第43話 鬼が出た



 次の日、窓から潮風のどこか懐かしいような香りが運ばれてくる宿屋でバベル達は朝を迎えた。

「おはよーございます、バベル様~」

「あぁ、おはよう」

「なんだか気持ちのいい朝ですね」

「そうだなぁ」


そして、その気持ちのいい朝日の降り注ぐテラスで、バベルとアンナは何処か遠くを眺める様に海を見ていた。


バベルは、アンナと最初に会った日の事を思い出していた。

最初にアンナに、救いの手を伸べられた時は、バベルにとって人生最悪の時でもあり、最大の転換期でもあった。


 それから不安と期待と罪の意識を抱えながらも、

新たなる一歩を踏み出す決意をした朝、アミとの再会によって、過去を見つめなおし、己の振舞った行動により慙愧に堪えぬ思いを懐いて眠りに就いた夜、帝都に連行され、罪を問いただされた時。

一歩間違えば昔のバベルに戻ってもおかしくなかった。

そうならずに済んだのには、いつも傍らにアンナが居てくれたから。


昨夜も港町の人達に大層な歓迎を受けた、バズがバベルを連れ帰ってくると言いまわってたからだ、

帝国と共和国を休戦に導き、魔物の大襲撃からこの地を守ってくれた英雄を一目見ようと町の人が集まって来たのだ。


 そして今穏やかな朝日と和やかな潮風の運んでくるテラスに二人はいた・・・


「ありがとうな、アンナ」


「何がですか?バベル様」


「最初に手を差し伸べてくれたのがアンナで良かった。」


「あの時のバベル様は死にそうでしたね。」


「そして、いつも傍にいてくれてありがとう。」


「こちらこそ、いつも守って頂きまして。」


「さぁ~て今日も行くか~」


「どこまでもお供しますよ~」


 あの日進み始めた一歩は間違いでは無かった。

今までこうして来れたのは、バベル一人での力では無理だっただろう。周りの人達の力添えがあったればこそである。

人が変わるのは難しいことだ、だがバベルはやり直す決意をし、それを皆がきちんと見てくれた。

これからもバベルは一人ではない、この朝日の様に明るい未来が続くことを願い、今日も行動を始める。


 だが、その清々しい朝の一時とは裏腹にデュークの大帝国建国の準備は着々と進められていた。

差し迫ってくる闇の脅威を、この時のバベルはまだ気づいてはいなかった・・・


「さて本日はどの方角だ、フレイアー」


「んーとね次に大きなのは~南だね」


「よーし南に向けて出発~」


バベル達は、いつものようにフレイアの怪しげなポーズから導き出される方角にゆっくりと馬車に揺られて進んでいた。

「さてさて今回はどんな強敵が待ち受けてるのかな~」

「フレイアお前楽しんでるだろ、もとはと言えばな・・・」

と言いかけた所でバベルは、思いとどまった。

(元はと言えば、こいつのおかげでも有るんだよな・・・今の俺が在るのは)


「たまには、簡単に木に引っかかったりしてねーかなー」


「今回は少し遠いかも」


「どのくらい離れてるんだ?」


「んー帝都の近くまでいくかなー」


「んじゃ今日は着かねーな、ハクも適当に休ませながらでいいぞー」


「了解」


暫く南に馬車で揺られたところで日も落ち始めたので良さそうな場所を見つけてその日は野宿する事にした。

「野宿するのも、久しぶりですねバベル様。」

「そうだな。そうだ、ハク、火の支度しておくからなんか獲物取って来てくれるか?」

「容易い御用だ。」

そう言ってハクは虎の姿となり颯爽と草原の方へ駆けて行った。

「今夜はバーベキューですね。」


 そうして、ハクの狩って来た獲物をバーベキューにして、その日の夕食にした。

焚火を4人で囲みながらのバーベキューは、旨かったし一時の幸せな時間を過ごした。

この時は皆、間近に迫る闇の危機を忘れて楽しんでいるようだったが、バベルは最初にアンナと野宿した時に、デュークに会ったのを思い出していた。

(あいつは本気でここに大帝国を築くつもりだ、そろそろ何か動きがあるかもしれん、一度帝都に戻った方がいいか・・・まだ2週間も経ってないからすぐにどうと言うことは無いか、とりあえず次の力を取り戻したら一度帝都に戻るか。)

そんなことをぼんやり考えていたら、アンナが声かけて来た。


「どうしたんですかバベル様?浮かない顔してますよ?」

「いやーなんでもない、次の力取り戻したら一度帝都に戻ろうかと。」

「そうですね、たまには顔出さないと怒られるかもしれませんね。」

「そうだな。」


そしてその日はアンナとフレイアは馬車の荷台で休み、バベルとハクは、焚火の横で酒をあおりながら、夜を明かした。


___次の日の朝


「朝ですよー起きてください二人とも」

朝日が昇りかける直前に二人はウトウトし始めて、眠りに就いたばかりだったので、バベルは眠そうにしてた。


「二人ともいつまでお酒飲んでたんですか?」

「空が白みかけた頃までは記憶があるな・・・」

「すまんが、俺とハクは少し休むからアンナ頼んだ。」

「かたじけない」


そう言って二人は、馬車の荷台にごろんと横になってすぐにイビキをかき始めた。

「全くしかたないですね、レイアちゃん案内お願いします。」

「仕方ないね、男どもは、女の子二人で仲良く行こう!」


そして進路をやや西寄りに馬車をしばらく進めてると小さな村に辿り着いた。

 そこの村人たちはなんだか慌ただしく行きかっていた。

アンナがそこの村人に何かあったのか聞いてみると、最近森に鬼が住み着いたという、田畑が荒らされたり村人が襲われることは無いから、村人はなるべくその森に近づかないように様子見してたという。

そこで実際に鬼を見たという村人の話を聞いた。


「最初に見たのはさ、森に薬草を取りに行った時だったんべ、なんかでっかい岩があると思ったら、鬼だったんべ、びっくりして慌てて逃げたけど、追っては来なかったんべ。」


そう言ってその村人は、鬼の様子や他にも見た人が居る事を説明してた。

そしてこの騒ぎは昨晩から村の女の子が森に行ったきり戻らないと言う事だった。


「バベル様の出番ですね。」

「男どもを起こさなくては。」


バベルはアンナ達に起こされて眠そうに起きて来た。

すぐに今の状況を説明され、村の人からも話を聞いた。この小さな村にもバベルの噂は届いていた。そうして少し取り乱した母親がバベルの元に駆けつけてきて、娘のマリをどうか探し出してくださいとお願いしてきた。

「フレイア、力の方向は?」

「たぶんその鬼だね、森の方向と一致するね。」

「んじゃちょうどいいな。」


そうしてバベル達は森に鬼退治に出かけたのだが・・・




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