101号室
寝る前にトイレへ行こうとしたとき、窓の外に人影が揺れていることに気が付いた。田口がまた下手な探偵ごっこをしているのかと思い外に出ると、そこにはよれよれスーツに身を包んだ血走った目のおっさんが立っていた。幽霊かと見まがうほどに生気がなく、薄汚れた雰囲気だが、両手に赤いポリタンクを持っていた。どこを見ているのかわからないおっさんと見つめあい、どうしたものか考えていると、急におっさんの血走った目から涙がこぼれ始めた。
「……川内修絡みか?」
俺の問いにおっさんは大粒の涙をこぼしながら頷く。川内はどれだけのひとに恨まれているのかと頭を抱えながらおっさんを部屋に招き入れた。
異様な雰囲気に滝上も起きてくる。
「会社が同じだったんです。でも、あいつは私が直属の上司だからって、自分に振られた仕事をどんどんこっちによこしてきて、ミスはすべて私のせい。上司だからしりぬぐいはしますけど、私の指導とは明らかに違うことをして、それを私から教えられたとおりにやったって嘘をついて。結局数百万の損失を出して、私は閑職に追いやられて……でもあいつはのうのうと元の部署で働いてて。私は家族にも見捨てられて、もうあいつを焼き殺してやろうと思ってて」
「俺たちまで巻き込まれちゃ困るな」
高瀬と名乗るおっさんは、涙を流しながらとどまることをしらない呪詛を吐き続ける。
高瀬は川内の下の部屋101号室に住んでおり、本当は自分の部屋を燃やして川内を巻き込んで殺すつもりだったが、確実性に欠けると考えマンション全部を燃やすつもりだったらしい。しかし巻き込まれる人がいることを考え、躊躇しているところを俺に見つかったようだ。
「高瀬さん、いいところに来てくれましたよ。何の因果かこのアパートに住む住民の半分以上が川内に恨みを持っているんです」
「なんですって、川内のやつ恨まれすぎじゃないか」
「高瀬さんも一緒に計画に加わりませんか?4人いれば完全犯罪もできるかもしれないじゃないですか」
「しかし……」
「みんな川内と刺し違える覚悟はできているんです。みんなでやっちゃいましょう」
滝上の説得で、高瀬首を縦に振った。101号室に戻るときには、心なしか安心しているように見えた。
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