103号室

 俺たちは頭を突き合わせて、復讐計画の大詰めに入っていた。俺と滝上、長谷川はただ川内が死んでくれればそれでよかったが、田口と高瀬は川内を痛めつけてやりたいと意見が割れていた。殺すだけなら簡単だったが、痛めつけるのは生かしている時間だけ発見されるリスクが増え、復讐が中途半端になってしまう可能性がある。痛めつける方法と死に至らしめる方法のバランスが大事だ。

 ピンポーン!とチャイムが鳴る。

「宅配かも」

 最近はまとめて生活用品を頼んでいるため、滝上が玄関へ向かっていった。

「うわ、なんだよ!」

 滝上が叫び声をあげ、俺たちは身構えて玄関を向く。どたどたという足音とともに、むりやり肩を組まれた滝上と、知らない男が入ってきた。

「こんにちは。川内についてなんか面白いことやってるって聞いたから、おっちゃんにも聞かせてもらおうと思ってやってきました。潮木といいます、よろしく」

 潮木と名乗った男は、柔らかい口調で話すが、雰囲気が明らかに堅気のそれではなかった。田口が喧嘩を売らないか不安になりそちらを見るが、田口も雰囲気を感じ取っているのかじっと目線を外さず見ているだけだ。

「なに、おっちゃんも個人的に川内に恨みがあるってだけだよ。壮大な復讐計画に一枚かませてもらえりゃそれでいいんだ」

 滝上を離し、潮木はドカッと床に座る。

「川内はねぇ、手を出しちゃいけないとこに手を出したのよ。ちょっと詳細は言えないんだけど、まぁ、堅気じゃない人にちょっかいを出したんだ。でもこちらとしては看板しょってどうこうするわけにもいかない。だから個人的に潰してやろうと思って、若いもんをマンションに住まわせて色々調べさせてもらったんですわ。そしたら川内そうとう恨まれてて、面白いことになってることがわかった」

 潮木は床に乱雑に並べられた資料を手に取り目を通す。

「素人さんが考えたにしてはえらい残酷なことしようとしてますな」

「いや、全部は無理だろうからって、今から削ろうと……」

「私のほうに任せてくれたらフルコースでいけますよ」

 潮木の手には、復讐やりたいことフルコースの草案が握られていた。

「そちらさんから契約を持ち掛けたって形なら、上も納得するだろうし。いくらか金は積んでもらうことになるが、格安にしときますよ。ご検討くださいな」

 ご依頼は103号室まで、と言い残し、潮木は去っていった。潮木がいなくなった後も、俺たちはしばらく無言で見つめあった。もちろん心は決まっていた。

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