第3話 内見、内見

 不動さんはそのあと、いろいろな物件に案内してくれた。ちょっと普通じゃない、変わった物件が多かったけど。


 たとえば、昔私が通っていた小学校。以外にも人気の物件らしい。普通の小学生に紛れて普通じゃない人たち、つまりこっち側の人たちがたくさんいた。懐かしかったし、にぎやかで楽しそうだったけれど、小さい子ばかりで場違いだったので遠慮した。それに、夜の学校って住むのには怖すぎるし。


 それから、よく通っていた定食屋さん。おいしいご飯の匂いが漂っていて、でも食べられないのでつらくて断念した。


 古本屋さんはけっこう居心地よかったから住めるかもしれないと思ったけど、店員さんの中にひとり勘の鋭い人がいて、じっと私を見ているので気まずくてあきらめた。


 あとは、興味本位で大学のサークルの気になっていた先輩の家を冷やかしてみたけど、彼女と同棲していたので即撤退。


 池のある広い公園は散歩をするにはいいけど、不気味なぬらりひょんや河童が先住していて、ちょっと同居はきついかなと思ってやめた。



「もうあきらめて成仏しようかなぁ」


 橋の欄干に寄りかかり、池の水面から目より上の部分だけ出してこちらをじっと睨みつけてくる河童を見ながら、私はため息をついた。


「申し訳ございません。わたくしの力不足です」

「不動さんはよくやってくれたじゃん。謝ることないよ。きっと私に原因があるんだよ。協調性がないから……」


 すっかり不動さんに心を許した私は、いつの間にかため口になり弱音を吐いていた。


「それにね、あちこち行けてけっこう楽しかったよ。よく知っていると思っていた世界が、実はこんなに混沌としていたなんて。不動さんのおかげだよ」

「喜んでいただけたなら幸いです。お客様を笑顔にすることが、すまいる☆不動産のモットーですから」

「それ、そのすまいる☆っていうの、誰がつけたの?」

「もちろん、わたくしですが」

「そうなんだ……その顔ですまいる☆って、初めは冗談かと思ったよ」

「よく言われます。しかし、だからこそすまいる☆にしたかったのです。自分では笑顔のつもりでも、怖いと言われるので」

「そうなんだ。不動さんにも苦手なことってあるんだね」

「ありますよ」

「なんか元気出たよ。ありがとう。もう、おとなしくあの世に行くよ」

「お待ちください。最後に一軒だけ、どうしても紹介したい物件がございます」

「え、まだあったの? もう、いいよ。どうせ化け猫とか口裂け女がいるんでしょう?」

「だめもとでもいいので、行きましょう」


 返事をする前に不動さんはすでに虚空を剣で切り裂いている。


 まあ、いいか。これで最後。見るだけ、見てみよう。

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