102号室

「ここまでくると、ほかの2部屋の住民も川内に恨みを持っている可能性はないか」

 俺と滝上、田口、高瀬で計画を話し合う最中、ふと思いついたことを口にしてみた。偶然にはあまりにもできすぎている気がするが、川内の人間性を考えると当然な気もしてくる。

「たしか102号室には若い女性が住んでいるはずだぜ。一度尾行を見られて慌てて帰ったから覚えている」

「私も1階の部屋なのでその女性は見かけたことがあります。しかし103号室の住民はわからないですね。生活している様子はありますが、どうも鉢合わせを避けているようで、一度も見かけたことがないです」

 俺は計画に支障がないかの判断材料にするために話を出しただけだった。しかし次の日、田口が女性を連れて俺の部屋を訪ねてきた。

「おう、水口の言うとおりだったぜ」

「夜分遅くすみません。私、長谷川って言います。川内に復讐したくて、水口さんたちの話を聞いて参加させてもらおうと思って訪問させていただきました」

 俺は田口をにらむが、意図は伝わらず田口は得意げだ。

「お願いです。私、川内を殺さないと前に進めないんです」

 長谷川は意志の強そうな目で俺を見つめ、深々と頭を下げた。

「とりあえず入って。田口は帰りな」

 にやにやする田口は帰し、長谷川を招き入れる。俺に比べて話し上手な滝上はバイトに行っている。しばらく沈黙が続いた。

「疑ってますよね。突然すみませんでした」

 長谷川は、スマホをいじりこちらに向けた。

「これ、整形前の私です」

 そこには、純朴な顔立ちだがけして不美人ではない女の子が映っていた。

「私小学生の時に川内に不細工不細工だっていじめられていて、自分の顔が許せなくなっちゃったんです。だから整形しまくって、今の顔になりました」

 今の長谷川の顔は、整形した事実は言われなければわからないが、写真に写る女の子の面影は一切ない。

「ご存じでしょうけど、川内は立ち回りがうまいから、私はただのおどけ役ってみんなには思われていました。うちの親ですら。整形を繰り返し、今では勘当されています」

 スマホの画像を見ながら彼女は寂しそうに笑う。

「今はまだましになってきましたが、どうしても自分を許せなくて。区切りをつけるために復讐を思い立ちましたが、女一人じゃできることは限られていて。顔が違うからって取り入ろうとしたんですけど、考えただけでおぞけが走ってしまってどうにも実行できませんでした」

 つらそうに笑う彼女を、仲間に入れないわけにはいかなかった。どんどん規模が大きくなっていく復讐計画に、不安がよぎる。頭を振って余計な考えを持たないように気を付けなければならない。俺は川内と刺し違える覚悟で引っ越してきたんだ。当初の予定では、もう川内は死んでいるはずだった。早く計画を実行しなければならない。

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