いきなり始まる住宅の内見

CHOPI

いきなり始まる住宅の内見

「ほな、おじゃましまーす」

「……」

「うわ、せっま! ようこんな狭い部屋で生活できるなぁ!」

「独り身には充分なんですー」


 ******


 こってこての似非エセ関西弁。聞き取れるそれは人語だけど、発しているのは人じゃない。


 クリーム色で、雪だるまに短いU字型の手足が生えているような見た目(某青い猫型ロボットよりも手足の短さは勝っている気がする)。上にある頭部の、少し小さい方の球体にある、やる気の無さそうな半開きの三白眼。今しがた、買い物に出かけた帰り道、空から降ってきた謎の“地球外生命体”。


『自分が適当に呼び名、決めてーや』、そういうから無い脳みそを捻りに捻って絞り出したのは、『雪だるま“もどき”、手足“もどき”ついてるし、もどきの塊じゃん、だから『もどき』」。そう告げたら『あんさん、センス無いなー!!』……とまぁ、深夜にまぁまぁな声量が、月明かりに照らされた静かで薄暗い路地裏に響き渡った。


「うるせ! 静かにしろよ、夜中だぞ!?」

 いきなりそこそこの声量で『センス無い』なんて言われて、しかもそれが路地裏に多少なりとも響いたおかげで、驚きと羞恥が一緒くたになって襲い掛かってくる。慌てて注意して、『とりあえず家、帰るぞ!』と足早に家路についたけど、冷静になった今は失礼極まりないやつだからその場に置いて来ればよかった……、なんて後悔している。


「ほな、おじゃましまーす」

「……」

「うわ、せっま! ようこんな狭い部屋で生活できるなぁ!」

「独り身には充分なんですー」

 ホントに失礼極まりないやつだな……。そのくせして、一応『おじゃまします』は言うんかい。


「洗面台借りるでー」

「どーぞ」

 そう返事をして、黄色い二頭身が洗面所の方へ入ったのを確認しつつ、自分は先ほど買ってきた食材類を冷蔵庫にしまう。そうして一番の目的だったケチャップだけはキッチンカウンターに出して一呼吸。するとタイミングよく洗面所からクリーム色の二頭身が出てきたので『部屋入って適当に座ってて』と言う。


 あくまで自分を落ち着かせるためで、決してもてなしているつもりはないけれど、一応コーヒーを2杯分淹れる。普段自炊するタイプで良かった。食器類は、選ばなきゃ2人分くらいはどうとでもなる。


「はい。コーヒー」

「おー、ありがとさん」

 部屋の真ん中に置いてあるテーブルにコーヒーを置く。座布団なんて持っていないから、普段自分が使っている座椅子の上に重ねていた円座を渡した。『おおきにー』と言いながらそれを受け取った二頭身――……もどきは器用にそれを敷いて座ると、コーヒーに手を付ける。


「砂糖とかは?」

「いらへん。お気遣いどーも」

 そう言って器用にマグカップを傾けるもどき。へぇ、口そこなんだ、なんてどうでもいいことが頭に浮かぶ。それを眺めながら自分もコーヒーに手を付け、『これ飲んだらとりあえずケチャップライス作ろう』なんて思うのは、目の前の生物からの逃避故なのか。


「1K。いうても、ちゃんと見たら収納多いんやな、それに加えて棚類設置してるから圧迫感感じるんか。まぁそこはセンスの問題やし、あんさんの場合仕方ないか。UBなのもまぁ、無理ないわな。家賃抑えたいんやろ、ここの家賃、なんぼくらいなん?」

 いきなり内見よろしく、怒涛の勢いで話を振られる。そしてそのセリフの端々が、やっぱりどう考えても失礼極まりない。……っていうか、そもそもなんで。



「なんで地球外生命体のクセに、『1K』だの『UB』だの詳しいんだよ!!」

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