第41話 とある獣人の子


   ___十数年前


 子宝に恵まれなかった夫婦がいた。その夫婦はある時に捨て子を拾った、最初は子猫が、箱の中に入れられてると思った男はそれを箱毎家に持ち帰った。子の居なかった夫婦は可愛い子猫だと思い、箱の中で布にくるまったそれを抱き上げた。


布がハラハラと落ちて出て来たのは人間の体にそっくりだが尻尾の生えた赤子であった。

「いいではないか、神様が私たちにお預けになったんだ。」


そうして夫婦はたくさんの愛情を注ぎその子を育てた、その子はすくすくと育ち、持ち前の運動能力でわんぱくな獣人の男の子に育った。

 その夫婦は夫の漁で生計を立てていたが、その獣人の男の子は、父親の漁について出かける様になった。


 ある日の漁は、少し波が高く天気も怪しかったので、その男の子にお留守番をしてるように言った。

「俺は漁師の子だ、このくらいの波なんてなんだい!」

そう言って船に乗り込んだ。


 嵐の来る気配は無かったので父親はしぶしぶ連れて行ったが、子供にとって高い波はやはりきつかった、波に勢いよく持ち上げられると軽いその子は、飛ばされそうになる。

しばらくはシッカリ船に掴まってたが、波に体力を奪われ、船酔いで、ぐったりしてきたので父親が引き返そうとした時、その子は波に攫われてしまった。


 慌てて船を止め父親は海に飛び込んだがどんどん波に流されていく男の子、必死に泳いで探す父親、それをさらに阻むように大きな背びれが現れた・・・父親は必死にサメと闘った、せめて我が子が遠くに流れて行くまでと必死に・・・が、とうとう力尽きてしまう。


「生きろ我が息子よ・・・」


 それからしばらくしてその男の子は無人島に漂着した。

その子はその島で生き抜くしかなかった、でも幸い父親から色々な事を教わっていた、火の起こし方、貝の取り方、海の潜り方、そして少年には爪があった。


 器用に海に潜って魚を取るのは得意だった、そして森に行けば山から流れてくる小川があった。

そこで獣人の敏捷性とその鋭い爪のおかげで男の子は少年になり、青年になって行った、その頃には原生林の様な森の中を樹木を伝い地を駆け、魔物と闘い肉を食らい逞しく生き抜いた。


 本土に帰るために船が来るのを待つがここは人も寄り付かない魔物の島だった。いつしか青年は船を待つことをやめた、その頃には、その爪と牙と敏捷性で、ギガントコングとも互角に戦えるほどだった。


