ギスギスした姉妹の会話 その1
「ただいまー」
間延びした声とともに、バタンッと扉の閉まる音がした。
私は食器を洗う手を止める。リビングにやってきた紬に目線を向けた。
「こんな時間まで何してたわけ?」
紬は前髪の毛先をクリクリと触りながら。
「ナツ先輩の家に行ってただけだけど」
「……っ。そっちのせいで私が余計に洗い物させられてんだけど」
「あーそっか。忘れた。明日、ウチがやるからそれで許してよ」
あっけらかんとした態度が、余計に私の癇癪に触れる。
「てか、なっくんと付き合うとか聞いてないんだけど。一体どういうつもり?」
「どうも何もないけど。好きだから付き合うって普通じゃない?」
特に動じることなく、紬はスマホ片手に言い放つ。
「そうじゃなくて、紬は私がなっくんのことどう思ってるか知ってるでしょ⁉︎」
「うん。知ってるけど」
「だったら!」
「でも、それでどうしてウチが身を引かないといけないわけ? 早い者勝ちでしょ」
「な、なによそれ。というか、紬もなっくんのこと好きなら教えてくれてもいいでしょ? 違う?」
「お姉ちゃんに言ったって仕方ないじゃん。それともなに? お姉ちゃんはそれでなっくんのこと諦めてくれるの?」
私は奥歯を噛み締め、唇を閉ざした。
紬がなっくんのこと好きだなんて知らなかった。
恋のライバルが物凄く身近にいたことに気がつけなかった自分が恨めしい。
ピンと張り詰めた空気が流れる。
重たい沈黙を破ったのは、リビングの扉が開く音だった。
「何かあったのか?」
私と紬のギクシャクした空気を感じ取ったのか、お父さんが不思議そうに声をかけてくる。
「「別に」」
お父さんは一層困った表情を浮かべる。
「ならいいんだが……というか、紬はこんな時間までなにしてたんだ? 父さん、門限とか厳しいことは言いたくないが心配に」
「心配しなくていいよ。彼氏の家に行ってただけだし」
「そうか。それなら心配いらな──はああっ⁉︎ 彼氏ぃ⁉︎」
「パパうるさい。彼氏くらい普通でしょ」
ぶっきら棒に言う紬。
お父さんは身体をわなつかせながら、口をパクパクさせている。
「そ、そういうものなのか……。くぅ」
重たい足取りでリビングを出ていくお父さん。
再び二人きりになると、紬は私を一瞥して。
「ウチとナツ先輩は今すごく幸せなの。お願いだから今日みたいな邪魔はもうしないでね」
「抜け駆けしたくせに……」
「抜け駆け? 散々チャンスあったのに勝手に自滅したのお姉ちゃんでしょ」
「自滅したわけじゃない! なっくんが全然告白してくれないからおかしくなった、だけ……」
「ふーん。とにかくナツ先輩だけは絶対にお姉ちゃんに渡さないから。べー、だ」
紬は右目の下瞼を引っ張って私に見せつける。軽い足取りでリビングを出て行った。
私は拳を振るわせながら、下唇を強く噛み締める。
「……ふざけないでよ。どんな手を使っても、なっくんを奪い返すんだから」
私の決意に満ちた声が小さく木霊していた。
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