第20話 これが俺の能力?

 黄泉は暗い洞窟にはまっている自分の家に到着する。何か武器はないかといろんなところを物色する。


「靴……傘……自転車……」


 ……ダメだ、玄関には武器になりそうなものは無い、次。


「ドライヤー、髭剃り、コップ……」


 ……風呂場もダメだ。後は部屋とキッチンだけだ。


「テレビに……漫画。カーテン……くそ、ダメだ」


 アニメやドラマで見た知識を絞り出してみるが、その辺にあるものでは到底ナックルベアに太刀打ちできる術が思い浮かばない。

 自分がスーパーヒーローならテレビをぶん投げ、カーテンで縛るなど、夢のようなアクションが思いつく。だが自分はスーパーヒーローなんかではない。普通の人間に少し毛の生えたぐらいの力では妄想を膨らませて失敗するのがオチだ。


「部屋でもダメか」


 黄泉は頭を抱える。残されたのはもうキッチンぐらいしかないが、あまり期待はできないと思っていた。

 俺は手に持っていた漫画を置き、懐中電灯をキッチンに向けて固定して捜索する。


 キッチンにあるのは調理道具、調味料、食材、お菓子。

 油があればファイヤーボールを使えるナードベアと連携できると思っていた。しかし今はタイミング悪く油を切らしていたのだ。


「包丁で戦えるぐらいならナードベアも怯えないよな」


 手に取った包丁を見つめてボヤく。

 俺の家で一番の武器といえば包丁だが、こんなもので戦えるほど現実は甘くない。


「甘くないか。あー、やばい。糖分欲しくなってきた」


 1日で頭をだいぶ使った黄泉は甘い飲み物が欲しくなる。甘い飲み物、ミルク、ヨーグルト、炭酸……コーラ?


「コーラ……コーラ、コーラ………コーラーーーー!!!」


 黄泉はコーラを連呼し始める。側から見ると駄々をこねているように見えるがそうではない。自分でもナードベアの手助けができる方法が1つだけ思い浮かんだのだ。


「お菓子お菓子………よし、『これ』は沢山ある。後は…」


 黄泉はお菓子の山から必要なものを見つける。そして問題のコーラについて考える。


 コーラは今この場には無い。冷蔵庫の中は空っぽであるのだ。でもコーラは今欲しい。飲むためではなく、戦いに行くために。


 俺は森での出来事を思い出し、あの言葉を口にする。


「P45P2R」


 森で聞い変な言葉。たまたまだがその羅列をしっかりと記憶していた俺は、それがコーラを生み出す魔法と信じて口にする。しかしコーラは出現しない。


「違うのか……でもこれしかないよな」


 俺はP45P2Rがコーラを産み出す奇跡の魔法だと信じた。


「P45P2R……… P45P2R、P45P2R。P45P2R、P45P2R 、P45P2R、P45P2R、P45P2R、P45P2R」


 俺は何度も何度もその呪文を口にして、最後はすがる思いで頭を下げて呪文を口にした。すると俺の目の前にボトッと何かが落ちる音がした。俺は顔を上げてそれを確認する。


「あ、あぁ、コーラだ!」


 目の前にはコーラの入ったペットボトルが転がっていたのだ。あれだけ連呼して1本だけしか落ちてこないのかと思い、俺はまたP45P2Rと連呼する。すると


 ボトボトボトボトボトボト!


 と今度は1本では無く大量にペットボトルが出現する。そのペットボトルを数えてみると俺がP45P2Rと言った数だけペットボトルは召喚されていた。


 俺は頭を回転させ、さっきと今で何が違うのかを考え、答えを出した。


「漫画か?」


 俺が最初P45P2Rと連呼しても出てこなかったのに最後だけコーラが出てきたのは、頭を下げて漫画に触れながら呪文を唱えたからと思った。


 立てた仮説を確かめるため、俺は漫画を持った状態と持ってない状態で呪文を唱えてみた。するとどうだ。漫画に触れている時だけコーラは出現し、触ってないと何も起こらなかった。まさかとは思うが……俺の能力?


「能力………え、ショボくないか!?」


 ヴァルドランの手紙にあった漫画を使って頑張ってくれという言葉を頭に浮かべ、悲しくなってしまった。俺の能力は漫画に触ってコーラを産み出すだけなのだろうか。


「いや、今はそれだけでもなんとかなるかもしれないんだ!」


 俺は自分の能力のしょうもなさを一旦忘れることにする。


 黄泉は漫画と大量のお菓子を抱え、ベアルピス村のサンタナ達と合流ため行動に移す。




 自分の能力のほんの一端だけを理解して。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る