第4話

 川にスマホを投げ捨てた後、荷物を纏めた私は実家に帰ると家族に全てを話した。


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら支離滅裂で話す私に、両親はただじっと耳を傾けた。


 そして、最後まで話を聞いてくれた両親から一言。



「うん、しばらく休んでこれからどうしたいか考えなさい」



 その言葉で両親が理解を示してくれたと分かり、私は再び涙を流して静かに頷いた。


 そして翌日、私は前々から通っていた心療内科で診察を受けた。


 そこで精神科の先生から『適応障害』と診断され、「もう休みなさい」の言葉と共に診断書を渡され、ようやく自分がいかにヤバい状態だったことを知った。


 そこから更に2日後、会社から実家に電話が来た。


 この時は、既にスマホを替えていたのだが、どうやら実家に電話した方が早いと思ったらしい。


 そして2週間後、会社に行った私は、そこで上司との話し合いの場が持たれた。


 だが、持ってきた診断書に見向きもしなかった上司が、面倒くさそうな顔をしながら問い質す。



「それで、どうするの? みんなに謝ってあの店で働くの? それとも辞めるの? どっち?」

「わっ、私は......」



 私は、これからどうするべき?


 先輩達や上司に向かって『迷惑かけて大変申し訳ございませんでした』と謝って店に戻るべき?


 それとも、早期離職覚悟で会社を辞めるべき?


 どう返せば良いか分からず困っていると、盛大なため息をついた上司が頬杖をついた。



「まぁ、あなたがここを辞めたとしても、次の場所で続くとも思えないし、学生に戻ったとしても親御さんに迷惑かけるだけだと思うんだけどね」

「!?」



 この時、私は理解してしまった。


 目の前にいる上司は、私が会社を辞めようが辞めまいがどちらでもいいのだと。


 何せ、私は入社して半年足らずの新人。


 辞めなければ、会社の利益が増えるから良い。


 辞めたら、その時は人員を増やせばいい。


 そもそも、私が入った会社は創業してようやく10年を超えたまだまだ若手の会社。


 実力至上主義で成長途中の会社に、ポンコツ新人にかまけている余裕などどこにも無いのだ。


 そんな会社の事情が、面倒くさそうな顔をしている上司からありありと伝わった。



「まぁ、どうしたいか決まったら電話で教えてね。それじゃあ、帰っていいわよ」



 そんな上司の軽い言葉で終わった1時間足らずの話し合い。


 会社を出た私は決意する。


『この会社を辞めよう』と。


 早期離職を気にして辞めるか迷っていたけど......そんなのどうでもいい!


 そう思った私は、翌日会社に連絡した。



「あの、会社を辞めます」

「そう、それじゃあ1週間に会社に来て。退社の手続きするから」

「……分かりました」



 実にあっさりとした上司からの言葉。


 まぁ、ポンコツ新人の進退なんて、この上司にとっては本当にどうでも良いことだったのだろう。


 そして2週間後、私は自己都合で退社した。

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