が大。
けれど。
逆に言えば!
そこを狙い撃てば誘爆が狙えますわよね!
艦首にエネルギーを集中したわたくしは特攻を決意。
最大船速で敵へと突っ込みますが、バリアーを展開されてしまいます。
構いません、オーバーブーストを使います!
わたくしの生命維持に回しているエネルギーさえも推進力へと変換した発掘戦艦は、ついにバリアーを突破。
敵母艦の中枢を撃滅。
そして、誘爆がはじまります。
……もう、船は動きません。
そしてわたくしは箱の中。
生きて脱出する方法などないのです。
せめて、せめて最期の瞬間、母星を目に焼き付けようとモニターを展開して。
わたくしは、言葉を失いました。
虹色の光。
母なる星から放たれていたのは、膨大な魔法の力でした。
それは戦艦の内部に固定されたわたくしをやさしく掴みだし、星へと連れて帰ります。
触れあった光から流れ込んでくるのは、人々の心。
ともに戦った戦友たちの、或いは王子、そして光属性前作ヒロインの声。
生きろと、彼らはそう言うのです。
帰る場所が、わたくしにはあったのです。
……泣いてなどいません。
これは酸素と栄養素を補給するため、箱の中に充填している養液です。
ただ、今日はちょっとだけそれがしょっぱくて。
こうして、星へと戻ったわたくしは、救星の乙女として迎え入れられました。
箱の外に出ることは出来ませんでしたが、たくさんの戦友の笑顔を。
わたくしが守ったものを、生きて見ることが出来たのです。
これ以上無い満足と達成感。
役目を終えたわたくしは、そうして離宮に安置され――
――はい、好評につき更なるスピンオフがはじまってしまいました。
突如地中から現れた巨大怪獣。
これを倒すために、わたくしをコアとした巨大ロボットを製作することになった王国……っておバカ!
もう、悪役令嬢への転生はこりごりですわ~!!!!!
なんて箱の中で叫びながら。
それでもわたくしは、生き続けるのでした。
笑顔で、楽しく。
ひとりぼっちじゃないことを。
みんなとの絆を噛みしめながら!
箱入り悪役令嬢キャロル・フォン・ジーナスの戦いは、はじまったばかりなのです……!
~未完~
箱入り悪役令嬢の物語ははじまったばかりですわ! 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます