第10話 イケメンは並べて愛でてこそですがなにか?

「ん? 私の顔に何かついているかな?」


 ヴィクトール殿下のご尊顔拝し奉り石化中の私。


「ミレーネ嬢?」


 クイッと顔を近付けて来られて、目を覗き込まれた瞬間、カッと血が逆流して石化解除、慌てて半歩退いた。


「い、いえ、何も……」


 ついてますっ! とびっきりのイケメンフェイスを構成する、キリリとした青い目とほどよい高さのお鼻とちょっと意地悪く口角を上げた色っぽい唇が!


 フレデリック様と同じ金髪碧眼なのは予想してたし、なんなら伝え聞いてはいたけど。


 自分の国の王太子だもの、直接会ったことはなくても、風貌くらい聞こえてくる。


 金髪碧眼の見目麗しいご兄弟だって。


 ……違う。


 合ってるけど、違うっ!


 構成要素が同じでも、解像度が違いすぎっ!


 何、ちょっとその伏せ目で人を値踏みするような小馬鹿にするようなクールな眼差しっ!


 にっこり、じゃなくて、ニッ、という笑顔って言えば笑顔だけど、聞こえないのにフッ、って鼻で笑った書き文字がほっぺたの脇に配置されていそうな、見下し顔!


 公爵家のアラン様はオレ様はオレ様でも、オラオラ系とかやんちゃ系、反抗期の拗ねてる坊っちゃんキャラだった。


 でも、ヴィクトール殿下の属性は、魔王様的ドSオレ様っ! 絶対そう!


 え? なんで攻略対象になってなかったの?


 あ、でも、心に傷を抱えたちょい闇系お兄様も隠し攻略対象だし、あからさまなヤンデレ系とかサイコ系も初期設定にはいないから、そこはいろんな大人の事情とかあったのかも。


 それはさておき。

 

 いや、壮観だわ。


 イケメンふたり、しかも対照的な、まさに陰と陽。


 優しげだけど影のあるお兄様と、どこか苛烈だけど輝かしいヴィクトール殿下。


 片や闇夜の黒髪、片や陽光の金髪。


 片や柘榴石ガーネットの赤瞳、片や蒼玉サファイアの青瞳。


 そこは単純にルビーとかじゃないところが、ひとひねりあって素晴らしいわお兄様っ!


 共通点は肩より長い、背中に届くか届かないかの長髪だけど。

 

 お兄様は、絹のようなサラサラとしたストレートで、うなじ辺りでゆったりとひとつに結んでいる。


 ヴィクトール殿下は巻き毛まではいかないゆるいウェーブのかかった髪をそのまま下ろしてる。


 無造作なようだけど、よく手入れされていて毛先を遊ばせつつほどよくまとまっている。


 あぁっ! なんて素敵な好対照!


「ミレーネ、ヴィクトール殿下をお部屋にご案内して」


 殿下に魅入られたように視線を外せないでいる私に、お兄様が咳払いをして促す。


「は、はい。失礼いたしましたっ」


「クロード、大事な妹が他の男に夢中だからって、拗ねるなよ」


 ガシッと、口調を少し砕けさせたヴィクトール殿下がお兄様の首に肘をかけた。


 不意打ちで抵抗できず、お兄様は身体ごとヴィクトール殿下に引き寄せられ……られ。


 大接近のお兄様とヴィクトール殿下のっ! お顔っ!


 お兄様も決して小柄なわけではなく、むしろ平均より身長は高いし、そこそこ鍛えてるのに。


 そのお兄様を半ば羽交い締めにして拳骨でほっぺグリグリしてっ! してっ!


「殿下っ! 悪ふざけはいい加減にしてくださいっ」


「俺とお前の仲じゃないか。王宮じゃないし、堅苦しいこと言うなよ」


 『俺』一人称っ!


 あと、仲って?! 仲?!


 やだっ! 殿下の腕から焦って逃げようともがいてるお兄様っ! 可愛いっ!!



 ヤバ……よだれ出そうになっちゃったぁ! 


 平常心、平常心っ!



 ……無理っ!


 




 



 


 


 



 


 

 

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