第19話 忘れてた!
「書いたこと無くてもこれはねーだろ!」
黄泉は手紙を読み終え、怒り狂っていた。
自分の能力が分かればサンタナ達の助けになるかもという希望を胸に読んだ手紙には『…』、『え?』、『うんうん』などなど、誰かと携帯で話している会話を片方だけ聞かされるというような、なんとも言えない文章だった。
さらには今1番知りたかった自分の能力に関しては言うぞと言って、最後には文字数が足りないから書けないという肩透かしを食らう。
怒り狂った黄泉は手紙を破り捨ててやろかと感情的になりかけたが、即座にそれを止める。
ヴァルドランの手紙には今必要なことは何も書かれていなかったが、何か色々と気になることの多い文章はズラリと並んでいたからだ。
「マジで覚えとけよ、あいつ」
ヴァルドランへの怒りは最高潮。
いずれどこかの教会に着いたらローグとまとめて説教してやると心に決めた。
「くそ、どうする」
シルフィー、ユーゴ、サシャ、ザナトスと気になることは山のようにある。でも今はサンタナ達のことをどうするかを考えなくては。
手紙を読み終え、考えもまとまらない内に黄泉は洞窟の入り口まで戻っていた。
ベアルピス村に戻るには、また暗い洞窟を通って行くと想定していたので、隠れ家にナードベアを送る途中で家から懐中電灯を持ち出しておいたのだ。
「よし、これで洞窟は見えるように……」
懐中電灯を照らし洞窟内は見えるようになった。ミーナ達を置いて戻るからと懐中電灯を用意しておくという機転の利きは自分で言うのもなんだがすごいな俺……。でもなんだろう。よし行くぞという時になんだこの違和感。
黄泉は洞窟入り口目前で立ち止まってしまう。体が疲れて休む訳では無い。洞窟内の景色が変わったとかでも無い。黄泉は自分自身の行動に違和感を覚えていたのだ。
「何か重要な事を忘れているような」
1分1秒を争うかもしれない状況下で、俺は直感的に自分の抱いた違和感の原因を突き止めなくてはと思ってしまった。
なんだ?、何を不思議に思っているのだ?
黄泉は状況を整理し始める。
俺はミーナ達を隠れ家に送り届けた。間違い無くみんな揃って滝の裏にいるのを確認した。
手紙は読んだが今役に立ちそうな事は特に書いてなかった。あいつは役に立たない。
あいつといいローグといい、何が加護があればある程度生活できるだ。
能力も分からないし、家も訳分からんとこに詰められて真っ暗だし………家?。
……家……漫画?……懐中電灯……家。
「い、いえーーーーーー!!!」
黄泉は自分の違和感に気づき、大声で自分の違和感の答えを叫ぶ。違和感の正体、それは自分の手の中にヒントがあったのだ。
家だ、家だよ!
俺は家から懐中電灯を持ってきたんだ!
なんで気づかなかったんだ。松明から懐中電灯に変わった段階で気づくべきだった。忘れていた……俺は……
『異世界の人間』!!。
異世界から転生してきたこの世界の異物。
漫画にしても懐中電灯にしてもこの世界には無い物を持っている、家ごとお引越し転生者だった!
「まだやれることが何かあるかもしれない」
自分の異質さにやっと気づいた伊集院黄泉。
黄泉は止めた足を再び動かし、希望を残した家へと向かうのであった。
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