第7話 友達間の対立
翌日。
「おっはよ!」
いつものようにバッと教室の扉を開け、クラスメイトに元気に挨拶をする春凪。
「おは……」
挨拶を返そうとした綾だったが、隣にいる蓮を見て固まった。しかし、綾の反応は無理もないことだった。なぜなら、今まで、一人で登校していた蓮が、今まで誰とも話さなかった蓮が、性格が真反対な春凪と一緒に登校してきたのだから。もちろん、偶然という可能性もあった。しかし、前日に昼ごはんを一緒に食べていることからその可能性は薄い。だからこそ、驚いたのだ。
「どうしたの、綾ちゃん? 驚いた顔して」
「いや、だって……」
綾は視線を春凪から蓮に移す。
蓮はクラスメイトから嫌われている。何事にも反応しなければ、誰に対しても厳しく、冗談が通じないからだ。その上、容姿が整っている、勉強ができるということもあり、妬み嫌われているのだ。簡単に言えば、嫉妬だ。もちろん、そんな蓮を綾も嫌っている。
綾は蓮に聞こえない声量で春凪に尋ねた。
「あんた、神白の弱みでも握ったの?」
「どうして?」
「昨日もお昼一緒に食べてたし、今も一緒に登校してきたんでしょ?」
「それで、どうしてそんな発想になるの?」
「だって、今まで嫌われてたのに突然仲良くなるなんておかしいじゃない」
誰だって、今まで不仲だった二人が突然仲良くし出したら、綾のように思ってしまうだろう。
「う〜ん、共通点があった、みたいな」
「あんたと神白に? 優等生とバカに?」
「失礼な!」
綾の不躾な言い草に、不服そうに頬を膨らます春凪。
「具体的なことは言えないよ! だって、わたしと神白さんだけの二人の秘密だもん! ね? 神白さん」
話を振られた蓮は、二人だけの秘密、という春凪の言葉に嬉しさと恥ずかしさがあったのか、頬を淡いピンク色に染めて頷く。その表情に蓮を嫌っているはずの綾が「かわいい……」と漏らした。もちろん、綾だけでなく、春凪も蓮を見ていたクラスメイトも同じことを思った。しかし、嫌っているという事実が綾を正気に戻させた。
「というわけで、今日は親睦を深めるためにも三人でお昼を一緒に食べよ!」
「七海白さんがいいなら……」
「本当は嫌だけど、春凪の友達なら……」
そこで、ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
昼休み。食堂で昼を取ることにした春凪たち三人は、多くの生徒で賑わう食堂にやってきていた。それぞれ、注文した品を受け取ったあと、四人がけの席についた。春凪の隣に綾、そして、二人の真正面に蓮が座っているという状況だ。ちなみに、空気は一トントラックが乗っているのではと感じるぐらい重たい。
(めちゃくちゃ気まずい……。でも、二人とも友達だし、友達同士でも仲良くしてもらいたい……。ここは、わたしが場を和ませないと……)
春凪はそう思い、場を和ませようと会話のきっかけを作り始める。
「まず、お互いに自己紹介からしよっか! 知ってると思うけど」
もちろん、綾も蓮も互いの名前ぐらいは知っている。クラスメイトなのだから。
「神崎綾(かんざきあや)」
「神白蓮」
互いに名前を名乗っただけで、趣味や休日の過ごし方、好きな音楽などの話は一切なかった。
(こ、これは困った……)
流石の春凪も戸惑うしかない。
蓮は一度、綾に目を向けたあと、春凪に視線を戻し、気を使うように言う。
「ねえ、七海白さん。やっぱり私、邪魔じゃないかしら?」
「そ、そんなことないよ!」
「いや、めちゃくちゃ邪魔」
否定する春凪とは逆にあからさまな態度ではっきりと言う綾。
「ちょっ! 綾ちゃん!」
「だって事実でしょ! 今まで春凪を拒絶してたんだよ! なのに、いきなり仲良くなるなんて! そんなの何か裏があるに決まってる! そんな人と……」
「綾ちゃん!」
蓮を罵倒し続ける綾に、春凪は普段の声色からはとても想像がつかないほどのドス黒い声で綾の名前を呼んだ。そのことに、綾はハッとなる。もちろん、蓮も驚いている。
「綾ちゃん。いくらなんでも酷いよ」
「……っ!」
綾は罰が悪くなり、春凪から顔を背ける。そして、バッ! と立ち上がり、お盆を持って一人別の場所に移動した。空気は最悪だ。春凪は悲しそうな表情を浮かべ、蓮は申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめんね、神白さん……。綾ちゃん、いつもはあんな感じじゃないの……」
「知っているわ。あなたと話しているときは、いつも楽しそうだもの。私こそごめんなさい……。過去に一度、人との関係で失敗しているの……。それ以降、他人と距離を置いてきたから接し方がわからなかったわ……」
蓮はいつも独りでいる。それはどうやら過去の経験からだったようだ。
「でも、七海白さんの友達とは仲良くしたいと思っているわ。だから放課後、私から話しかけてみるわ」
「わかった……」
新人賞に向けて別の作品を執筆していたため、更新が一ヶ月以上、遅れてしまいました。
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