ギスギスした姉妹の会話 その2

「ふんふふーん♪」


 美顔ローラーを頬に当てながら、私はご機嫌に鼻歌を歌っていた。


 なっくんと紬が付き合い始めたって聞いた時はどうなることかと思ったけれど、どうにか一件落着になりそう。


 私のがなっくんとずっと一緒にいたし、なっくんのことずっとずっと理解してる。

 紬なんかに絶対奪わせないんだから。


「えへへ、なっくん……」


 なっくんとのツーショット写真を眺めて、頬を緩める私。


 本当はツンケンした態度を取りたくなんかない。

 素直に好意をぶつけて、なっくんに受け入れてもらいたい。


 でもそれがうまくできなくて空回っているだけなんだ。


 いい加減この性格を矯正しないとな……。


 また、紬みたいになっくんを奪ってくる子が現れるかもだし。



 ──バタンッ


 そう思った矢先のことだった。


「え、ちょっと急に入らないでよ」


 突然、部屋の扉が開く。

 部活道具一式を持った紬が、無遠慮に私の部屋に入り込んできた。


「お姉ちゃん、どうしてそんな卑怯な手使うの?」


「……なんのこと?」


「惚けないで。ナツ先輩から全部聞いた。やってること最低だよ」


「泥棒猫よりマシだと思うけど?」


 紬は頬をななめに歪める。


「ナツ先輩はお姉ちゃんのものじゃない! 勘違いも程々にしなよ!」


「か、勘違いじゃない。私となっくんは結婚の約束してるんだから!」


「バッカじゃないの? そんな昔の約束、ナツ先輩が覚えてるわけないじゃん!」


「うっさいな。大体、なっくんは紬のことは妹くらいにしか思ってないでしょ。適当に言いくるめてなっくんと無理矢理付き合ったことにしたのは目に見えてるのよ! 私は騙されてるなっくんのために行動しただけ!」


 お互いにヒートアップしてくる。


 気を抜けばそのまま掴み合いになりそうな雰囲気だ。


「ウチはナツ先輩を騙してなんかない」


「どうだか」


 私は微かに口角を上げると、小首を傾げた。


「あ、そうだ。紬にいいこと教えてあげるよ」


 椅子から立ち上がり、紬の耳元で囁くように告げる。


「なっくんは紬と別れることに対して抵抗感なかったよ? 本当になっくんは紬のことが好きなの? 違うよね? なっくんは紬のこと異性として見てない」


「……さい」


「本当は紬自信が一番理解してるんじゃないの? なっくんに異性として見られてないこと」


「うるさい」


「潔くなっくんから身を引いてよ。邪魔だから」


「うるさいうるさいうるさい!」


 紬は壁をドンと拳で叩く。

 憤りを露わにしながら、私を睨みつける。


「ナツ先輩にどう思われてるかなんて痛いくらいわかってる。だから今、頑張ってるんじゃん! 恵まれてるお姉ちゃんが偉そうに言わないでよ!」


「は、はぁ? 私のどこが恵まれてるわけ」


「……っ。話になんない」


「こっちのセリフなんだけど」


 私と紬の視線が嫌な混じり方をする。

 険悪な空気に包まれ、息が詰まるような感覚。


「もうナツ先輩に関わんないで。次また似たようなことしたら許さないから」


「紬にそんなこと言われたくない」


 嫌悪感を剥き出しにしながら視線を交錯しあう。


 バンッと勢いよく部屋の扉を閉めて、紬は出て行った。


 せっかく良い気分だったのに、最悪だ。


 重たく吐息をこぼす。

 と、スマホから着信音が鳴り始めた。


「こんな時に誰から……」


 液晶に表示される名前を見て、私はピンと背筋を伸ばす。


「も、もしもし?」


『あ、美鶴か。今ちょっといいか?』


「う、うん。いいけど……」


『紬ちゃんと別れる件、あれ無しにしてくれないかな』


 私はまぶたを瞬かせる。


「は? なんでよ。約束が違うじゃん!」


『なんていうか、もしかしたら紬ちゃんは俺のこと……その、言いにくいんだけど』


 わかりやすく口ごもるなっくん。


「何が言いたいわけ?」


『上手く言えないんだが、俺は紬ちゃんのこと誤解してた気がする。だから、ちゃんと向き合わないといけないっていうか』


「意味わかんないんだけど」


『本当にごめん。他のことなら言うこと聞くから』


「ちょ、勝手に決めないでよ! ねぇ⁉︎」


『悪いけど、じゃあ』


 プツリと通話が途切れる。


 私は本能の赴くままにベッドにスマホを放り投げた。


「ああ、もう! なんでこうなるのよ⁉︎」


 髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱す。

 思うように物事が進まない現状に苛立ちを募らせるのだった。

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