第16話 サンタナの覚悟と願い

 ナックルベアの急な来訪により急遽作戦を全部破棄した黄泉。村の入り口付近の高台でナックルベアの軍勢が向かって来てるのを肉眼で確認する。


「どうしましょうか、ヨミさん!」


 不安をあらわにするサンタナ。しかしかける言葉が見つからない。俺も不安でしかないのだ。


 背後から奇襲をかける作戦ですら大分甘い考えだったのに。それも無理となると正面から迎え撃つしか無いが、圧倒的に数が足りない。


 そもそも魔法というのがどれほどの威力なのかも直で見たことがないのだ。

 1人で何十体も相手にできるなら問題はないが、村人たちの不安がる感じから見てもそれは無理。

 せいぜい2体同時に相手できればいい方だろう。


「……ダメだ今週のサタデーじゃ次の案が出てこない」


 黄泉はサタデーに目を通し、ひたすらに考えるが、バトルパートが少なかった今週のサタデーでは得られるヒントがもうなかったのだ。

 そもそも漫画で案を出すなんて無理だったのではと思いながら、黄泉はあることを思い出した。


「やばい!、ミーナたちは!?」


 俺がサンタナにミーナたちのことを聞くとサンタナもやばいという顔をしてあわてふためく。


「すぐ避難させてください。避難場所などは?」


「む、村の裏側から入れる隠し洞窟があります。そこから隠れ家に向かえば」


「わかりました。では……」


 俺はその話を聞きホッとし、避難経路がしっかりさてるならナックルベアのことに集中できると思い、次の考えをまとめようとする。

 だがサンタナは


「ヨミさん!お話があります」


 と俺の話を遮って話を始める。険しい顔になり、サンタナは俺に提案してくる。


 サンタナの提案、それは黄泉も一緒にミーナ達と逃げることであった。男勢はナックルベアを迎え撃たなくてはならない。でも女子供だけで洞窟を抜けるのも苦労するかもしれない。そこで黄泉が同行してミーナ達を助けて欲しいと言うものであった。


「でもサンタナさん!」


「いや、ヨミさん。これ以上今日会ったばかりのヨミさんに迷惑はかけられません。ここは多分ですが戦場になると思います。この村のことを考えてくれて感謝しています。ただここまでです。最後にわがままですが、ミーナ達を……」


「………わかりました」


 俺はサンタナ達とここに残ってなんとかしたいと思っていた。

 だがサンタナの決意の顔を前にしてそれ以上何も言えなかった。


 サンタナも分かっているのだろういるのだろう。作戦が無駄になってしまった段階で俺がここに残っても役に立つことがないと。

 それならば俺も一緒に逃してミーナ達が無事でいてくれればいいのだろう。たとえ自分たちが犠牲になったとしてもだ。


「……お気をつけて」


「ミーナ達をお願いします」


「…はい」


 黄泉は戦士の顔になったサンタナに背中を向け、急いでミーナ達を避難させることを約束した。

 ミーナ達のところへ行く黄泉は情けなさを噛み締めながら戦場になるであろう村入り口を後にする。









 黄泉はミーナ達と合流してベアルピス村の入り口とは反対側にある秘密の洞窟へと向かっていた。


「ヨミお兄ちゃん、お父さん達大丈夫なのかな?」


「大丈夫!ミーナちゃん達を無事に隠れ家まで送ったら俺も戻るから。信じて今は急ごう!」


 俺は情けなくて悔しい気持ちを押し殺し、怯えて半泣きになるミーナに慰めの声をかける。ミーナは泣くのをやめてただひたすらに前を向いて走り、俺達は洞窟の入り口にたどり着く。


「ここが洞窟か……真っ暗で何も見えない」


「お兄ちゃん、これ持ってて」


 ミーナは俺に先が油で濡れた木の棒を渡してくる。それを手に持って前に突き出してて欲しいと言われ、俺はミーナの言う通りにする。


「フレイムボール!」


 ミーナの掛け声と同時にミーナの手のひらから小さな火の玉が出現し、ミーナは俺が持つ木の棒目掛けてそれを放つ。

 油のついた木は燃え始め、ちょうどいい感じの松明たいまつが出来上がった。


「それが魔法か」


「私のは小さいけどね。村の大人たちはもーとすごい火の玉になるんだよ!」


「そうか、それなら心配いらないね」


 大人達をすごいと自慢げに話すミーナはとても可愛いかったが、今はクマ耳少女にデレデレしている暇は無い。一刻も早く隠れ家に行き、村に戻って何か力になりたい。


 俺達は洞窟の中に入っていく。


 水滴がしたたる天井、モフモフとしたマリモでもついてるかのような壁をつたって急な斜面を下る……………ってあれ?この感じどこかであったような?


 黄泉はなんだろうと考えながらただただ洞窟を下に降り、ミーナ達の指示で突き当たりを右に曲がり、また真っ直ぐに進む。

 しばらく真っ直ぐ進んで突き当たりを右に曲がれば一度外に出れるのだが


「大変ヨミさん。道がふさがってる!」


 俺とミーナの少し先を歩いてた大人達が急に叫び出した。俺はミーナの手を引き急いで先頭と合流する。


「大変なんです!外に出るための道が何かに塞がれているんです!!」


「……いや、うん。これは大丈夫なやつです」


「え、大丈夫って。知ってるんですか?この大きな壁を!」


 俺は松明たいまつで彼女らが言う壁を照らしてすぐに理解した。


 鼠色のブロックで敷き詰められた壁。

 その壁の前には鉄の柵が張り巡らされている。

 壁には木の枠が付いていて、ガラスが2枚張り付いている。


 俺は柵を覗き、ガラスから見える向こうの景色を見て皆に伝える。





「ここ……俺の家です」







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