第8話 和解
放課後。蓮は、下校しようとする綾を呼び止めた。
「神崎さん。少しお話がしたいのだけれど、時間あるかしら?」
「私はこのあと用事があるの。それに、神白さんと話すことなんてない」
綾は振り向くことなく、嫌っている、という本心を剥き出しに低い声で言う。
「十分ほどでいいの、私に時間をくれないかしら?」
「なんでそこまで私と和解しようとするの? 春凪の友達だから? 春凪が悲しむから?」
「…………」
綾の問いかけに蓮は答えが出なかった。
(確かにそうよ……。なんで私は神崎さんと仲良くしたいの? 七海白さんが悲しむから? そのためだけに仲良くなりたいの? それって、あいつと同じことをしてるんじゃ……)
蓮の脳裏によぎったのは、中学時代、仲の良かった女の子だった。
「私は最低だわ……」
かつて、自分がされたことをしようとしてたことに気づき怖くなった。蓮は綾に深々と頭を下げる。
「ごめんなさい、神崎さん……。私、あなたが言うように友達の友達だから仲良くしようとしてたわ……。本当にごめんなさい……」
そんな蓮の姿を見た綾は少し驚いた。
(神白さんはプライドが高いから、てっきり頭を下げることなんてしないと思ってた……。……少しぐらい、話を聞いてもいいかも……)
「神白さん。少し、人気のない場所へ行こっか」
「え?」
「話があるんでしょ? 屋上へ行こ」
そう言って、綾は教室近くの階段から屋上へと向かった。蓮もまたその後を追うように屋上へと向かう。
昼休みには、昼食場所として利用する生徒も多いが、放課後の今は生徒の姿は見受けられなかった。運動場や体育館からは、運動部の掛け声が聞こえてくる。
「それで、話って何?」
「その、私のつまらない話だけど……」
蓮は中学時代の話をした。それは、簡単に言えば、蓮が友達だった女の子と仲良くするために、別の女の子が近づいてきたこと。そしてその女の子に、神白なんて友達だと思ってない、と言われたこと。それにより、人との関わりが怖くなったことを。
「そうだったんだ……」
話を聞き終えた綾は申し訳なさを覚えた。
「ごめん、勝手に嫌ったりして……。そんな理由があるって知らなかったんだ……」
「いえ、私のほうこそごめんなさい……。神崎さんからしてみれば、自分の友達がいつも話しかけてるのにそれを無視してる最低な人だもの。それに、神崎さんが正しかったもの。改めて、ごめんなさい……」
蓮はもう一度、深々と頭を下げた。二人の間に少し、こそばゆい雰囲気が漂う。対立していて和解したらどうしても照れくさいものが込み上げてくる。
綾はポケットからスマホを取り出し、蓮に提案する。
「ねえ、神白さん。春凪が、私たちの関係がどうなったか心配してるだろうし、写真でも撮って送ろっか?」
「え、ええ」
蓮と綾は互いから近づき、少しずつオレンジ色に染まる空を背景に写真を撮る。そしてそれを春凪に送った。
「神崎さん。これからは、友達の友達ではなく、一人の友達として仲良くなりたいと、私は思ってるわ。だから、今後、神崎さんのこと教えて欲しいわ」
「うん、いいよ! それにしても、本当にどうやって神白さんと春凪が仲良くなったの? 性格、真逆でしょ?」
「ごめんなさい。それは、七海白さんとの約束があって話せないのよ」
「そうなんだぁ……。まあ、話せるようになったら話してよ?」
「もちろんよ」
「じゃあ、帰ろっか。神白さんって電車通学?」
「ええ」
「じゃあ、駅まで一緒に行こ」
そうして、春凪の二人の友達は、友達の友達ではなく、互いに友達と呼べる関係になるために一歩踏み出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます