ソフィー

@YukiShohei

ソフィー

吾輩は犬である。名前は君には教えない。

生まれたときは多くの兄弟から引き離され、

それからオリの中で他の同類と遊んでいた。

そうすると、ひょこひょこ銀毛の妙齢と言えるかもしれない

オスの人間と出会った。

こちらをマジマジと見て、一度通り過ぎてまた戻ってきた。

なにかものをいいたげにこちらを見つめていた。

しばらくしてその人間は他に複数の人間と何か言葉を交わし

こちらになにかもぞもぞと話しかけ

こじんまりとした小さな箱に押し込められ

とても速く動く箱にまたその人間もぎゅうぎゅうに入り込み

大きな家に着いた。

それからしばらくしてわかったのだが、この速く動く箱を自動車といい

また、その人間のオスはその"免許"というものをもっていない事を知った。

ただ、すぐにわかった事はこの人間のオスがご主人になるということだ。

ご主人は私の身体をよく触る。私はそれがくすぐったく気持ちが良い。

長い時は三時間ほどそうしている。そしてご主人と一緒に眠り。

一緒に、私は身体にヒモをつけてはいたがよく外出した。

なぜならこのご主人、"免許"をもっていないからだ。

いやなに。ご主人をバカにする気は毛頭ないのだ。

ある時に東京に出て飛行機というものに初めて乗った。

その時の感想は言うまい。私は今生の別れとさえ思ったからだ。

後にご主人に迎えられた時は心底生き返った。

その時ほどご主人と一緒にいないという事がどれだけ心細いか認識した事はない。

だからご主人をバカにするものは人間だろうと同類だろうと許さぬつもりだから。

心しておくように。

さて、ご主人の特性を言うと、とにかく私に話しかける。

実は私は人間の言葉というものを、なんとなくでしかわからない。

だが、そのなんとなくというのがなんとなくわかるのだ。

君も犬になってみたまえ。すぐにこの感覚がわかる。

この私の人間の言葉についての所感を説明したのだから、当初に戻ろう。

私は君に"私の名前"を教えないといった。

それは、ご主人が最初に私にくれたものだからだ。

なにも形のあるもりばかりに価値があるとはいうまいな。

名前というものは、それが"無い"ものにとっては、

存外、嬉しいのだ。だから大切にしている。

だから君にも教えたくないのだ。

この名前というもの。私はこの人間の言葉は例外的によく理解している。

しかもこの言葉の数多のニュアンスまで暗記している。

大抵はご主人が私を呼んでいる時ではあるが。

まぁなんだ。呑気に私が昼寝をできるのもご主人のおかげである。

だがご主人は私と常に一緒でなければ発狂するらしい。

なんとなくわかった言葉と態度でそう解釈した。

私の名前には知恵だとか哲学だとか、なんだかご主人がとても大事にしているものを込められた。

私はそれを、私をそれだけ大事にしてくれていると解釈している。

君も自分の名前について一度考察を深めると良い。見えないものが見えるかもしれん。

いや、あれこれ言ったが。飼い犬というものも存外悪くないぞ。

君も一度、飼い犬になってみてはどうかね。

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