２０５２年 オタ活の旅

第1話 オタクの祭典

「推しのためなら死ねる！」

そう言って高さ４０m程の台から飛び降りた。

もちろん命綱はないし、落下地点にネットが張ってあるということもない。

硬い地面との衝突で体はひしゃげ、動かなくなった。

次々に人々が高台から飛び降り、死体の山が出来上がっていった。

「今日は私のライブに来てくれてありがとう！やっぱりオフラインはいいわね！いい死に様よ！！」

最近流行っているリアル系デスアイドルのライブイベントに今日は来ている。

今日は飛び降りだった。

なんの意味もなく。ただ無常に死んでいく。死体が積み上がっていく。

狂気と可愛らしいアイドルの歌が合わさったシュールな光景だ。

「次の全国ツアーは１２月！みんな入れる大きな釜を用意して炒ってあげるからね！！」

　技術進歩というものはすごいもので、世の中がどんどん変わっていっていると言えば月並みだが、

人が人を越えたあの日から世の中は加速度的に変わっていっている。

１００年前の人たちがこの全てが混沌とした世の中を想像できただろうか。

皆が全ての自由を手に入れたこの現代を。

　俺はごく普通のサラリーマン。

仕事はそれなりにして、それなりの給料をもらって全てオタ活に使っている２０５２年を生きるオタクだ。

人類がありとあらゆるものを手に入れたこの時代でも仕事というものはしなくてはいけないらしい。

だが、今日は８月１３日。つまりお盆休みなのだ！

そしてオタクがすることと言えば１つしかない。

東京に行って巨大同人誌即売会に行くことだ！！

今日という日のために軍資金は十分。いざ行かん！！

　俺はPCのスリープモードを解除し、脳をオンラインに接続する。

少し高かったが東京のレンタル人体に俺をコピーし混雑する電車を避けるのだ。

リアルイベントへの地方民の悲しみはいつになったら解消されるのだろうか。

１５分ほどして転送が完了し、体の感覚が戻った。

人体のシステムは全て正常で問題なくこの体で動けるみたいだ。

安いレンタル人体を使ってデータ破損したという話も聞いたことがあるから、

やはり出すべきところにはしっかりと支出しなければないならな！

レンタル人体ショップの店員さんが確認しに来て動作に問題がないか実際に動かしてみて確認し、最後に説明を改めてしてくれた。

やはり最後は人間の目で見るのが一番だよな。

　ぎゅへへ。

自分でも気持ち悪いと思う笑いが出てしまった。

しかし、その内容に反して声はとても愛らしい。

150cmの低身長にピンクのスーパーロングの髪の毛。

幼い顔つきに反してその豊満なメロン。

ロリ巨乳最高！

せっかく人体を借りるのだ。しかも今日はオタクの祭典。

かなり奮発してこの俺の好みど真ん中のボディを予約したのだ。

変態でも構わない。

俺は変態という名の紳士なのだから。

いや、今は淑女か？

ものすごく下着をつけるのに苦労して、意味のわからない構造をしたワンピースを着て出発だ！

　動作補正アプリはプリインストールされていたので、可愛い幼女がきもいおっさん歩きすることなかった。

発音補正アプリはお好みがあるでしょうからということで会場に向かう電車の中でインストールする。

フリーのアプリでもいいが、たまに規定外の発音があるので不便だ。

文字のフォントと同じで全部カバーするのは大変なのだろう。

とりあえず、低価格の女の子発音アプリをインストールしておこう。

あれこれ人体の設定をして会場の駅に降り立つ。

皆、紳士淑女なのだ。

決して走らず伝統を守り、高揚感をエネルギーに早い速度で歩いて駅を出る。

「おおー、本田。今日も時間ぴったりだな」

待ち合わせていたオタ友の「時の支配者＠社内限定」と合流。

本田は俺のオタネームだ。

「本田、お前今日は随分可愛らしいな。なんかのキャラのコスプレか？」

「おう、これは今クールでしてる魔法少女まじかる戦車の主人公に合わせてな。あえて古風なスタイルでありながら戦車で戦うんだ。一見ゲテモノかと思いきや監督はあの人でストーリが本当にいいんだ。騙されたと思って４話まで見て！そして主人公可愛いから！！」

「オタク特有の早口言葉で話すな。俺じゃなきゃ聞き取れなかっただろ」

くだらない話を楽しみ、いざ戦場へ突入する。

いつになってもオタクというものは変わらないものだな。

さあ、今日はどんな素晴らしい出会いがあるだろうか。

「魔法少女まじかる戦車完売です！」