ドラゴン大好きS級冒険者の客に、視点人物である不動産屋の担当者が、ドラゴンそのものを用いた住宅を案内していく。
玄関、リビングから始まり、多くの設備や部屋を経て屋上へと二人は内見を進めていく。生物であったドラゴンが、どのように高級住宅へと作り変えられたのか。その仕組みや様子が細かく描出される。その具体的な描写によって、不動産屋の担当者のプロとしての確かな能力と、S級冒険者の持つ経験や知識、能力が如何に並外れたものかが説得力を持つ。
例えば、ドラゴンが好きな人であれば、ドラゴンの遺骸を家に作り変えることへ抵抗感を覚えるのではないかといった疑問も、「ドラゴンを素材として用いたものを身に着けていたので高い確率でイケるだろうと踏んだ」とさりげなく説明する点など、とにかく丁寧にその世界の違和感や不整合を解決して、読み手の引っかかりを取り除いてくれる。この態度は、主人公の不動産屋としての丁寧な仕事と呼応しているようだ。
こうした丁寧さのおかげで、S級冒険者の一種の異常さが際立ってくる。ドラゴンが好き過ぎてテンションと他人への距離感が狂っている人物と、ツッコミ役としての主人公の、楽しい(じゃれ合いやイチャつきにも近い)やり取りが自然に展開されていく。
「オチ」と言い得るトラブルが、ラスト近くで住宅に発生する。これもここまで積み重ねられた住宅のディテールによって不自然さや唐突さから免れている。そこで終わらず彼らのじゃれ合いがもう一段続き、さらにお話の先を予感させるところに大きなサービス精神ないし作者の「こういうのが好きなんだ」を感じて楽しい。
(KAC第2回アンバサダー企画お題「住宅の内見」/文=八潮久道)