WASTED NEW HOUSE

花森遊梨(はなもりゆうり)

手付金の帰る場所

ASSH年OL月22日

 

私は平山珠緒。

 20歳で大手製薬会社に所属している才女だ。

 

少し前に一流大学に入学し、このまま特に法律に興味がないのに法学部に入るか、特に医学に興味がないのに医学部に入るかして4年間学部をずっと変な空気にするとばかり思っていた。ところが大学は教育改革と称して入学式と卒業証書授与式を同時に行い、私は18歳で大卒になった。 

 

私は仕方ないので履歴書を書き、目についた適当な製薬会社に履歴書を送りつけた結果、まさかの内定。

 

 

大学と卒業の文字しか見なかった人事担当に「未成年とか聞いてなかったぞ!」と瞳孔全開で言われ、「ごめんなさい!会社都合退職で手を打ちます!」と言い返したのが入社式。

 

そして会社に在籍しつつ卒業したはずの大学の薬学部に頭からぶっ込まれて2年経ったこのご時世。


卒業式を控えた学生気分でフラフラと気楽に何も生産せずに暮らしているお前たちは間違いなく誤解しているようだ。だからそこ座れ。ハッキリ言ってやる。

 

500万円は大金なんだ。

 

 

殺し屋でもクレジットカードの審査に通るイカれたこの世界においてローンの審査に落ちる。そうして初めて手にできるのが500万という大金なんだ。


そのことをくれぐれも忘れてくれるなよ。

 

 

とりあえず、続きはストロングチューハイもう一缶開けてから…

 

ヒック!ま、ローンが通ってりゃ今ごろ家を競売にかけた上に「希望の船」に乗船を検討を考えれば安いもんか!

 

ASSH年OL月08日

 

 

私はこの東の京で成り上がっていく女、平山珠緒!

 

 

私はいま、私だけの住まいを建てる計画を進めている。坪単価90万円以上にして総額はもうここで明言するのは遠慮したいレベルの超絶怒涛激痛住宅ちょうぜつどとうげきつうじゅうたくである。

 

 

なぜわざわざ注文住宅にしたか?


一生の買い物だからに決まっている。

家というのは高い買い物だ。その辺で売り出してる建売住宅を自分のものにするだけでも貯金を全額失い、ローンを40年ほど払い続けることは避けられない。


これは重犯罪を犯さずにいきなり「無期懲役」の判決を受け、保釈金も没収されたも同然の事態なのだ。マクロ経済とは司法の限界など片足で軽々跨いでいくから恐ろしいのだ!


それならこちらも負けていられない。

一番守りたかった貯金を全て失った私はもうどこに出しても恥ずかしくない無敵の人。さすればなんの躊躇もなく自分がほぼ一生収監される刑務所じたくを北欧の刑務所とタイマン張ってKO勝ちするレベルに豪勢にするのはもう自然な話である。

 

そのために数多の物件を内見し、最強の部屋フォーメーションも編み出した。

 

家を買うのに内見なんか必要ない?ほう、面白い意見だ。それは誰が決めたのか?

 

内見とは生活感のないモデルハウスに行ってコミュニケーションの擬人化のような不動産社員に耐えることではない。


理想と現実のギャップを把握し、現実のを理想に合わせさせることを内見というのだ。ダイエットでやろうとすれば間違いなく不可能なことも、相手が住宅なら可能となる。

 

 そんな私の理想の部屋とは


・最初に客を通す部屋は三日前に見た高級マンションの一室を再現

ここはあくまで家の高級さをアピールするのが目的につき、生活感はゼロでよい。そして普段の生活でも絶対に生活に使用せず、ピカピカのモデルハウス状態を維持するのがベストだろう。

 

 

・団地っぽい広い部屋

これは先週に内見に行った説明責任つき団地の一室から着想を得た。


この部屋には、たくさんの友達を家に泊めるゲストルームになってもらう。そう、私の家に泊まる友だちの痴情が燃え上がり、サンゴの産卵の如く一斉に有性生殖を始めても良い部屋、それには古き良き痴情の舞台となった団地風の部屋しかあり得ない。

 

 

・私の仕事用の書斎

私の建てる家に私の好きにできる部屋を設けるのはメインミッション。これには昔ドラマの中でしか見たことがない書斎なんか最高だろう。


私は受験勉強とその準備に忙しかったという設定で一冊も本を読んでいないが、本棚には百科事典を詰め込む予定だ、家具を買ったと思えば良いし、一冊も読まなくても受験勉強の合間に買いあさったお宝をじっくり楽しむ「AV鑑賞専用部屋」にも転用可能になるため、本を読まない書斎は活かされるのだ。


他にも様々なプランがあるが、ここで語り尽くすにはあまりにもったいない。

 

それでも一つだけ言っておこう。


これから建てられるモノはもう私専用の刑務所とはとても言えない。

宇宙の闇さえ照らす栄光へのレールはもうすぐそこに見えているのだ。

 


懸念事項があるとすれば、この時点でいまだに手付金として貯金を全額払っただけで住宅ローンの審査が通っていないのである。 

 

手付金というもの家を建てる際に不動産屋に貯金の全額…ではなくその家の金額の一部を支払うものであり、向こうの都合でない限り返金不可である。

 

 ただし、「住宅ローンの融資を断られた」場合のみこちらの都合で返ってくることになっている。なのでもしも手付け金が帰ってきたとか、これ以降家の話なんて最初からなかったように別の短編が始まるなどした場合はそういうことだと思ってほしい。

 

 

天界から火を盗んで人類に与えて炎上したプロメテウスの意志を受け継ぎ、著名人やweb作家やたくさんのニュースに炎の恵みを授け続けている皆の衆(の蜃気楼)には今回ばかりは心優しい気遣いを期待している。

 

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