第11話 初めての異世界戦闘ですが
黄泉は熊の一体を標的として、頭の中で『やったれ、船橋くん』の戦闘シーンを想像しながら熊の足元に飛びかかる。
『やったれ、船橋くん第48話』
ヤンキー複数人に囲まれた船橋は一人を標的にして飛びかかる。倒れ込むヤンキーの足を持ち上げジャイアントスイング!襲いかかってくる他のヤンキー達を一掃する。
「よし、掴んだ。あとは持ち上げて……ってあれ?……………………!?」
「何してる!離せ、離さんか!!」
熊は足を掴む黄泉を足をばたつかせて振りほどく。そして自分が何をされたか足を見ながら慌てふためく。周りの熊達はそれを見て大丈夫かと心配するが近づいてはこず、離れた場所で黄泉を警戒する。
だが黄泉から何をされたのかは分からない。魔法なのか、それとも呪いの類なのか。色々と思考を巡らせる熊たちだとは裏腹に、黄泉は自分が重大な勘違いをしていたことに気づいた。
「嘘でしょーーー!?能力補正ってこんなもんなのーーー!!!」
俺は心の中で叫びに叫んでいた。
神様達から言われた転生時の能力補正。ある程度生きれるようにすると言われていたが、本当に『ある程度』しか変わってなかった。
岩をも軽々と砕く鉄の拳、何者にも傷つけられない強靭な身体、雲まで届くかのようなジャンプ力、全てを見通す眼力。そんなものはない。
どれぐらい変わったかとうと、体感だけどスポーツジムに2、3年通えば何とかなりそうなぐらいの変化。さっきの熊の攻撃を避けれそうだと思ったのもたぶん勘違い。動体視力がちょっと上がっただけの事。
ああ、神様見てますか?見てたら反省してください。異世界転生舐めすぎです。あなた達が言うある程度生きれるは多分『ヒューマンの中で』ってことだったんですね?
でも見てください現状を。目の前に熊がいます。元の世界でもこの状況は死にます。助けてください神様って言いたくなる状況の代表例です。
黄泉は神様の仕打ちには怒り心頭、狂いに狂い高笑を始める。
「あーもう、いいよ、いいよ、わかったよー。まじで許さないからなーーー。覚悟しとけよ!」
「貴様!我々に楯突く気か!何をしたかは知らんがやるなら生かしてはおかんぞ!!」
熊達は神様相手に怒り狂っているとは思っておらず、黄泉の怒りは自分達に向けられた敵意と捉えた。
黄泉は神様のことは後に回し、とりあえず目の前の現状を打破することを考える。
自分のやったことを順序だてて整理する。熊に囲まれ、(魔導書に見えるっぽい)漫画本を開き、熊の足に飛びついて、離れる。そのことを踏まえて今自分が出来ることはこれしかない。
黄泉は親指と中指をくっつけ、指を鳴らす準備をして熊達に腕を伸ばすのであった。
「鳴らすぞ?」
「!?。何を鳴らすんだ?」
「見てわからんか?指だよ、指。」
「指がなんだって言うんだ!な、鳴らしたら何かあるのか?」
作戦通りに怯えてくれた、熊達。
「わからないか?なら説明してやろう。お前の足にはさっき魔法をかけておいた。俺が指を鳴らせば……分かるよな?」
俺は熊達に声のトーンを落として熊達を脅す。それに呼応して熊達も恐れおののいてくれた。よしよし。
「俺とミーナはもう行く。追いかけてくるなよ?まだミーナを狙うようなことしてみろ?……鳴らすからな。いいか……そこを動くなよ。…………本当に動くなよ」
俺は熊達に背を向け、ミーナの肩と(柔らかくて気持ちいい)太ももを抱え、お姫様抱っこの状態になり、そして…………
全力で走った!
行く方向も分からない。どこまで行けばいいかも分からない。ただただ熊達の視界に入らなくなるくらい走りまくった。
怖い、怖い。いくら自分が身体強くなったところで熊には勝てませんって。あーもう、ミーナちゃんは柔らかいなーーー。
伊集院黄泉、異世界転生最初の戦闘はハッタリと逃亡で幕を閉じた。
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