第11話 旅立ちの二人
その言葉に間髪入れずに手を上げた隣のそいつ。
俺も気になることはあるが、ここは棚見に譲る事にしよう。
「結局オレ達ってどんな力が使えるんすか? そのあたりあのシキョーサマから聞かされてないんで、気になってんのよね」
これは素直に驚いた。俺も全く同じ質問をしようと思っていたからだ。
それに対して、リーラコーエルは若干言いづらそうに返答を始める。
「……非常に申し訳ありませんが、皆様方がどのようなお力に目覚めたかはこちらも把握しておりません。実際にお使いになられるまでわからない、としかお答えする事が出来ない事をお許し下さい」
目覚めた瞬間に教会が把握出来る、とかじゃないって事か。残念だ。
いや、重要な情報を把握されてないと考え直す事にしよう。
結局のところ俺はこの宗教団体を信用してないんだから、ここはポジティブに考えるべきか。
「ふ~ん。じゃあさ、オレ達以外にここに来たヤツっている?」
「それに関して言えば、お二人が初めてとなります。他の方々はまだこちらには到着なさってないご様子で、恐らく神殿の方におられるかと」
そうか。いや確かに昨日連れて来られた時点で夕方だったわけだから、一晩そこで寝て過ごすのは悪い考えじゃないよな。
「そっかぁ。でも大変だよね、よく考えたら。あそこの森って熊とか猪とかの化け物が出るワケじゃん? みんな無事に来れるかなぁ」
心配の表情が見て取れるのは、あそこに残してきた人間が全員こいつの知り合いだからだろうか。
しかし化け物に関して言えば、俺達二人でも対処できたわけだし。人数の面を考えても然程問題は無いんじゃないのか。
「化け物……? 失礼ながら、あの森でそのようなものと本当に出会ったのですか?」
今まで表情を崩さなかったリーラコーエルが初めて怪訝な表情を浮かべた。
「え? そうだけど、何かおかしいの?」
「私の知る限り、あの森は人に害をなす魔物の類は確認されていません。……しかし、そうですか」
顎に手を当て、何か考えている様子。
あの森はあれが普通だと思っていたが、異常事態が発生していたのか。
ということは本当なら何の問題もなくこの町に来て、そして説明を受けるはずだったと。
しかし何でそんなことが起きたのか? この辺りの事情を知らない俺にはいくら考えてもわかるはずもなかった。
考えがまとまったのか、リーラコーエルは再び口を開いた。
「申し訳ありませんが、私は席を外させて頂きます。問題の森の状態をこちらで確認に行かなければならないようですので。他の救世主様方も直接お迎えに行く必要があるようです。……お二人はこのまま当教会を利用しても構いませんが、どうなさいますか?」
「あ、いや。オレ達はもう行こうかなって。ね、香月くん?」
「え? あっそ、そうです。どうも、ありがとうございました……」
「いえ、皆様のお役に立つことが我々の役目ですので。では、これにて失礼させて頂きます」
それだけ言うと、この部屋は再び二人だけになってしまった。
とはいえ、俺ももう行こうと思っていたから席から立つ。
「で、どうする? 町を見て回るか、それとも」
神殿に戻るか。
俺の知り合いは一人も居ないが、こいつに取っては知り合いばかりだ。
安否が気になるんじゃないかと思う。その場合、俺はこの町に残る事にするが。何せ俺の知り合いじゃないしな、気まずい。
「向こうには戻らないかな」
意外な答えだった。しかし何故?
「多分オレが行くよりもここの人達に任せた方が説明とか省けるし、安全だと思うからその方がいいんじゃない? それに~」
「な、なんだよ……?」
「オレが行っちゃったら香月くんがまた一人になっちゃうしね。オレってばやっさし~、ありがとうって言ってくれてもいいんだぜ」
ニヤニヤする棚見を見てるとイラっとするが、ここで反論するのは奴の思う壺だ。
敢えてそのまま流す事にした。
「……とりあえず町に戻るか」
「そだね~」
そう言って俺達は部屋を後にしたのだった。
◇◇◇
「で、どうする? 図らずも準備が出来上がってしまったし、このまま旅に出るか?」
「そうだね~……、とりま地図出してから行先決めない? やっぱドコ行くか決めてからの旅っしょ!」
言い分はもっともらしいが、こいつが言うとまるで旅行にでも行くかのようだ。
教会近くの公園のベンチに座り、指輪から地図を取り出す。
……初めてやったが本当に指輪から出てきたな。不思議な感覚だ、正直ちょっと酔いかけた。
それはともかく地図を二人で覗き込む、村の入り口に書いてあった名前からして俺たちが居るのはこの地点だ。わざわざ描いてくれたのか、赤い点で現在地が示されていた。
「あ、やっぱそっか」
「あ? 何がだよ?」
「オレ達が居るのってやっぱり山の中だったなって」
「あ、ああそうだな……」
納得したような顔をするが、どの時点でこいつは気づいてたんだろうか?
確かに言われて見れば山特有の気候を感じる……訳ないか、都会育ちで。
俺は山に登った経験が無いので違いは分からない。ということはこいつはそうじゃないんだろうな。
それは別にいいが、この付近にある目ぼしい場所は俺達が元々いた神殿くらいしかなさそうだ。
ここから近い村でも、それなりに距離が上に下山しなきゃならない。
山頂付近の開けた場所にこの町があるとは言っても標高自体は高くなさそうだ、下山するにも然程苦労する事もなさそうだが……。
「とりあえずは下りてみない? それで近くの村に行って、それからまた別の場所行って~ってな感じでさ。オレいろんな場所行って美味しいもの食いたいな」
「やっぱり旅行感覚じゃないか……。大体、美味い物って……金はどうするんだよ? 手持ちに余裕が出来たって言っても稼がなきゃいつか尽きるぞ?」
「それはさ、やっぱバイト? その場所その場所で働くみたいな」
「バイトね。ま、確かにそれも一つの手だが。……いや、いっかそれでも。俺達は冒険者かもしれないが、わざわざ危ない橋を渡る必要も無いしな」
これがその手の小説とかだったら、ギルドらしき所に行って依頼を受けて……という感じで路銀を稼ぐんだろうが。
俺たちは冒険者としてはズブの素人だしな。力も無いうちに傭兵の真似事なんて、な。
「危ない橋って例えば?」
どうもこいつはその手の事に疎いらしく、お約束が分からないらしいな。
「依頼受けたりとか、魔物の素材集めて売ったりとか。まあ、つまりそういうことだ。でもお前が言ったようにバイトして稼げば……」
「いいねそれ! なんか面白そうじゃん、採用!」
「……は?」
いや、だから危ない橋を渡る必要なんて無いって今言ったばかりじゃないか!
「た、棚見お前な」
「せっかくだし、そういうのもやって行こうぜ! 何事も経験って言うじゃん? 学校じゃ教えてくれないオトナな社会勉強ってことでさ。お金稼げて美味しいもの食べて、一石二鳥! ……あ、この場合三鳥か。じゃサンチョー!」
何能天気なこと言ってんだこいつ?
そんな社会勉強は地球には無いし、それをわざわざここでやる必要もない。
「自分の力だって把握してないうちにそんな」
「だからさ! ソレも知っちゃおうってワケ。ガンガン敵ブっとばして、ガンガン強くなっちゃって! そんでお金稼いで美味しいもの食べて、一石二鳥! ……あ、この場合」
「どうでもいいそんなのは! 俺が言いたいのは」
「ヤバかったら二人で乗り越えりゃいいじゃん! オレと香月くんのサイキョーコンビに向かうとこ敵ナシってね!」
どこからそんな自信が来るんだ?
だが一つ分かっていることがある。こいつとの付き合いの中、こんなことを言い始めたらもう聞く耳を持たないという事だ。
……仕方ない、こいつやっていくと決めたのも俺だ。
自分を鼓舞するようなそんな気持ちじゃない、ただ自然な諦めの溜め息だ。
「はぁ……わかったよ」
「ヨッシ! じゃあいっくぜ~……!」
「おいなんだ急に!?」
ベンチから立ち上がった棚見に手を掴まれた俺の驚くを知らず、奴は……。
「ドーン!!」
「うぉお!?」
そのまま俺を巻き込んだまま、勢いよく走り出しやがった。
当然俺は為す術も無く転びそうになったが何とかこらえるも、いつ手に持った地図を振り落とすかと気が気で無い。
それでも何とか指輪の中に戻すも、未だ慣れない感覚と強引に手を引っ張られて走らされる感覚に酔いそうになるのを必死に我慢しながら、町の外へと連れ出されたのだった。
「おい、ちょっほんと……うっ」
「あ……」
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