滅茶ありがちなWeb小説のようなホントの話ってあるんだね
亜璃逢
滅茶ありがちなWeb小説のようなホントの話ってあるんだね
「てことでね、今夜もみんなありがとね~。んじゃ、また明日の夜! Zaiでした~。よき夢を。おやすみ~ Chu♡」
ああ、今夜もよく眠れそうだぁ。私はアプリを落としてベッドに入る。
時刻は24時。22時からの2時間は、音声配信アプリVOICEIZMの配信者、Zai君の枠、つまり配信を聞きながら過ごすのがもう半年ほどの日課になってる。宿題しながら聞いたり、コメント欄でほかのリスナーさんたちと絡んだり。こういう配信アプリって、意外と人間関係濃かったりするんだよね。
「え~っと、明日は8時起きでいいかな。11時に待ち合わせってお母さん言ってたし」
うちは、父が私が小さいときに天国に行っちゃったから、そこからは母と二人で暮らしてきたんだけど、このたびなんと、母が再婚することになったんだ。
お義父さんになる人とは何度か会う機会があったけれど、向こうの子どもさん、つまり私の兄弟になる子とは、明日初めて会う。
同い年とは聞いていたけれど、まさか17にして同学年の兄だか弟だかができるなんてびっくりだよね。仲良くできるかな。っていうか、その前に、どんな子なんだろな。
そんなことを思いながらお布団にミノムシみたいにくるまっていたら、いつの間にか寝ていたようで、目覚まし代わりの音楽で朝になっていたことに気づいた。
お母さんが作ってくれた朝ご飯を食べて、身支度にかかる。
「ちょっと、遥香。そんな気張らなくったっていいんじゃない?」
なんてお母さんが笑いながら言ってるけど、やっぱり同年代の子と会うってなると、ちょっとは見た目も気を遣いたくなるってもんだよ。うん。
というより、同学年の男の子ってことくらいしか教えてくれてないお母さんもお相手の今在家さんも、家族になる子のことなんだからもっと情報くれてもいいと思うんだよね。
今日は子ども同士の顔合わせも兼ねたランチをしてから、一緒に住むことになる建売住宅の内見? 内覧? に行くんだそうだ。
お母さんたちでもう見てまわっていて、ほぼそこに決定って言ってたから、最終段階っぽい。
*
「おー、遥香ちゃん! 恵美子さん、おはよう!」
今在家さんは、私と会うときは、お母さんよりまず私の名前を呼んでくる。最初はびっくりしたけれど、もう慣れたかな。さわやかで、お母さんよくこんなカッコいい人捕まえたねって何度か茶化したもんね。
で。
後ろにいる彼が、兄だか弟にだかなる……
あれ? え?
「も、もしか、いまざ……今在家……く……ん……?」
「あ、うん。淡路。おはよ‥‥‥」
「はははっ。実は、お母さんとも話して、コレは会ってから言おうかってね……」
いやまさか、クラスメートが兄弟になるとは!
しかも、いつも学校ではメガネだし。なんか今日は私服だからかキラキラしてるし。
おい! 情報量!
まあ、ちょっと珍しい苗字になるんだな私、とは思ったけどまさかまさかだよ!
びっくりしすぎて、ほとんどしゃべらないままランチを終えた私たち。
今在家さんとお母さんが気を遣って話をふってきたけど、まだそれどころじゃないって。
味を感じる暇もなかったイタリアンをおなかにおさめ、新居(予定)の内見に向かう。車の中でも今在家君とはほとんど話をしなかった。
お母さんたちが、キッチンとかリビングとか、あれこれチェックをしていく中、所在なくぼーっとするも、自分もここで暮らすわけだから、少しは興味を持たねばと思いなおす。
「ほ、ほら、今在家くんも、見てまわろうよ」
「……優」
「え?」
「い、いやほら、俺ら、おんなじ苗字になるわけだしさ」
「あ、あ、そうだね。すぐ……る君だっけ。じゃ、私は遥香で」
「うん、遥香ちゃんか」
「そ。春生まれだから。春香ってつけようかってなったけど、画数かなんかがこっちのほうがいいって遥香って字になったらしいんだ」
「へえ、でもいい名前じゃん。あ、俺秋生まれだから、姉貴になるのか」
「へー。秋生まれかぁ」
うちの学校は私立大の附属学校園だから、クラス数も少なくて、例えばクラスが違っていても、持ち上がり組もいたりして学年全員の顔と名前はわかっちゃうんだけど、今在家君とは、この春から初めて一緒のクラスになって、5月にあった最初の席替えまでの間、隣の席だったからちょこっとは会話していた。
さすがのびっくり加減に今日は言葉少なだったけど、お互い話し始めればなんとかなる……なってるよね? ね?
「おい、優、お前の部屋だけど、二階の角な。あそこなら多少音出しても大丈夫だろ」
「あ、助かる。ちょっと見てくる」
ん? 楽器とかやるのかな?
「遥香はその隣って思っているけど、どうかな」
「あ、私も見てくるよお母さん」
*
結局、その家に決まり、一か月後に私たちは一緒に暮らし始めた。
結婚式は「さすがにフォトウエディングくらいにするよ」というお義父さんとお母さんの撮影に優君も私も付き合い、ちょっとお高いフレンチで新しい家族でご飯を食べた。
クラスメートが家族になるってびっくりしたけど、なんとなくそれなりにやれそうな気がする。なお、友達にはまだ言って無いし、学校は淡路のままだ。
新居でも時間になれば私はイヤホンをしてVOICEIZMでZai君の声を聴く。やっぱり軽快で楽しくて、時間が経つのを忘れるなぁ。
ガタン!
「いったぁ~~~~!!」
Zaiくんの声の向こうで何かが落ちた大きな音がした。
そしてうちの床を通じて優君の部屋からも振動が……
「大丈夫!?」
ノックもせずに扉を開けた……
「ごめんちょっと姉フラ!ミュートにするね」
部屋に飛び込んだ時に片方落としたけど、残ったもう片方のイヤホンからも同じセリフ……
「……え!?」
義弟になったクラスメートが、推しの配信者だった件。
ねえ、なんかそんなWeb小説、どっかにありそうじゃない?
滅茶ありがちなWeb小説のようなホントの話ってあるんだね 亜璃逢 @erise
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます