第52話 二つの負けられない戦い
__ローレンス王国国境砦
朝日がまだ昇る前の空がやっと白みかけた時その巨大な者達は現れた。
ブオオオオオオオオオン
まだ暗がりの冷えた静けさを漂わせる戦場に敵襲を知らせる警告音が鳴り響く。
慌ただしく兵たちは行動を開始する。
ボストール将軍が見張りの兵に確認する。
「敵襲か、どんなものが現れたか?」
「斥候からヘルファイアタイラントと思われる物が向かいの山より続々と!」
「数は!」
「まだ確認中ですが10は下らないです!」
「なんだと・・・」
そこにラドルフ将軍もやって来た。
「こんな時間に敵襲か!?」
「そのようだ、ヘルファイアタイラントが続々と山から向かって来てるようだ。」
「まずいな・・・」
そしてすぐさまボストール将軍は全軍に臨戦態勢の指揮を取る。
連合軍全体に緊張の色が走る、今度はどんな奴らが来るのか・・・
朝日が昇り始め国境向かいの山に日が当たり始め敵の姿が露わになってくる。
連合軍全体に明らかに動揺が走る・・・
ヘルファイアタイラント20体にデスストームドラゴン3体が山の麓に待機してるのである。
その巨体は遠目からでもすぐにわかる大きさだった・・・
ラドルフ将軍が、ハクの元に駆け寄る。
「ハク殿、バベルが言ってた助っ人と言うのは来れるのか?」
「もう呼んである、たぶん今頃こっちへ向ってるはずだ。」
「それはいったい誰なんだ?」
「来たら分かる」
「信じていいんだな?」
「大丈夫だ」
ラドルフを持ってしてもあれは、人間が如何にかできるレベルじゃ無い事が分かる程威圧的で、このまま戦に突入すれば結果は火を見るよりも明らかだった。
ラドルフの元にボストール将軍が駆け寄る
「ラドルフ将軍どうなんだ?」
ボストール将軍も一縷の望みに掛けるような眼差しでラドルフ将軍の返事を待つ。
「ハク殿が助っ人は来ると言った、それまで持ち堪えるしかないな。」
「バベル殿から何か知らせは?」
「バベルからはまだ何も・・・」
せめて今バベルが居てくれたら、恐らくここに居る皆がそう思っていただろう、それほどバベルの存在は大きな物になっていた。
もはや我々で如何にか持ち堪えるしかない、昨日より少なくなった3万の連合軍であの人外の巨大な敵に立ち向かうしか残された道はない。
流石の歴戦の強者の兵であれ、あれにまともにぶち当たって行けばどうなるかは想像がつく、もともと軍隊は人間相手の戦でしか想定されてないのだ・・・
そしてその時はとうとう来てしまった・・・
地響きをさせながらまるで大地が揺れてるのではないかと思うくらいの足音を立てながら、ゆっくりとその巨大な敵は前進してきたのだ・・・
もはや戦うしかない、退く場所は何処にもないのだ、我々が退けば誰があの巨大な敵の侵攻を止めると言うのか・・・
覚悟をしてボストール将軍は指揮を取る
「全軍敵に備え構え!!」
その時だった、戦場に南西から一陣の風が吹いてきた・・・
ガオオオオオオオオン!!
ギャアアアオオオオオオオオオオン!!
助っ人は来てくれたのだ、さらにその友を引き連れて・・・
その出現にベルファイアタイラントやデスストームドラゴン達の足が止まる。
へルファイアタイラントにも引けを取らない巨大な白い虎、そしてそれまた大きな深紅のドラゴンと共に・・・。それは一瞬、新手の敵が増えたのかと連合軍も目を見開いて一時の静寂が訪れた時だった。連合軍からぽつぽつと声が上がりそれは明るい声と変わっていく。
「「「「白虎だ!!」」」」
「「「「白虎様だ!!」」」」
獣人達はその姿を神と崇めている四聖獣の白虎がクエイドを連れて来てくれたのだ。
その二体はあまりにも大きすぎた。敵にすれば絶望を。味方にすればこの上なく大きな安堵感。
獣人達は、そのほとんどが膝を折り両手を頭上高く掲げ、その両拳をがっちりと組み白虎達に感謝の意を捧げていた。
ボストール将軍は驚きのあまり目を疑うほどだった・・・
全軍に希望の光と歓声が満ちる。
ハクが前に出る。
「父上それにクエイド様!!」
それは全軍に轟くような大きな声だった。
「遅くなったが間に合ったな、ここからは我らが相手する」
「白虎に誘われてきたがヒヨコが3匹か真のドラゴンの力見せてやる」
ラドルフがハクに駆け寄る
「ハク殿これはいったい!?」
「父上とクエイド様だ、バベル殿の頼みだと言ったら来てくれた。」
その大きく威風堂々とした2体に深々と頭を下げてラドルフは感謝の意を表した
「白虎様とクエイド様我らに助力感謝いたしまする!」
「魔族の奴ら、あれは少し卑怯だよのぅ、人間たちは巻き込まれぬよう下がっててくれ」
「畏まり申した」
そしてラドルフはボストール将軍の元へ駆けて行った。
「聞こえたよな?」
「あぁ我らは下がって待機しよう」
ボストール将軍は全軍に号令を出す。
「全軍巻き込まれぬよう下がって待機」
そして魔族の侵攻を憚る様に白虎とクエイドは連合軍の前に並び立った。
これからまさに怪獣大決戦が始まろうとしていた・・・・
~一方魔界の要塞内では~
バベルとデュークがその要塞の最上階で対峙していた、相変わらず不気味な笑いを浮かべるデューク。
「気づいてないとでも思いましたか?」
「やはりそんな訳ないよな・・・」
「おや、今回は口が利けるようですね」
バベルはその一言でべルーシュ平原の一件を思い出した。そして己の中でふつふつと怒りが立ち込めて行くのを感じた。
(もうあの頃の俺じゃない!それにここで仕留めないと、この世界はこいつに支配される。)
バベルは、鼓動が早くなるのを感じていた。恐怖を怒りで塗り染めろ・・・
「テメェーはぶっ倒す!」
「おや、怒ってらっしゃいますか」
バベルは怒りを力に変えるが如く、そのスキルを身にまとった。
【バベルマキシマイズ】
【バベルブレイド】
【オーラディフェンス】
そして一気に間を詰めあいさつ代わりだと言わんばかりにデコピンを放った。
今のバベルは、全盛期の8割・・いや9割は力を取り戻しており、そのスピードはまさに刹那の速度で常人では捉えることは出来ないほどだった。
敢えて食らって見せたのか、動けなかったのか・・・デュークの頭が後ろに吹き飛ばされるかと思うくらい大きくのけ反った。
そしてゆっくり姿勢を戻しながら不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ほぅ、私と闘う資格を持つくらいには強くなったようですね、いいでしょうここまで来てくれたお礼に思う存分私が相手してあげましょう。そしてその力を・・・」
デュークの反応を見るための一撃だったが、今の反応はブラフなのか本物なのかバベルは今一歩計りかねるものがあった。
べルーシュ平原の頃のバベルと比べれば雲泥の差ほどにバベルは力を付けていた、バベルにはデュークだろうと一対一なら倒せる自信はあった。
そしてさらに自信を鼓舞するが如く腹の底から声を上げた。
「望むところだ逃げんじゃねーぞ!」
「クククッ」
そして世界の運命を左右するほどの二つの闘いは今始まろうとしてた・・・
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