トリアエズ出撃

大黒天半太

トリあえず飛びます

「トリあえず、座ろうか」

 トリ型の魔力駆動騎、『トリアエズ』と名付けられているその飛行騎は、安定して飛び続けており、後からコクピットに入って来たカチャトーリを操縦席に受け入れた。

 それが空中でもなく、高速で飛んでいる最中でもないかのように。



 司令官の慌てぶりに押され、無人で上空を領空巡回パトロールしているトリアエズに、高速飛翔ブースト・フライで追いつき、緊急出撃スクランブルはしたものの、当面敵と遭遇する見込みはない。


 目的地に接近して敵の迎撃を受けるか、飛行能力のある放浪する魔物ワンダリング・モンスターに偶然遭遇するかまで、自動オートで飛んでおり、指示も操縦もする必要が無い。

 むしろ、放浪する魔物ワンダリング・モンスターは、この高さの空であれば、決して多くはない。巨大な鳥や虫系の魔物なら、エサの有るもっと低空を飛ぶものだし、敵を求めて自分の縄張りを飛ぶ亜竜や飛行型の魔物は、魔力が大きいので警戒の術式レーダーにすぐ反応して見落としが無い。


 カチャトーリは、戦闘空域への到達予測時間と、予備の装備品の中で、食べ損なった昼食の代わりになるものはないかと漁ってみた。


 誰かが使って補充してないのか、ストックには期待できるようなものはあまり入っていなかった。

 ボイルした豆、ボイルした芋、塩漬け肉の燻製ベーコンと、酒の肴になる程度のモノが真空凍結乾燥フリーズドライされたパックに入っている。もちろん、ビールは瓶も缶も無い。


 カチャトーリはやむなく全てを開けて、一つの容器に移し、水を入れて加熱する。調味料もないが、下味はついてるはずなので、塩味のスープくらいにはなるかもしれない。いや、それくらいにはなってほしい。そうでないなら、このトリアエズの点検整備担当者か司令官に、昼飯を一回奢らせるところだ。


 前方に大きな魔力反応が出現し、警報アラームがコクピットに響きわたる。

 大型飛行魔獣と思われる反応、亜龍か? それとも、翼手竜ワイバーンか? この魔力の大きさからすると、ブレスを吐く能力なり、魔術擬きの攻撃能力を有している可能性もある。


 トリアエズには小規模攻撃術式の装備しかないため、あの大きさには、リアルタイムにライブで術式を編み、唱えるしかない。


 カチャトーリは、自分がやったと判明すると後々めんどくさいので、自分の痕跡が残らない/自分が得意としていない、珍しいが特徴の少ない光魔法にする。

 単一波長のコヒーレント光の増幅収束術式、光魔法と聖属性魔法しか使えなかった神官に頼まれて作った攻撃魔法だ。


「高々この程度の魔獣に……手間が掛かるな……」

 小鍋から茹で上がった豆と燻製肉ベーコンを摘まみ、一人ごちた。

「取り敢えず、生光束ビーム……で行くか……」

 

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トリアエズ出撃 大黒天半太 @count_otacken

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