 この島には魔物の中でも一つのルールがあった。

無駄な殺しはしない、生きるために命を頂く、それ以外の殺しはしない。


 いつしかその青年をこの島の魔物たちは認めた、そしてその青年は人間の言葉も忘れて行ったが、父親が最後に叫んだその名だけは、忘れなかった。


その魔物の島の王、名を『バオー』と言う。





____そして、ゆっくりとバオーはバベル達の前に姿を現した。



「ニンゲン、カエレ、バオー、ココマモル」

ギガントコングが威嚇するように雄叫びを上げる、それを手をあげ制するバオー。


バベルは、その青年の目を見た、その眼は鋭く強い意志を持ってた。そしてこの青年はこの地で長く生活しこの地を守って来たのだと悟った。


「すまない、この地を荒らすつもりは無かった。」


「ニンゲン、ナニシニ キタ」


「バベルだ、俺の力を返してもらいに来た。」


「チカラカエセナイ、バオー、ココマモル」


「俺にはその力が必要なんだ返してくれないか?」


「ツヨイヤツノモノ、バオー、マケナイ」


「仕方ないな、バオーと言うのか俺と勝負だ、ハクは見ててくれ。」


「わかった。」


そして何やらバオーはギガントコングたちと話してる様だった、そしてギガントコングたちはゆっくり下がって行った。



「バオー、カツ、オマエタチ、カエル」


「分かった、俺が勝ったら力を返してもらう。」


そして二人は対峙した・・・じっくりとお互いを観察する、恐らくバオーも、コングたちの負傷の具合で強さを理解してるはずだ・・・



【バベルマキシマイズ】

バベルの闘気が一段と増す、それを警戒するように4足歩行の猛禽類の様な構えを取るバオー。


 先手を打ったのはバオーだった、その4足歩行の構えから飛び掛かる速度はとてつもなく早く、その爪はとても鋭かった、その一撃はこの魔界島で十数年生き抜き、この地の王となった強さの表れであり、今日を生き抜くためにどれだけ鍛え上げられたかが、すぐに分かった。


完全に躱したはずのバベルの肩から鮮血が流れる。

(はえーな、油断してるとあっという間に切り裂かれそうだ。)

【オーラディフェンス】

【バベルブレイド】


一段と警戒心を上げるバオー

【バオオオオオオオオ】

バオーも雄たけびを上げその身体能力を著しく上昇させる。


 お返しと言わんばかりにバベルがブレイドを突き刺しに行く、速度は既に常人では捉えられないほどだが、易々と躱すバオーそして躱しざまに一撃を放つ、なんという野生の攻撃だろうか、オーラディフェンスを纏ってるバベルの体からうっすらと血が流れる。


一進一退の息つく間もない攻防が繰り広げられる・・・


魔界島で一人で生き抜いたその王の強さは並では無かった、バベルのそれを僅かに上回った。

徐々にバベルの体に傷が多くなってくる・・・


そのスピードが、その鋭い爪の一撃が語っていた・・・


(このままではやばいな、やっぱり野生には野生か・・・)


【野獣の咆哮】ガオオオオオオン


 一瞬バオーの動きが止まる。それを見逃さないバベル、最大限まで向上されたバベルのスピードがその攻撃がバオーを上回り始めた。


しかしバオーにもこの島の王の意地がある、

(カゾク、バオー、マモル、チチノヨウニ・・・)


まるで己の命を削るかのようなバオーの闘志。


しかし、バベルの一撃が、バオーの体を深くとらえる・・・


その瞬間ギガントコングたちが雄たけびを上げながら突進してきた。


「ホロホロホロホロホロォオオオオオオ」


バオーがそれを制止させる。


「バオー、マケ・・・バベル、カチ・・・チカラ、カエス・・・ダカラ・・・」


___テッテレー【ライトニングバベル】獲得___


ライトニングバベルとは己を雷の槍と化し敵を貫く一撃必殺の技であった。


そしてアンナ達も出て来た。

傷ついたバオーの手当てをする、フレイアもバオーに手をかざし何やら祈りの言葉を囁く、バオーの表情から痛みが薄れて行くようだった。


 そしてゆっくりとバベルがバオーに近づき手を差し出す。

その手をバオーが握り立ち上がる、そしてお互いに抱擁する。

野生でも仲直りに体を寄せ合う、本能でバベルはそうしたのかも知れない、拳を交えたお互いだからこそ、相手の事が良く分かる。


「日暮れには船が来るから帰る、次来るときは戦うことなく美味いもん持ってくる。」

そう言ってバベル達は、海岸へと戻って行った。


「凄いよな、どれだけの時をあいつはここで過ごしたのか。」

「バオーさんにとってはあの魔物たちが家族であり友達なんでしょうね。」

「あぁ、そうだな。」


そうして日が暮れ始めたとき、バオーが海岸にやって来た、何やら大きな革袋に何かを詰め込んで持ってきてバベルに手渡す。

「フン、ウケトレ」

「くれるのか?」

そしてそれを受け取り開けてみると中に金やら宝石のようなものがたくさん入っていた。

「ありがとうな、今度俺も何かもってくる。」


そうしてるとバズが船でやって来た、ギガントコングたちを見たバズは一瞬船を止めかかったが、バベル達が平然としてるので恐る恐る、船を寄せて来た。



そしてバベル達はバオーに別れを告げ、魔界島を後にした。









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