住宅の内覧【KAC20242】
めぐめぐ
住宅の内覧【KAC20242】
今日は、新しいお客様がやってこられました。
新婚ホヤホヤのご夫婦です。
いずれたくさん子どもが欲しいのだと、おっしゃっています。
こういうときこそ、私の腕の見せ所。新しい夫婦の門出に是非彼らにピッタリな部屋を見つけてあげたい。
私はまず、1軒目のお宅へとお二人をご案内いたしました。私の後ろでこれからの生活について楽しそうに話されていたお二人から、真剣な視線を感じます。
それもそうですよね。
これから長くも短い生活を送る場所なのですから、チェックする目が厳しくなるのも当然です。
「まずはここですね。この場所は、たくさんの人が通るので、とても賑やかです」
人通りが多いということは、悪さをしようと思う人が近づきにくい。ある意味、防犯になるかと思っていましたが、
「でも、人が多すぎるのはちょっと……もう少し静かな場所がいいんです。それに先ほどお隣の方の姿が見えましたが、失礼ながら、何かあったら家の壁を叩き壊されそうで……」
奥様が心配そうにそうおっしゃいました。
なるほど。確かに新婚ですからあまりにも人通りが多いというのも嫌かも知れませんね。それに隣人との関係は大切ですから、少しでも不安があるなら避けた方がいいかもしれませんね。
私は次の物件へとお連れしました。
次は奥様のご要望通りの静かな一軒家。先ほどの都会の喧騒とは違い、のどかな時間が流れています。
「ここなんていかがでしょうか? 静かで子育てもしやすい環境ですよ」
「いいですね!」
奥様は嬉しそうにされていますが、今度はご主人さんが唸っています。
「でも本当に何もないんですね。それに寒すぎる。やはりもう温かく、多少は人通りがある方がいいかもしれません」
「そうですか。承知いたしました」
「ご案内頂いているのに、注文ばかりで申し訳ありません……」
「いえいえ、ご主人さんが心配なされるのも仕方ないですよ。大切な住処なのですから、十分ご検討なさってください」
恐縮するご主人さんに、私は笑って答えました。
私は仕事柄、様々な場所を訪れているため、たくさんの物件を知っているのです。物件のご紹介が本職ではないのですが、せっかく知った様々な物件を、必要とされている方々にご紹介して喜んでいただくことが、密かな楽しみなのです。
お二人のご要望を聞き、私は良い場所を思い出しました。
そこにご案内すると、
「ここはいいですね! 雨の心配もないですし、それに適度に人通りもある」
「それにお隣の方たちも同じように子育てをされていて、とても優しそうです」
お二人は非常に満足してくださいました。
私はお二人からお礼を言って頂き、次のお客様への物件ご紹介のために、この場所を後にしました。
春風として吹き去る私の後ろでは、窓から顔を出した隣人のお子様が、
「ママー、ツバメが巣を作ってるよー!」
と嬉しそうに報告している声が聞こえました。
<了>
住宅の内覧【KAC20242】 めぐめぐ @rarara_song
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