第6話 優等生の一喜一憂
学校を終え、家に帰ってきた蓮は制服のままベッドにダイブし、足をばたつかせていた。
(はぁ……、今日は生きてきた中で一番幸せだったわ……。ナナちゃんと友達になって、お昼も一緒に食べて。その上、ナナちゃんの連絡先までゲットして……)
「あぁ、幸せすぎるぅ……」
学校で見せるクールな印象はどこへやら。春凪の連絡先を見つめながら口元を綻ばせる蓮。普段の蓮なら学校から帰宅すると、まず取り掛かるのが勉強なのだが、今は幸せな時間を目一杯味わっていた。
「メッセージを送ってみようかしら……。でも、特に用事もないし……」
まるで、恋する乙女のようだ。好きな人と特に用事もないが、話したい、やり取りしたい。しかし、いざ送るとなると緊張して送れない。そんな様子だ。
蓮は悩みに悩み、意を決して送ってみる。しかし、春凪からの反応はなかった。それどころか、メッセージを見てすらいない。そのことに、蓮は不安を覚える。
「もしかして、無視してる? ……いいえ、そんなわけないわよね……。もしかしたら、他の友達と話してるのかしら? 私と違って友達も多いし。待ってる間に勉強でもしようかしら」
返信を待ちつつ、不安になる気持ちを紛らわせるため、蓮は勉強に手をつける。しかし、勉強が終わっても返信は来なかった。
「まだ、返信が来ないわね……」
スマホを確認するも、返信が来た形跡はなかった。
「蓮ちゃん! ご飯の時間よ!」
「わかったわ」
下の階にいる母親に夕食の時間だと教えられ、蓮はダイニングへと向かう。
(早く、メッセージ来ないかしら……)
蓮にとって春凪は初めて連絡先を交換した人物。そのため、こういう不安は初めてだ。メッセージでのやり取りを多く経験している人なら、相手側に何か用事があるんだろうなぁ、と納得できるのだが、やはり、初めてとなるとメッセージが届いてるのか、などで不安になってしまう。
春凪からの返信は夕食を食べ終えても来ていなかった。
「はぁ……」
食事中もメッセージのことばかりを考えていた蓮は、がっかりとばかりに大きなため息を吐く。
「仕方ないわ……。お風呂でも入ってもう少し待ってみましょう……」
もうこの時点で、メッセージを送ってから二時間が経過していた。しかしながら、お風呂から上がってきても春凪からのメッセージは来てなかった。
「やっぱり、無視されてるのかしら……」
(まあ、あれだけ拒絶していたんだもの……。仕返しされてもおかしくないわね……)
そう自分の中で無理やり納得させた蓮。と、そのタイミングでようやく春凪から連絡が来た。それも、メッセージではなく、通話で。蓮は慌てて電話に出る。
「もしもし!」
ようやく連絡が来たことに蓮は声を弾ませる。
『あっ、もしもし! 神白さん? ごめんね! 返信遅くなって! さっきまでバイトしてたからさ!』
「気にしないで」
(なんだ、バイトしてたんだ……)
『それで、何か用事?』
「えっ⁉︎ い、いえ、ちょっとお話ししたかっただけ……」
『そうなんだ!』
(何か話題……)
「そういえば、七海白さんってバイトしてたのね?」
『うん。あれ? 言ってなかったっけ?』
「ええ、聞いてないわ」
『そっか。わたし、月曜、水曜、金曜と夜八時までバイトしてるの。だから、その時間帯は連絡できないんだ』
「そうだったのね」
蓮はそれを聞いて内心ホッとする。連絡だけで一喜一憂するその姿は、やはり、恋する乙女のようだ。まあ、蓮の場合は恋、ではなく、推しという一種の好きなのだが。しかし、後に推しという好きの一種から恋愛対象になってしまうことを今の二人は知るよしもなかった。
その後も他愛のない話は続き、電話を切るのは、通話を始めてから一時間後のことだった。
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