第12話 ベアルピス村到着

 熊達から逃げ切った俺は身を潜めて少し休むことにした。

 ミーナが小さな女の子であるとはいえ、担いで逃げるのは相当に疲れがあった。


「さっきの奴らはなんだったんだ?」


 俺は休憩がてらミーナにさっきのクマ達のことを聞く。


 ミーナの話によれば彼らはベアルピス村とは森を挟んで反対側に住む『ナックルベア』という種族である。そのメリケンサックのような名前の熊達は魔族であり、ナードベアとは対立関係にあるのだ。


 対立理由は種族によってヒューマンによる差別があることであった。


 獣人族の中には火に属する魔法が使える『ドランの加護』というものを持つものがいて、ナードベアもドランの加護持ちなのである。

 加護持ちの獣人を手厚くもてなすことがヒューマンの法律で定められており、ナードベアとヒューマンは昔から協力関係にあるのだ。

 ヒューマンは加護持ちに食料などを提供する代わりに、戦時には獣人族に手を借りる関係なのだとか。

 逆に言えば魔族であるナックルベア族には加護がなく、ヒューマンから迫害を受けている者もいるそうなのだ。


 ヒューマンからの扱いに不満を持つナックルベアはナードベアを目の敵にしており、つい最近まで小競り合いが続いていたのだと。


「種族間での格差か。この世界でもそういうのがあるんだな」


「この世界でも?」


「いや、こっちの話だよ。それよりナードベア達がミーナちゃんを捕まえようとしてたのはなんでなの?」


「私のお父さんがベアルピス村の村長だから。多分それであの人達は私を拐おうとしたんだと思う」


 怯えながら話すミーナ。


 こんな可愛い子を怖がらせるのやつは許すことができない俺だが……何かできることがあるのだろうか。


 とりあえずミーナを無事村に帰すことだけを考えて、俺はナックルベア達に見つからないようにベアルピス村に行くのであった。







 俺とミーナはナックルベアに見つかることなく、無事ベアルピス村に辿り着いた。

 ベアルピス村は入り口以外を丸太の壁で囲んだ小さな村。

 丸太の壁には争った形跡であろう引っ掻き傷が至る所についていた。


「ミーナ!心配したぞ!」



 入り口に着くや、壁の上からミーナの名前を叫ぶ男が一人いた。

 男は俺とミーナを見てすぐさま壁から飛び降りてくる。


「ミーナ!あれほど一人で出かけるなと言っていたではないか。心配したんだぞ!」


「ごめんなさい、サンタナ。でも私…みんなにご飯食べさせたくて」


 サンタナと言われるその男はミーナを叱りつけ、ミーナは1人で出かけたことついて謝る。

 ただミーナはナックルベアのせいで自由に村の外に出られない仲間のために食料を取りに行っていたのだ。

 サンタナもミーナの想いは理解できたため、それ以上怒ることはしなかった。


 俺はサンタナに自己紹介をして、ミーナと出会ってからここまでのことを話す。


「そんなことが。ヨミさん、ミーナを助けていただきありがとうございます」


「いえ、可愛い子を助けるのは当然です!」


「しかしミーナを狙ってくるとは……もう嫌がらせの域を超えている」


「そのことなんですが……」


 俺はミーナの話とナックルベアの行動を合わせて1つの可能性を考えていた。

 漫画でもよくある話だ。

 敵対する村長の娘を拐う、それは人質をとってから何か大きなことを要求してくるパターン。

 俺はサンタナにその可能性を伝える。

 そして俺とサンタナは話し合いの末、また1つの可能性を考えなくてはならなかった。




 ナードベアとナックルベアの全面戦争。




 俺は正直この世界のヒューマン、獣人、魔族の関係を全て分かっているわけではない。

 しかし可愛いミーナを無理にでも連れ去ろうとしたナックルベアの行動は、最近あった小競り合いの話を含めても何か仕掛けてくることは覚悟しておかないとまずいと思う。


「これはすぐに話し合う必要がありそうですな」


「そうですね。今日明日にでもナックルベアが村に攻め込んでくることも考えなくてはならないですね。入り口をしっかり塞いで、ドランの加護を持ってる人を壁の上に交代制で配置。前衛と後衛の部隊を編成して戦えば地の利があるこっちが有利なはず。あっ、あと戦えない人の避難経路なども確保しないと」


 俺は漫画で得た浅い知識を元にサンタナに準備することを伝えていく。

 それをサンタナは目を輝かせて聞いていた。

 そしてサンタナは俺の目の前で膝を着く。


「……ヨミさん、お願いがあります!」


 サンタナは頭を下げて願いを聞いて欲しいと言い出した。

 その願いを俺は予想できる。


「「我々にお力を貸して下さいませんか!」」


 ……だろうと思った。

 目を輝かせていた時点から少し嫌な予感はしていたのだ。

 俺の浅浅漫画知識を聞いて尊敬の眼差しを向けるということはナードベアは俺より戦闘の知識がないのかもと思っていた。

 ドランの加護持ちはヒューマンの戦闘に協力すると言っていたのに。

 戦略を練るというのは苦手なのかもしれない。


「……わかりました。あまり力になれるかわかりませんが俺の知恵が少しでもお役に立てるのなら協力しましょう」


 俺はサンタナの願いを聞くこととした。

 正直ミーナが可愛いということだけでナードベアに肩入れするのはどうかとも思っていた。

 ナックルベアがヒューマンから迫害を受けているということに同情する気持ちもあるのだ。


 何も起きないのが一番だが、多分そんなことにはないだろ。

 ナードベアとナックルベアの戦い。

 できることなど無いとは思っているが、ミーナが怯えないようにする手立てを少しでも模索できればと思い、俺はベアルピス村に入るのであった。


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